第131話 いざ初めての海へ

 冒険者ギルドでは面倒なので適当にやり過ごし、その日は今までできなかった港町観光と市場での大人買いを実行した。


 クラーゲンが倒されたというのが広まっているのか、すでに漁に出ていた船もあったようで魚介類もふんだんに市場に揚げられていて、ついつい買いすぎてしまったのは仕方がない事だろう。


 もちろん地元民に配慮して問題なく買える範囲で買いまくったので大丈夫なはずだ。


「よう。来たな」


 次の日、ゴードに指示された船の前にやってきた。そこにはゴードと、いかにも船長って感じの黒い帽子をかぶったゴードより年嵩のドワーフが立っていた。


「ああ、それでそっちの人は?」


 ゴードを見ながら視線で年嵩ドワーフを刺して尋ねる。


 見た目から大体予想は出来るけど一応確認しておかないとな。


「うちの船長のガストンだ」

「おう、俺が船長のガストンだ。一昨日は酒をおごってくれたらしいな。しこたま飲んで溜まっていたストレスが発散されたわ。ありがとよ」

「いや、気にしないでくれ。俺は冒険者のケンゴだ。こっちは同じく冒険者のリンネ。部下のカエデ。ペットのイナホ。そして面倒を見ている子供たちのリリ、ルーン、キース、ヘインズだ」


 にこやかに笑うゴードに紹介されたガストンが手を差し出してきたので、俺も手を差し出し、お互いニヤリと笑って握手をした。


 思った通り船長だったな。

 それにしてもグオンクにそっくりでいかにもドワーフって感じで渋くていいな。


「それで俺らの国に行きたいんだって?」

「俺らの国ってのがドワーフの国ならそうだな」

「そうか、お前らには一昨日の礼もあるし、乗せてやってもいい。ただし……」

「何か条件があるのか?」


 勿体ぶるガストンに訝し気な表情で尋ねた。


 変な条件じゃないといいが……。


「そうだな。船の護衛をしてくれるか?」

「なんだ、そんなことか。いいぜ。でも俺達でいいのか?」


 拍子抜けだった条件に一も二もなく了承したが、俺達に頼んでいいのか疑問に思う。


 俺達とは初対面だし、冒険者と名乗ったが実力も不明で、その上子連れ。逆にそんな相手に護衛を頼んでいいのだろうか。


「ああ。まぁ建前って奴だ。普通に載せたら料金貰わなきゃなんねぇしな」


 ガストンの答えに納得する。


 確かに一般客になったらそういうこともあるか。建前でも護衛にしておけば雇っている代わりに船に乗せるということが可能になる。こちらとしてはありがたい限りだ。


 でもそういう好意を示してくれるとこっちは逆にやる気が出る。


「なるほどな。大義名分ってやつか。でも護衛なら任せてくれていいぜ。これでもSランク冒険者だし、リンネはSSSランクだからな」

「任せておきなさい」


 俺の返事に合わせてリンネがウインクしながら胸をポンっと叩いて応える。


 はい可愛い。


「はぁ……こらたまげた!!むしろこっちが金を払わなきゃいけねぇか?」


 ガストンは目を丸くした後、小悪党のような笑みを浮かべた。


 こういうなんていうか悪だくみしてるみたいな雰囲気っていいよな。


「いやいや、ドワーフの国まで乗せてくれるだけでいい。他の高ランク冒険者はしらないがな」

「そうか。なら安心して頼むとするか。一応後で他の護衛も紹介するから仲良くしてくれ」


 俺も悪い笑みを浮かべて肩を竦めながら答えると、ガストンはカラカラと笑った。


「了解」

「んじゃ、船に乗ってくれ」

「ん?もう出発なのか?」


 船と陸を繋ぐ板へと向かおうとするガストン達に俺は尋ねる。


 すぐ出発とか速いな。

 俺ら待ちだったのかもしれないな。


「何か問題でもあるのか?」


 振り返って不思議そうに首を傾げるガストン。


「いや、まさか挨拶に来てその日のうちに出発とは思わなかっただけだ。速く出発できるならそれは願ったり叶ったりだ」

「なら問題ないな」

「そうだな」


 首を振ると、ガストン達が船に乗り込んでいったので、俺たちも彼らの後を追って船へと乗り込んだ。

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