第098話 喝(リンネside)
私の心配をよそに、ケンゴは武術大会を順調に勝ち進んでいた。
もちろん分かっている。ケンゴが負けるはずなんてないって。
でも心配なものは心配なのだ。
それにしてもケンゴは凄い。修行している時もそうだったが、自分が戦った相手の武術をあっという間に取り込んで自分のものにしていく。
私も見た当時は本当に驚いた。
だって一日素振りと型の稽古をしただけである程度できるようになってしまいっていたのだから。
「相変わらず凄いわね……」
私はついつい呟いてしまった。
「んにゃ?」
イナホが膝の上でから私の顔を見る。
私には何を言っているか分からないけど、どうしたの?という表情をしているように思う。
「どうしたんだ、奥方様?」
イナホを見ていたら、隣のカエデから話しかけられた。
カエデは黒猫獣人の女の子。『魔法忍者カエデ』の主人公に見た目がそっくりで名前も同じなの。
なんだか運命を感じるのよ!!
「ん、えっとね、ケンゴってこの大会に出るまで剣術以外やったことないのよ」
「なんと!?それは誠か?」
私が呟いた理由を話すと、カエデは驚愕していた。
「そうよ。もちろん私と剣術をやってるから基礎的な部分はあると思うけど、それ以外は一切何もしていないわ」
「私も小さなころから厳しい修行をして技術を習得した。それはとんでもない話だ」
私の言葉に、獣王と戦うケンゴに視線を戻してカエデは言う。
ほんとにそうよね。
私も師匠に見いだされてから、剣を教わって毎日ひたすらに剣を振っていた。何年も振ってようやくものになった。
自分でいうのもなんだけど、これでも師匠にはお前以上に才能がある奴は見たことがないって言われるくらいには才能があった私でさえ、それだけの時間がかかった。
でもケンゴは一度ぶつかり合うたびに、その動きが洗練され、より研ぎ澄まされたものに変わっていく。
一体どうなってんのかしら。多分バレッタが何かしてるんだろうけど。
バレッタも何考えてるのか分からないしね。
「あっ!!」
「あっ!!」
私とカエデの声が重なる。
ケンゴが獣王に吹っ飛ばされたわ!!
インフィレーネを使ってないのね、相手と同じ土俵で戦ってるってことなのかしら。
それだとさらに心配になってきたわ。
ここまでなんとか食らいついてきたけど、流石に今のままじゃ厳しいかしら。
獣王の奴が追撃してるわ。
ここで決めるつもりね。
「主君は大丈夫なのか?」
「なんとかするでしょ。最悪は奥の手あるし」
「そうなのか、それならいいが……」
獣王はケンゴの前で拳を振り上げる。
私の横でカエデが心配そうに見つめている。
何してんのよ!!このままじゃ負けるわよ!!
さっさとインフィレーネでも魔法でも使ってぶっ飛ばしちゃなさいよね!!
獣王ごときに心配させないでよ。
「奥方殿!!このままじゃ主君が!!」
「いや、大丈夫、ここからのはずよ!!」
その言葉の通り、ケンゴからまばゆい光が放たれた。
「ほらね!!」
「そうだな。っていうかなんだあの光は!?」
「凄い光ね。また何か新しい技を覚えたのかしら?」
「主君はホントに凄いな!!」
私たちはきゃぴきゃぴと喜んで話していたが、その和やかなムードは一転する。
「ふはははははははははははははは!!」
ケンゴが突然笑い出し、ケンゴが纏う青白かった光が真っ黒な禍々しいものへと変化していた。
そして次の瞬間、それまで押し込まれていた獣王を軽々と殴り飛ばし、壁へと追い詰め、なおも甚振るように殴り続けていた。
「何やってんのよ!!まるで悪の化身みたいじゃない!!」
「一体主君に何が起こってるんだ!?」
「多分自分の力に振り回されてるんだわ」
「そ、それは大丈夫なのか!?」
「今のままじゃ不味いわね……」
私は爪を噛んでケンゴを睨みつける。
ケンゴは尚をも殴って殴って殴り続けている。
獣王の闘気の鎧はすでに剥がれおち、体中から鮮血が散って、地面に水たまりを作っていた。
ケンゴは獣王が動かなくなったの確認すると上空に向かって放り投げる。
「一体何する気なの!?」
ケンゴは腰だめに構えて黒いエネルギー全て足先に集めていた。
すべて螺旋を描くように体を動かして技を放とうとしていた。
足先に集められた黒いエネルギーは各部を通るたびに爆発的に唸りを上げて強大になっていく。
流石にあれは不味い!!
「ケンゴそれはだめよ!!やめなさい!!」
私は咄嗟に叫んでいた。
そして立ち上がってさらに続ける。
「何やってんのよ!!私の恋人ならそれくらいの力、制御してみせなさいよ!!カッコ悪い真似してんじゃないわ!!さっさと目を覚ましなさい!!」
あんなケンゴは見ていられない!!
私の恋人はもっとカッコイイんだから!!
そんなわけわからない力に負けないでよね!!
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