第091話 命を勝ち取れ

「一体どこから!?」


 シンは突然現れたカエデに驚きを隠せない。


「ふははは!!許せ。街の者たちを蹴散らしたお前の強さに興味があってな」

「そんな軽いノリでいきなり攻撃されたら、された方は迷惑でしかないな」


 しかし、そんなシンの様子を意に介すことなく、俺との会話を進める男。

 豪快に笑うその男に俺はため息を吐いて答えた。


 おそらくこの男も最初から気づいていたのだろう。


「無事だったんだからいいだろ?がっはっは!!」


 そういって獣王らしき男は俺の肩をバシバシと叩く。


 力つえぇし、いてぇよ!!


「獣王様……まずは自己紹介を」

「おっとすまんな。俺が獣王カイザーだ。よろしくな!!」


 シンが諫めるように呟くと、少し離れて向き直り、自分を親指で指さして獣王が名乗った。


 全く持って王らしくないな。

 むしろよく王なんてできるものだ。


 他の国の相手にあんなことしたら下手したら、いや下手しなくても国際問題になりそうだ。


「俺はケンゴだ。冒険者をしている。一応Sランクだ。こっちは部下のカエデとイナホだ」


 俺の自己紹介に合わせて姿を現してしまったカエデは頭を下げ、頭の上で寝ていたイナホは目が覚めたのか、右前足を上げてニャーと鳴いた。


「ほほう。Sランクか。Sランク如きじゃ俺の攻撃は受け止められないはずなんだがなぁ。それにここまでシンに気付かれずに侵入できる奴がいるとは驚きだ」

「も、申し訳ございません」


 シンは慌てて頭を下げる。


「いやいい」


 頭を振った後、俺達を品定めするように眺めるカイザー。


 男に見つめられても嬉しくないんだからね!!


「まだ冒険者になって2カ月程度だからな」

「なるほどな。2カ月でSランクになっているということはそれ以上の実力者か。SSランクからは面倒な手続きがいるからな」

「まぁな」


 答えを示すと、腕を組んでウンウンと頷いて獣王は納得している。


「あんた、相変わらずね」


 俺たちの様子を見ながら呆れたようにリンネが呟く。


 どうやらこいつの行動はいつものことらしい。

 リンネが呆れてしまうのも無理はないだろう。


「ん?リンネじゃないか。なんでここにいるんだ?」


 今気づいた、といった表情でリンネに視線を向ける獣王。


 俺に気を取られてリンネに気付いていなかったようだ。

 リンネは顔見知りみたいだったから紹介に入れなかったしな。


「そりゃあ、私がケンゴの関係者だからに決まってるでしょ」

「関係者だぁ!?どういうこった?」


 リンネの返答に、まるで信じられないものを見たとでもいうような顔で獣王が問い返す。


 リンネが誰かといるという事実がまず受け入れがたいことのようだ。


「ケンゴが、わ、私の恋人だからよ」

「……」


 モジモジと恥じらうように返事をするリンネに、獣王は彼女を指をさしながら口をパクパクしている。


「何よ!!何とか言ったらどうなの!?」


 しばらく無言で餌に集まる魚のように口を開いたり閉じたりしている獣王に噛みつくリンネ。


「お、お前……恋人って熱でもあるんじゃないのか?」

「ないわよ!!私に恋人がいたらおかしいっての!?」


 獣王は心配そうにリンネの額に手を当てるが、バシッと彼女に振り払われる。


 こら、人の恋人に気安く触るんじゃない!!


「ボッチリンネに連れ、それも恋人がいるなんて言われてもなぁ」


 獣王は憐みの視線をリンネに向けた。


 リンネの奴本当に以前は一体どんな生活してたんだ?

 俺は今のリンネにしか知らないから結構気になるな。


 今度こっそり獣王に聞いてみるのもいいかもしれない。


「ボッチじゃないわよ!!あ・え・て一人でいたのよ!!」

「はいはい、分かってる分かってる」

「分かってない!!」


 ガルルと威嚇しながら答えるリンネに、獣王は手をひらひらさせてあしらっていた。


「俺は分かってるから大丈夫だぞ、アレナもいるしな」

「ケンゴ……」


 俺が後ろからポンポンと頭を撫でると、救いの神はここにいた、と言わんばかりの表情で俺の方を向く彼女。


 うむうむ、アレナは友達だもんな。

 一人友人がいれば全然ボッチじゃないぞ!!


