第089話 伴侶と臣下
「あんたは誰だ?」
「ぐぅ……。なんという引力。これでは民が正気を保てぬのも道理だろう。おっと失礼した。私は獣王近衛部隊隊長のシンと言う。よろしく頼む。」
俺が問いかけると、シンは顔に手を覆うように当てて一瞬ふらついた後、正気を保ったまま俺に自己紹介をした。
ちょうど日が昇ったのでバーサクモードを堪えているのか、バーサクモードになる時間が終わったのか定かではないが、呟きを聞く限りは前者だったのだろう。
「俺はケンゴ。冒険者だ。こちらこそよろしくな。それに街を騒がせて悪かったな」
「いや、普段であれば民同士の決闘などは何も問題ないのだ。しかしこの度の件は、街全体いや、国全体に及びかねない。そのため私が事態の収拾にやってきたという訳だ」
辺りの惨状を見れば確かに只事じゃないからなぁ。
「そうか。俺は罪に問われたりするのか?」
「いや、ケンゴ殿は誰かを殺したわけではないし、襲ってきたものを返りうちにしただけだ。その件に関しては何の罪も問うつもりはない」
ふむ、リンネの話していた通り、ぶっ飛ばしたが特に問題ないようだ。
「そりゃあよかった。それで俺はどうすればいいんだ?」
「うむ。話が速くて助かる。早朝に申し訳ないが、実は獣王様が直接会って今回の件を話されたいそうだ。お会いしていただけるか?」
どうやら獣王自ら沙汰を下すようだ。
どうせ古代遺跡は国で管理してるっぽいし、遅かれ早かれ会う必要があったから、不幸中の幸いというかなんというか。
「ああ構わんよ。ただし、連れがいるんで宿に寄ってもいいか?」
「そうだな、問題ない」
俺はシンを連れて宿へと向かった。
その間、シンを恐れてか襲い掛かってくるものはいない。しかし、カエデの姿も見えない。ただ、探知にははっきりと映し出されている。
どうやらシンに見つからないようにしているようだ。なにか関係でもあるのか、忍者としての矜持なのかはわからないが。
それにしてもシンはそれなりの強者、そんな相手から隠れおおせるとは恐れ入る。レベルが上がってさらに隠形に磨きがかかったのかもしれない。
「おーいリンネ、帰ったぞぉ」
「ふぁ~、おはよう。お早いお帰りね」
「zzz……」
シンを入り口に残し、宿の自室に戻ると、リンネが伸びをした後俺に挨拶をした。イナホは相変わらず寝てばかりいる。
もうちょっと起きててもいいと思うの。
食ってる時しか起きてないまであるぞ。
「おう。ようやく少し落ち着いてな。それでこれから王城に行くことになった」
「やっぱりそうなったわね」
リンネは案の定といった表情を浮かべている。
「そりゃそうだよなぁ。外は死屍累々って感じだしな」
「私もついていけばいいのね?」
「そうだな。知り合いなんだろ?」
「まぁね。それじゃあ行きましょうか」
「ああ。あっとその前に紹介したい奴がいるんだ。カエデ」
リンネは部屋から移動しようとするが、俺は思い出して引き止めた。
「はっ」
俺の声を合図に姿を現すカエデ。
うーん、膝をついて頭を垂れ、まさに忍びって感じでエクセレント!!
「あら、さっきから気配を感じるとは思っていたけどあなただったのね。敵意を感じないから気にしなかったけど」
「流石主君の奥方様。私の隠密に気づいていたとは……。主君と言い、お二方はとんでもないな」
驚く様子も見せないリンネに逆にカエデが驚愕する。
「リンネはSSSランク冒険者だからな。流石に気づくだろう」
「ふふふ、それほどでも。それにしても……あなた……名前はカエデっていうのね?」
「ええ」
「やっぱり!!魔法忍者カエデの主人公にそっくりなのよ!!あなたいいわぁ!!」
リンネは感極まってカエデにギュッと抱き着いていた。
確かにどこかで見たことがあるなぁと思っていたら、猫耳と尻尾を除くと『魔法忍者カエデ』の主人公にそっくりであった。
「や、やめてくれぇ」
カエデはリンネに抱き着かれて困惑気味だ。
確かに自分の知らないものにそっくりだと言われても何がなんだか分からないし、あまり良い気もしないだろう。
「リンネその辺にしておけ。下にシンを待たせているからな」
「あら、私としたことが。カエデごめんね」
「いや、問題ない」
俺がとりなすと、リンネはばつの悪そうな顔を浮かべながらカエデからパッと離れて謝罪し、カエデは首を振ってそれを受け入れた。
「シンが来てるなら早く行かないとね。あいつがうるさいから」
「獣王か?」
「そうよ。あいつ短気だから」
「そりゃあ大変だな。さっさと行こう」
リンネが渋い顔をして語るので、俺たちはそそくさと準備をしてイナホの首根っこを掴んで頭の上に乗せ、シンと合流した後王城へと向かった。
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