第176話 見学

「なるほどなぁ。そういうことだったか……超エキサイティング!!な経験をしてきたんだな」

「エキサイティングって……。いやスキルなかったら普通に死んでたからな」

「まぁ今生きてるし、楽しそうにしてんだからいいだろ、ガハハッ!!」


 バビロン内を見学する前に、グオンクにこれまでの冒険の経緯を説明行うと、面白かったのか、上機嫌に笑い始めた。


 この種族はあまり過去を引きずらない性質なんだろう。


 機嫌が直ったなら俺としては問題ない。


「そろそろ良さそうだな。それでは我がアトリエを案内してしんぜよう」


 俺たちの様子をいかにも厨二病っぽいポーズを繰り返し決めながら窺っていたワイスが、最高の決めポーズをドヤ顔でビシーッと決めてそう言った。

 

「よろしく」


 俺たちはワイスの案内に従い、工房の中を進んでいく。


 中は先ほどの空間同様、どこかの研究室や宇宙船の中のような雰囲気で統一されている。しかし、それぞれの部屋では工房という何相応しく、魔道具のような物を開発・作成している部屋、治療薬のような物を研究している部屋、武器や兵器を開発している部屋など様々な物の開発・作成が行こなわれていたらしい。


 作成はバレッタ達のような人格のあるタイプのアンドロイドではなく、命令に忠実なロボットようなタイプの人型の人形がワイスの操作によって命令を受諾し、作成を行うようだ。


 今は指示する主がいなかったため開発も作成もしておらず、施設の管理維持に必要なモノ以外は、所定の位置に座っているだけで動いている様子はない。


「主よ、何か制作しておくものはあるか?」

「そうだなぁ。この治療薬ってここで造れるのか?」


 俺はそう言って散々お世話になってきた治療薬を取り出してワイスに見せた。


「それは『万物の異常を治せし至高の薬』ではないか。それは作るのが中々に手間がかかるため、一日に千本作るのが限界だ!!」

「一日に千本も作れれば十分だ!!」


 いかにも悔し気な顔で述べるワイスだが、そんだけ作れた問題ないだろう。


「なんと!?それでは『歴史の裏で世界を操りし混沌』の集団と戦うには足りないのでは!?」

「なんだ?そのいかにもな組織の名前は!?」


 え!?何その超怪しい組織。

 これからそんな組織と戦う羽目になるの?

 一日千回も死にかけるほどの傷を受けるかもしれない戦いは流石におじさんにはきついんだけど……。


『その組織は所有者が人生最後の仕事として壊滅させました。末端の家族に至るまで徹底的に駆逐済みです』


 俺とワイスの会話にバレッタが登場。


 あっという間に世界、ひいては俺の危機は去った。


 ふぅ……。良かった。そんなシリアスは俺の冒険には必要ないぜ!!


 それにしても大分苛烈な粛清だな。

 蟻の子一匹逃がさないぞ、という強い意志を感じる。


 まぁ取り逃したら自分以外の誰かが犠牲になるかもしれないと思えばこその苛烈なのかもしれないが。


「この声は我が親愛なる長姉バレッタ。あの組織は大変厄介だったはずだが?」

『前所有者には造作もないこと。ただ前所有者にとっては特に放っておいても害がなかったのでこちらから積極的にどうにかしようとしなかっただけです』

「そうであったか。ではなぜ最後に駆逐を?」

『そういえばあなたは早くに休眠に入っていましたね。答えは『混沌(あいつ)ら……駆逐してやる! この世から……一匹残らず!』というセリフを死ぬ前に言いたかったそうです』

「なんと、そのセリフは前所有者が人生で行ってみたいセリフランキング100の中にあるセリフではないか。なんとも前所有者らしいことだ」


 マジか!?前の所有者はそんなことを言いたいがために、世界を混乱にもたらしそうなほどの組織を壊滅させちゃうの!?

 バイタリティパネェな!!

 それに言いたいセリフのためにそこまでやる漢気、そしてロマンを愛する心、尊敬に値する。これからは師匠と呼ばせてもらおう!!


『前所有者は女性です』

「な……んだと……」


 初耳!!初耳ですよ、バレッタさん!!


 それはさておき。


「千本も作れるなら今はそんなにいらないから一日十本くらい作って倉庫に入れててくれ」

「うむ。承知したぞ、我が至高なる主よ」


 俺は話を本題に戻して指示を行った。


 一通り見学が済んだ後、俺達はひと際大きな扉の前に立った。


 そう何か重要なモノがありそうな、重厚で頑丈でセキュリティがガチガチな格納庫のような場所へ通じる扉。


「ここまでは前菜に過ぎない。ここからが本番だ。この先に、前所有者が愛してやまないものが置いてある。心してみるがいい」


 扉の前でワイスがくるりと振り返り、ニヤリと口角を吊り上げた。 

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