「マ、マジで恋人してやがる……」


 一方で獣王はさらに驚愕していた。


「ウォッホン!!……獣王様、そろそろ本題を……」


 話が進まないことに業を煮やしたのか、シンが咳ばらいをして話を戻す。


「おっと、あまりの衝撃で忘れてたぜ」

「忘れないでくれよ」

「わりぃわりぃ。それでな別に誰かをぶっ飛ばすのは構わねぇんだが、流石にあれだけ街を騒がせちゃあ、無罪放免とはいかねぇ」


 騒乱罪とかそういう感じか?

 それをそのまま放っておいたら流石にマズいか。


「なるほどな。それで?」

「お前には一週間後に開催する武術大会に出てもらう」


 武術大会!!なんて心躍る響きだろう!!


 力自慢の豪傑たちが集まり、己の技を競い合う。


 例えば、名作のドゥラゲンボールや幽々黒書などで開催された大会は皆が手に汗握ったのではないだろうか。


「ふむ」

「それで優勝すれば無罪放免、負ければ体を差し出す。どうだ?」

「負けたら喰われるってことか。逃げたら?」

「まぁそういうこった。お前からめちゃくちゃ旨そうな匂いしてるからなぁ!!そうでもなきゃ収まらんだろう。逃げたら俺がどこまでも追いかけて処分することになるだろう」


 うほ!!代償は命か!!まさに暗黒な武術大会じゃないか!!


「ふざけないでよ!!なんでそんなことになるのよ!!相手から吹っかけてきたんだから問題ないでしょ!?」


 我慢ならなかったリンネは獣王に食って掛かる。


 心配してくれるのね、ありがとう。


「ふざけちゃいねぇ。獣人は強い奴には従う。弱い奴は虐げられる。そんなもんだ。それにお前たちに原因がないとは言わないだろう?」

「そりゃそうだけど……」


 獣王の言葉にリンネは何も言えなくなる。


 確かに俺達に原因があると知りながらここまで来たんだからな。

 そう言われてもしょうがない。


 それに俺もおっさんだが男。

 そういう武術大会には憧れがある!!


 基本的には魔法やインフィレーネを使わないで戦うつもりだが、にっちもさっちもいかなくなったら使えばいい。

 それに最悪全員で船に逃げれば追ってこれないんだから何も問題なし!!


「リンネいい。はん、面白い、上等だ。やってやろうじゃないか、天下一武術大会!!」

「いや、別に天下一ではないんだが……」


 猛烈にやる気を出した俺に、獣王はなぜか困惑気味だが知らん!!


「あ、でも一つ条件というか、優勝したら褒美のひとつでもくれよ」


 俺はここに来た目的を思い出す。

 せっかくだから優勝の褒美としてもらうことにした。


 やっぱり武術大会の優勝者にはそれなりの褒美がないといけないよな!!


「どんな褒美がいいんだ?」

「ああ。古代遺跡があるらしいじゃねぇか。そこに俺たちが入る許可をくれ」

「な!?あそこは代々の獣王しか入れない場所。それは許可できないかと!?」


 俺が古代遺跡の入場許可を求めると、シンが顔に驚愕を貼り付けて褒美を拒否しようとする。


 ほほう、古代遺跡はそういう場所なのか。

 尚更いかないとなぁ。


「いやいい。優勝したらあそこに入る許可をやるよ。それから白金貨500枚もやろう」

「男に二言はないな?」

「ああ」


 しかし、獣王が俺の求める褒美を許可してくれた。


 それに白金貨500枚のおまけつきだ。

 別にお金に困っちゃいないが、あるに越したことはない。

 ふふん、これで何も問題ないな。


「わかった。それで大会まではどうしたらいいんだ?」

「開催の準備が整うまではここに居てもらう。流石にここなら一般人も来れないし、お前を見ても正気を失わないやつが多い。面倒毎にも巻き込まれないだろう」

「了解」

「それじゃあシン、案内してやってくれ」


 俺たちは武術大会までの1週間、この城で過ごすこととなった。

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