第093話 本戦1回戦

 一日寝続けて明けた翌日。俺たちは再びシンに連れられて後をついていく。

 たどり着いたのは昨日とは打って変わって、巨大なコロシアムだった。


「こりゃあ、立派なもんだ」


 地球で実際に見たことはないが、写真で見た古代ローマのコロッセウムを完全にしたみたいな感じだ。


「獣王国建国以来ずっとあるというから、歴史もかなり古いのだ」


 俺の独り言に答えるように呟くシン。


 国の建国からある闘技場か……凄いものだ。


 入り口を通り、暗いアーチ状の天井のある道を進んでいく。


「さっさと叩きのめしてきなさいよ!!」

「主君、ご武運を」

「にゃーん(頑張ってね~)」


 リンネ達はここで分かれ、リンネ達は係員に案内され、観客席にいったようだ。


―コツコツコツコツ


 俺たちの足音だけが辺りに木霊する。


 道の奥に小さく光が見える。その光が徐々に大きくなり、暗い道を抜けると、


『ウォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』


 怪物の叫び声のような怒号が耳を突き刺した。


辺りを見回すと、観客席と思われる場所は獣人達に埋め尽くされ、座っている客だけでなく、立ち見もいる。もはや詰め込めるだけ詰め込みましたというすし詰め状態だった。


 その客たちが俺が姿を現すなり、一斉に声を上げたらしい。


 全く昨日の今日で元気なもんだぜ。

 いや、脱落してった奴からすぐに退場してくんだから疲れは俺だけか。


 俺はシンに連れられ、コロシアムの真ん中へと連れてかれた。

 中心に着くとまだ俺の相手の姿はまだない。


「静まれぇええええええええええええええええええい!!」


 俺が一に着いたのを見て、コロシアムのVIP席のような場所に座っていた獣王が立ち上がって、たった一人なのに観客たち全員の声を上回る大きさで叫び、辺りは静けさを取り戻す。


「対戦者入場!!」


 獣王の声に応じて俺の視線の先にあった大きな扉が開き、一人の戦士が颯爽と歩いてきた。


『ウォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』


 入場に合わせ、観客席からまた叫び声が上がる。


 徐々に大きくなる姿に正体が明らかになった。


 相手は小柄で服で見えない部分を除いて全身をある程度毛でおおわれており、ゴリラに近いような出で立ちをしている。


「おう、オラは猿人族のウッキーだ。よろしくな!!」

「おう、今日はよろしくな」


 お互いに握手し合って、和やかな雰囲気になる。


「俺が勝って美味しくいただいてやるからよ」


 しかし、グイっと腕を引っ張られて顔を近づけられたと思ったら、耳のすぐ横でそう言われて途端に剣呑になった。


「せいぜいあがいてくれよ?」


 ニヤリと見下すように笑うウッキー。


 こいつ絶対泣かす!!


 俺はそう心に決めた。


「両者位置につけ」


 今回もどうやらシンが審判らしい。


 シンの合図で俺たちは互いに白い線が引いてある位置へと移動して向かい合った。


「それでは…………」 


 辺りが一瞬の静寂に包まれた。


「始め!!」

『ウォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』


 開始の合図と同時に、先ほど入場した時に匹敵する叫び声が上がる。


「ウッキー!!」


 ウッキーが猿のような声を出しながら身軽な動きで右に左に視線を定められないように動きながら俺へと迫る。


 本当に猿さながらの身のこなしだ。


 ふむ、確かに予選で戦った奴よりも速いし、隙も少ない。


 しかしそれだけだ。


「ウッキー!!」


 声と同時にウッキーの拳が俺の体を捉えようとする。


 俺はその拳をギリギリ、本当に掠らないぎりぎりのところを躱してやった。


「ウッキー!!」


 動きは止まっていないが、まさか躱されるとは思っていなかったのか、目を見開いて顔に驚愕が浮かんでいた。


 分かりやすい奴だ。


「ウッキー!!」

「ウッキー!!」

「ウッキー!!」

「ウッキー!!」


 それから何度もウッキーの攻撃を紙一重で躱してやる。


「ふっ」


 ついでに嘲笑付きで。


「ムッキー!!」


 見下していた俺に侮辱されて顔を真っ赤にして怒るウッキー。

 

 奴はさらに加速して攻撃を仕掛けてきた。


 それでも俺は涼しい顔でスイースイーと滑るように避ける。


「ほれほれどうしたどうした」

「くっそー、なぜ当たらない!!」


 話しかけてる間もウッキーはあの手この手で仕掛けてくるが、当たらない。


 そりゃそうだ。


 まるでスローモーションのように見えてるんだから躱すのも容易い。


 俺はその間もウッキーを観察していた。


「ハァ……ハァ……」

「どうした?もう終わりか?」


 ふふふ、言いたい言葉ランキングを自然に言ってしまったな!!


「くそくそくそ!!」


 そして俺はここで追い詰めるように構えを取る。


「それはまさか……いやそんなはずはない……一戦見ただけで俺の猴拳ができるはずは……」


 そう、俺は奴の構えを真似したのだ。


「確かこうだったか?」


 俺は奴の動きを真似て、動きを捉えられな用に縦横無尽に動き出す。


「くそっ。どこだ!!目でおえねぇ!!」


 俺の身体能力で実行される猴拳はもはやウッキーのとは別物で、ウッキーの物をさらに昇華した武術になっていた。


 もはやウッキーは俺を捉えることができない。


「ちくしょぉおおおおおおおおおおおお!!」


 俺に攻撃することが叶わずやけくそ気味叫ぶウッキーの後ろから俺は迫る。


「ぐはっ!!」


 首に一撃を落としてあっけなく気絶させた。


「勝者、ケンゴ!!」


 気絶を確認したシンが判定を下す。


『ブゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ』


 こうして獣人全体からヤジが飛ぶ中一回戦は勝利に終わった。

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