第154話 久しぶりの再会
「それで一体どうするつもりなの?鍛冶大会への参加なんて……」
話を終えて宿に帰る途中にリンネが俺に尋ねた。
「何言ってんだ?チームでの参加だから俺が打つ必要はないし、鍛冶師と言ったらリンネもよく知っている人物に伝手があるだろ?」
「うーん……」
リンネは腕を組んでウンウンと唸りだす。
鍛冶師と言っても中々思い浮かばないらしい。
めっちゃ世話になった人がいるだろうに……。
「俺の最初の刀を打ってくれたのは誰だよ」
「あっ!!グオンク!!」
俺が助け舟を出すと、リンネはようやく閃いたという表情になった。
「やっと思い出したか」
「そ、そうよ。でも、忘れてたわけじゃないのよ?グオンクは鍛冶師ってより保護者って感じだから中々結びつかなかったのよ!!」
俺がジト目を送ると、リンネは慌てて苦しい言い訳をする。
「まぁいいか。それでグオンクなら勝てると思うか?」
「そうね。ドワーフの鍛冶師もいくらか見たことがあるけど、いい線はいくと思うわ」
俺がリンネに尋ねると、彼女は顎に手を添えて目線を空に向けて悩みながら答えた。
「優勝確実って訳にはいかないか」
「流石にそうでしょうね」
アルセリオン随一の鍛冶師グオンクでも本国のドワーフも含めると流石に厳しいか。
「それならそれでちょっとズルい技を使うからイケると思うんだよなぁ」
「どういうこと?」
「無限図書館に行くのさ」
「なるほどね。図書館にある本で鍛冶技術を学ぶのね」
「そういうこと」
どや顔で語る俺に、リンネは掌に拳をポンっとついて答えた。
超古代に伝えられた鍛冶技術がどの程度今の時代の鍛冶に応用できるかは分からないが、あれ程の本があるなら今の時代に合った鍛冶の本もあるはずだ。その本を読めば全て取り入れることはできなくても、グオンクをインスパイアさせることができるのではないかと思う。
「それなら確率はかなり上がりそうね」
「だろ?後はグオンクが引き受けてくれるかどうか次第だな」
「それなら大丈夫だと思うわ。いつも奉納祭の時期になると大会の話をしていたし。それに参加しない一番の理由は、移動時間でかなり時間がかかってしまうせいで店を長い間閉めるのが嫌だったみたいだから」
リンネがそう言うなら結構期待できそうだな。
「なるほどな。グオンクには船のことや俺のことを話してもいいと思っているから、移動時間はゼロにできる。用意して貰った工房もあるし、期間中の鍛冶はそこでやってもらえばいいだろう」
「そうね。それじゃあ、早速行ってみましょ」
「そうだな。あっそうだ。皆も連れていこう」
俺達だけで行ったら後でブーイングを受けること間違いなしだ。
「それもそうね。宿に戻ったら皆を連れてアルクィナスへ向かいましょう」
「ああ」
俺たちはカエデたちと合流して早速アルクィナスへと向かった。
「これはこれはリンネ様とケンゴ様じゃないですか!!お久しぶりです。そろそろご結婚ですか?」
「だからそんなすぐに結婚しないっての!!」
ニヤニヤしながら尋ねる門番との久しぶりのやり取りを終えて俺たちは街に入場する。
全くあいつらときたら……。
「わぁ~!!いろんな人がいる!!」
「ホントだぁ!!」
「凄い凄い!!」
「肉はどこだぁ!!」
中に入ると俺が初めて来た時と同様にあまりに雑多な種族のいるこの街に子供たちは大興奮。もちろんキースはいつも通りブレないが。
エルフの国も、獣人の国も、ドワーフの国も、どの国もここまで雑多な人種が集まる国はなかった。やはりそれぞれの国のメインとなる種族がほとんどを占めていて、冒険者の国であるアルセリオンのようにどの種族も一定数暮らしている国は実はこの世界ではかなり珍しいようだ。
どの国もやはりその国の主な種族以外の種族は、差別があったり、差別こそない者のやはりどうしてもよそ者という印象を受けてしまう。しかし、ここは元々様々な種族の冒険者たちが集まってできた国の首都。そういう雰囲気が一切ないのが魅力の一つだろう。
その分荒くれ者や後ろ暗い者も多いからその部分は大いに気を付ける必要はあるが。
「おっちゃん、久しぶりだな」
「だから俺はおっちゃんじゃねぇ!!……ってケンゴじゃねぇか。リンネの嬢ちゃんも。久しぶりじゃねぇか。どうしたんだ?」
「ああ。ちょっとグオンクに用があってな。そのついでにおっちゃんの店に寄ったんだよ。こいつらも食べたそうにしていたしな」
俺は子供たちに視線をやると、子供たちが涎を垂らして屋台の下に並んでいた。いやイナホも含めて5人か?
