第117話 あ、あれが伝説の例の部屋だというのか

 俺たちは急いで地上へと戻り、兵士に取り次いでもらって獣王の執務室へと向かった。


「おう、帰ってきたか。どうだった?」

「それよりも今っていつだ?俺たちがあの遺跡の中に入ってどれくらいの時間が経った?」


 獣王はいつも通り快活に笑って俺たちに尋ねるが、そんな獣王を無視して俺は詰め寄った。


 そんなことはどうでもいいんだよ。

 まずは確認が先なんだ。大事な事なんだぞ!!


「お、おう。大体2日って所だぞ?」


 俺の剣幕に気圧されたのか、困惑気味に答える獣王。


「マジか……」


 俺はその現実についついため息を漏らしてしまう。


 ドゥラゲンボールで主人公が強大な敵と戦うために修行したという、伝説の『本能と禁欲の部屋』。英霊の園のあの結界内が……本当に、外の世界の1日が部屋の中の1年に相当するというあの部屋と似た性質を持っていたというのか!!


 俺は思いがけない浪漫との遭遇に愕然とした。


「おい……本当に大丈夫か?」


 そんな俺を獣王が心配そうに見つめる。


 ふぅ、少し落ち着こう。

 深呼吸。ヒッヒッフー、ヒッヒッフー。


「ああ……ちょっとあまりの現実に理解が追いつかなかっただけだ」

「そうか……。それでどうだったんだ?」


 落ち着いた様子を確認した獣王が俺に尋ねる。


「ああ、試練の祠は踏破した」

「なんだと!?」


 獣王ががたりと席を立つ。


 まさか踏破するとは思っていなかったのだろう。俺に負けたとはいえ、自分の力にもかなり自信を持っていたはずだ。

 

「それで、試練の祠は何階まであるんだ?」

「80階までだ」

「なんだよ、後少しだったんじゃねぇか」

「そうだな。今なら踏破も出来るんじゃねぇか?」


 ちぇっと詰まらなそうにつぶやく獣王に、俺はニヤニヤしながら返す。


 いやぁ、四天王の四人目は物理攻撃特化のこいつにはキツいだろうし、よしんば攻略できたとしても、流石に1億年前の100問クイズはこいつには絶対無理だろう。


 俺達もアンリからのカンニングがなければ絶対クリアできなかった。


 でも面白そうだから煽っておいた。


「お、そうかもしれないな。今度挑戦してみるか」

「獣王様、そんな時間はありませんよ?」


 乗り気になっている縦横に、隣りからシンが釘をさす。


 確かに獣王なんて地位についてると中々まとまった時間を取るのも難しいだろうな。つくづくそう言う面倒な地位には付きたくないと思ってしまう。俺は自由気ままな冒険者稼業かどこかで粛々と働いてるのがお似合いだろう。


「いや、だから、ちょっと息抜きにな?」

「そのツケが今の状況です」

「うっ」


 それでも獣王が食い下がろうとするが、机に積みあがった書類の山をシンに指さされて言い返す言葉もなくなる。


 獣王って事務仕事は物凄く苦手というか嫌いそうだもんなぁ。


「そ、そうだ。ケンゴたちに手伝わせよう!!」

「そんなこと出来るわけがないでしょう。ケンゴ殿は完全な部外者ですよ!?いくらリンネさまのお相手で仲がいいからと言って、言っていいことと悪いことがありますよ?」

「だってよぉ……」

「だっても、ヘチマもありません」


 なぜか俺たちにとばっちりが来そうになったが、シンが正論で黙らせてくれたおかげで事なきを得た。


「あんたって相変わらずねぇ」とリンネが頬杖をついて呆れている。


 いやいや、全く関係ない俺たちに獣王の仕事を押し付けようとすんなよな。

 こんなのが国のトップで大丈夫なのか?

 いや、おそらく周りが優秀で、武力一辺倒のこいつを様々な面からサポートしているんだろうな。


「んじゃ、俺達はこの辺で失礼するぞ。またそのうち挨拶にくる」

「お、おいちょっと待て!!」

「獣王様、まだ話は終わっていませんよ!!」


 俺たちはシンの説教を受ける獣王を尻目に、そそくさと部屋を出た。


 これ以上、ここにいるとなんだかとんでもないことになるかもしれないからな。厄介事からはサッサと距離を取るに限る。


 俺達に与えられた部屋へ向かう。しかし、中庭に差し掛かったところで、快晴で燦燦と指す日の光が、突如として遮られ、辺りが薄暗くなる。


「な!?」


 上を見上げるとそこにあったのは空に浮かぶ島だった。

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