第097話 のまれる

「ハァ……ハァ……化け物かてめぇわ。人の武術バカスカ吸収しやがって……」

「そっくりそのままその言葉を返すわ。その俺を軽々おさえてんだからよ」


 あれから幾度となく技を繰り出してぶつかり合ったが、お互い決定打には至らず、膠着状態が続いていた。


 俺は獣王の武術を観察し、それを取り入れ動きを最適化して洗練されたものへと昇華していく。


 それを獣王はなんなくあしらっていた。


 こっちは魔導ナノマシンとかのアシストあるから分かるけど、あっちは一切ないんだろ。全く持って身体能力チートだぜ。


「全くしょうがねぇ、これだきゃあ使わないでおこうと思ってたんだけどよ、使うしかねぇみてえだな」

「全くこの期に及んで切り札かよ。やってられねぇな」

「はっ。わりぃがこれは時間制限付きだ。いっきに決めさせてもらう!!羅刹門開門!!」

「うわっ!!」


 獣王の言葉に合わせて、奴の体から膨大な量の闘気があふれ出す。


 なるほど、これが本当の切り札か。


 ちっ、こっちにはそんなもんないってのによぉ!!


「ハァ……ハァ……わりぃが今回はおれの勝ちだ」

「それは俺に勝ってから言うんだな!!」


 俺は苦し紛れのセリフ吐いて構えた。


「はぁっ!!」

「ぐはっ!?」


 なんだぁ、バレッタアイでも見逃すほどのスピードかよ。


 いや違うな。見えても俺の体が反応できなかったんだ。


 シンの時とは桁が違うダメージに体がギシギシと悲鳴を上げる。

 本当に丈夫になったんもんだ。


 でも俺は確かに殴られていた。


「ぐっ!!」


 さらに獣王の猛攻は続く。 


 辛うじて間に合ったガードの上から殴られ、カードごと吹き飛ばされた。


 俺は地面をゴロゴロと転がり、タイミングを見計らって体勢を立て直して、地面を膝をついた状態で後ろへと引きずられていく。


「おらぁ!!」


 畳み掛けるように目の前に獣王が現れて追い打ちをかけてくる。


 体勢を立て直すチャンスもやらねぇってか。

 くそっ。速すぎる!!


「がはっ!!」


 俺は顔面をぶん殴られて吹っ飛んだ。


 ゴロゴロと地面を転がり、壁に追い詰められる。


「止めだ!!獣王羅刹拳」


 拳に闘気を集中した一撃が俺に迫る。


 インフィレーネに頼るしかないのか?

 

 俺は背中を壁に預けて朦朧とする自分に問いかける。


 いや、まだ自分の力でなんとかしたい。

 

 それなら魔法に頼るか?


 いや、魔法にも頼りたくない。


 それならどうする?

 もう本当に他に手段はないのか?


 まるで走馬灯を見る時のように、ゆっくりとせまる獣王の拳を見ながら俺は考える。


 獣王か……。マジで強いじゃねぇか。

 はははは、やるねぇ。


 ん?獣王?


 何かひっかかる…………。


 なんだ?何が引っかかってるんだ?


 目の前の獣王は闘気鎧装を纏って俺に迫っている……。


 あっ!!あるじゃん!!目の前に!!


 俺はすぐさまもう一つの力を体に纏わせる。

 流れは全て見ていた。


 今なら2つを合せることも出来る!!


「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」


 俺の体から青い光が立ち昇る!!


―ガキンッ


「な、なに!?」


 獣王の拳をその光が弾き飛ばした。


「こ、これは……この光はまさか……竜気!?バカな!?」


 俺の目の前で獣王が間抜けな顔をしている。


―コワセ


 頭の中で何かが叫ぶ。なんだかボーっとしてきた。


―コワセ


 目の前から赤以外の色が消えていく。


―コワセ


 目の前にゴミがいる。壊して捨てないと。


―コワセ


 ああ、そうしよう。


「ふはははははははははははははは!!」

「な、なんだ、この黒い気は!?」


 せっかく人が気持ちのいい気分で浸っているのに目の前のごみが何かわめいている。

 つぶそう。


「ふん」

「ぐがぁ!?」


 ゴミが後方へと飛んでいく。


 俺はそれを追いかけてまた殴る。


「がはぁ!?」


 ゴミが壁にぶつかってぐったりとしている。


「ひぃ!?」

「な、なによあれ」

「化け物……」


 見渡せば周りにはゴミがあふれているじゃないか。

 全部粉々して捨てないと……。


 いやその前にまずはあの大きなゴミを処分しよう。


「ぐふっ」

「ごほっ」

「ごぱぁっ」


 俺はごみを持ち上げて殴る殴る殴る。


 こいつは中々頑丈なゴミだ。


 念入りに壊すとしよう。

 

「やめっ!?ぐはっ」


 別のゴミが何かを言っているが、邪魔だ。


 軽く振り払うと別のごみは静かになった。俺は大きなゴミを空に放り投げた。


「虚界絶無螺旋掌」


 俺は静かに呟いた。


 腰だめに構え、足先に気を集める。


 そして、足先から足首、足首から膝、膝から腿、腿から腰、腰から胸、胸から肩、肩から腕、腕から手を全て螺旋の動きをつなぐように動かす。


 足先に集められた気は通り道を通るたびに渦巻きながら肥大化していく。


「ケンゴそれはだめよ!!やめなさい!!」


 俺の耳に良く聞いた声が聞こえた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る