第161話 造酒品評会②
司会の進行によって最初の参加者が舞台袖から現れる。
「最初の参加者は、今回初参加のミードゥさん。エルフの森で蜂蜜酒を作られている方です。世界各地で催される大会でも高い評価を受けており、この度当品評会への推薦を受けて参加へと至りました。それでは今回提出していただいたお酒を紹介していただきましょう」
司会者が参加者が自身の席に着くまでに簡単な来歴を語り、席に到着する頃に参加者へ指示を出した。
「ご紹介に与りましたミードゥと申します。エルフの森で先祖代々蜂蜜酒を製造しております。今回提出させていただいた蜂蜜酒は、エルフの森にしか生息していないアルティマハニービーと言われる最上級の蜂蜜を作り出す蜂の蜂蜜を原料とし、水には世界樹の朝露と呼ばれる世界樹の葉の表面に朝付いた露を使っております。我が家はエルフ王家より特別な許可を得ているため、我が家以外にこの味を出すことは難しいでしょう」
参加者は簡単な自己紹介と、今回発表する酒の説明を行う。
ふむふむ。酒のことはそれほど詳しくないが、エルフの森ならではの蜂蜜酒って感じだな。
アレナの方を見ると、彼女もこちらを見てウンウンと頷いてサムズアップしている。
「ありがとうございました。それではさっそくご賞味いただきましょう。準備を」
説明が終わると司会の言葉に応じて幼い見た目のドワーフメイド達が審査員と俺達賓客に酒を手渡していく。
「大ジョッキ!?」
しかし、手渡された酒は舐める程度の量ではなく、かなりデカいジョッキを手渡された。俺はあまりのデカさに突っ込みを入れてしまう。
「何言ってんのよ。ここはドワーフの国よ?これくらい当り前よ」
「マジかよ……」
流石世界を渡り歩く最高ランク冒険者。リンネはこの国のこともよく知っているらしく、なんともないように俺を窘めた。俺は言葉を失った。
こんなん普通の人ならこれだけでへべれけになっちゃうだろ……。
ドワーフおそるべし。
「お酒が皆さんに行き渡ったようですね。それでは皆様、酒の神に感謝を込めまして……かんぱぁあああああああああああい!!」
司会が会場を見回して酒が行き渡ったのを確認すると、ジョッキを胸の前に持ち上げて目を瞑ったかと思えば、カッと目を見開いてジョッキを高々と持ち上げ、乾杯の音頭をとった。
ドラゴンの咆哮を思わせる叫びに俺は思わず顔をしかめる。
『かんぱぁあああああああああああ!!』
しかし、司会の音頭に続くように会場中からすさまじい叫びと共にジョッキが高々と舞い上がった。
うるせぇ!!
俺は思わず、左肩と右手を使って耳を塞いだ。リンネの方を見やると、何事もないように他のドワーフと同様の動作を恥ずかしがることもなく行っていた。そしてすぐさま蜂蜜酒に口を付けていく。
―ゴキュゴキュッ
辺りからは酒が喉を通る音が俺に聞こえるくらいハッキリと合唱を奏でていた。
「か、乾杯」
乗り遅れた俺は戸惑いながら小さな声で呟くと蜂蜜酒へと口を付ける。
「こ、これはう、美味い!!が、強いな……」
前世で蜂蜜酒を飲む機会なんてほとんどなかったので、蜂蜜のような甘い酒なのかと思っていたのだが、アルコールを感じた後に、蜂蜜のほのかな風味が鼻を抜けていく。
それにしてもドワーフの国の品評会だからか度数が高めな気がする。
「ここまで上品な蜂蜜酒はあまり飲んだことがないわね」
俺の隣でまんざらでも無さそうな顔を浮かべながらジョッキを眺めるリンネ。
しっかし、小学生くらいの見た目のアレナが大ジョッキを傾けて酒を飲んでいる絵面はかなり犯罪臭がするな。
「甘くておいしいね」
「こんな甘い物を飲めるようになるなんて思わなかった」
「甘い物も年に一回くらい食べたかなぁ」
「俺は肉がいい」
「にゃにゃー(中々美味しい)」
子供たちはお酒を飲ませるわけにもいかないので蜂蜜とレモンで造ったジュースを飲んでいる。イナホもジュースだ。
しかし、内容が中々ヘビーである。
「すまない……」
それを聞いていたカエデがシュンッと項垂れた。
「まぁ今は幸せそうだからいいだろ」
「う、うむ。主君のおかげだ」
俺はカエデを慰めると、キラキラとした眼差しを俺に向けた。
言えない!!
俺は忍術を見たくて助けただけだなんて口が裂けても言えない!!
もちろん見過ごせなかったという気持ちがあるのも嘘ではないが。
「なるほど」
「ふーむ」
「ほうほう」
「へぇ~」
「ふんふん」
審査員たちも各々口に含んでは味を吟味しているようだ。
「そろそろいいでしょうか。それでは審査員の方々には点数をつけていただきましょう。よろしくお願いします。点数が決まるまで賓客の方々にはお酒にあったおつまみをご提供いたします」
数分程味を堪能していると、司会が審査へと進めていく。
審査員たちは頭に手を当てたり、腕を組んで目を瞑ったりしながら頭の中で考えを整理しているようだ。
その間少し時間がかかるため俺達には簡単なおつまみが用意され、酒と一緒に食べながら審査員が結論を出すのを待った。
「それでは審査員の方々も点数が決まったようなので、評価を見せていただきましょう……どうぞ!!」
それから十五分ほどしてようやく全員の点数が決まり、羊皮紙のような固そうな紙に書かれた点数を国王から順にパタパタと上げていく。
「17、15、17、18、17、合計84点。これは最初からなかなかの高評価が出ましたね!!後の参加者にはかなりのプレッシャーになるのではないでしょうか。それでは審査員の方々からは簡単に感想を語ってもらいましょう。審査員長からお願いいたします」
司会が各々の点数を読み上げ、合計得点を提示してそれぞれの感想を尋ねる。
「うむ。全体的にきちんとまとまっていていい酒だった。しかしなまじ蜂蜜と水の品質が高いせいか、他の添加物が負けているように思う。この添加物に関しても負けない品質の物を使えばより美味い酒になったのではないだろうか。」
「確かに良い酒だったが、まだまだ先があると思う。先達として甘い評価にするわけないはいかない。より精進してほしい」
「私が飲んだ蜂蜜酒の中でも特に美味い酒だった。しかし、僅かに雑味を感じた。国王も言っていたが、蜂蜜と水以外にまだまだ改良の余地があると思う」
「私は自分の国の酒ということで肌にあったのかとても美味しくいただきました。万点ではないのはまだ発展途上という印象を受けたからです。これからもっと期待しています」
「うむ。確かに美味いが、酒精が足りん!!もっと強い物を作ってくれ!!」
まずは国王が、次に殿堂入りしているビルシュワ、ソーマ、アレナ、ホウの順で蜂蜜酒に関する感想を述べた。
「感想ありがとうございました。ミードゥさん、感想を受けて何かございますか?」
「なかなか高評価をいただきましたが、厳しい言葉もいただきました。今後より精進してもっとうまい酒を造っていきたいと思います」
「素晴らしい向上心ですね!!ミードゥさんありがとうございました。ご退場お願いいたします。皆さん盛大な拍手を!!」
「ありがとうございました」
司会とミードゥがやり取りを行い、最後にミードゥが頭を下げると、会場中から暖かい拍手が送られ、その拍手を背に舞台袖に彼は消えた。その後もミードゥと同じように参加者が次々と登場し、五人の審査員に評価されては消えていき、品評会は進行していった。
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