特にキースは目の前の肉に釘付けになっている。
「おう。なんだか大所帯になったな。お前の子か?」
「んなわけないだろ。俺の部下のカエデの養い子たちだ」
俺にニヤリとした視線を向けるロドスに俺は投げやり気味に返した。
リンネとはそれなりにいたしているのでいつできてもおかしくはないが、今のところリンネの体調の変化がないところをみるとまだできてはいないだろう。
あれだけしたのにできていないのならやはりリンネの種族が関係しているように思う。見た目は人間だが、他種族の血が入っているらしいからな。
それにここを出てまだ数カ月。そんな早く子供が出来てここまで成長するはずもない。とはいえ俺もこの世界の人種の生態に詳しいわけじゃないが。
「ほう。そんな年で子供たちを拾って育ててるのか。そりゃあ凄い。俺はロドスってもんだ。よろしくな」
「私はカエデという。よろしく頼む」
感心するような視線をカエデに向けたロドスに対し、カエデは特に表情を変えることもなく挨拶を返した。
「それで何本だ?」
「そうだな。8本くれ」
「了解」
注文を聞いたロドスが肉を焼き始める。
しかし、数があっていない。明らかに子供たちの分が倍になっている。
「ん?数が多くないか?」
「はっ。そっちの嬢ちゃんに感心したからおまけだ」
『わーい!!』
子供たちはロドスの粋な計らいにもろ手を挙げて喜んだ。
「すまないな」
「いいってことよ、気にすんな」
「そうか。感謝する」
子供たちに苦笑いを浮かべた後、カエデはロドスに礼を言った。
「んじゃまたな」
「おう、また来いよ!!」
肉串を受け取った俺たちはロドスと別れて食べ歩きながらグオンクの店へと向かう。
「ハグハグ」
「モグモグ」
「パクパク」
「ガブガブ」
子供たちは肉に夢中になっている。しばらく歩き続けると、ようやくグオンクの店に辿り着いた。
「グオンク!!いるかしら!?グオンク!!」
リンネが最初に来た時と同じように叫ぶと、
「なんじゃ!!うるさいわ!!そんな大声出さなくても聞こえておる!!」
そう言ってグオンクが怒鳴りながら店の奥から出てきた。
「よう、久しぶりだな」
「おお、ケンゴとリンネじゃねぇか!!久しぶりだな!!」
俺が苦笑いを浮かべて声を掛けると、目をぱちくりさせた後、来客が俺達だと気づいたらしく、険しい顔つきを和やかなものに変えてグオンクが応じる。
ここにいたころと変わらず快活に笑うその姿は、ドワーフの中のドワーフって感じだ。
「それでどうしたんだ?何か用があってきたんだろ?」
カエデたちの挨拶や少し雑談をした後、グオンクがそう切り出す。
「ああ、それなんだが……」
リンネが言う方が良いと思った俺は、リンネに目配せすると、
「グオンク、ドワーフの国の奉納祭の鍛冶大会に出てみない?」
彼女は俺の言葉を引き継いでグオンクにその提案を持ち掛けた。
「は?」
グオンクはその提案に眼を見開いて間抜けな声を上げてしまった。
まぁ唐突過ぎて分からんでもない。
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