第088話 戦闘の終わりにやってくる者
俺たちに群がる輩とは別にあちらこちらから矢が射られ、俺たちに向かって殺到する。
「黒猫忍術『影壁』」
しかし、カエデの忍術が火を噴いた。
カエデの影が円状に伸びて、俺と自分が納まる大きさになったら、円の端の部分が垂直に立ち昇り、矢を防ぐ。
「なにそれカッコよすぎるんだが!?」
「お褒めいただき、恐悦至極」
俺が称賛すると、カエデもまんざらでも無さそうにニヤリと笑った。
「黒猫忍術『影苦無』」
影の壁が下りた瞬間に、すぐさまカエデが漆黒の苦無を投擲する。
「ぐぎゃ!?」
「ほごっ!?」
「ぶへっ!?」
まるで飛んできた場所を完全に把握しているかのように敵に吸い込まれた。そして当たった瞬間に苦無の形状を失って帯状になり、巻き付いて敵を拘束して動けなくさせた。
「ひゅー」
くっそー!!俺も忍術したい!!
嫉妬エネルギーを糧に俺も負けじと近づくやつらを無力化していく。
インフィレーネを使えば全く問題ない事ではあるが、こうやってサポートされながら戦うのも悪くないな。めっちゃ楽。
リンネはサポートというよりは率先して倒しに行くタイプだから、むしろこっちがサポートする立場だ。
今までサポートを受けていなかったから、支援というのはめちゃくちゃ大事なんだと改めて実感した。
俺たちはそれからも只管に倒し続けた。
町中はもはや屍山血河と言っても過言ではないくらいに気絶した獣人達であふれかえっている。
これ本当に大丈夫なのか?
そんな疑問を浮かべるが、手を止めることはしない。手を止めるとこっちがやられるしね。いやカエデもいるし、インフィレーネもあるから実際にはやられないんだけど。
「はぁ……はぁ……流石に夜通しってのは堪えるなぁ」
「ふふ、主君もまだまだ修行不足と見えるな。まぁあれだけ動けば仕方がない気もするが」
「これでも毎日の鍛錬はかかしてはいないんだが。歳だな」
「いやいやそんなことを言ってはいかんな。主君はまだまだ若いぞ、むしろ一番脂がのっている時期だろう」
俺たちは倒すのにも大分慣れてずっと会話しながら獣人を蹴散らしている。
獣人達はあまり卑怯なことをしてこないので対処も楽。
だからもはや作業と化していた。
「最近まで中年太りのおっさんだったんだがな。恋人のおかげでスッキリしたわ!!」
「ほほう。すでに伴侶となる予定の方がおられるのか。流石だな!!」
「ああ、俺にはもったいない相手だ。今日獣人達をねじ伏せたら会わせ、よう!!」
「うむ。主君の奥方になる方だ。我もしっかり挨拶しなければ、な!!」
敵を蹴散らしながら次の敵が来る一瞬の間に背中を合せて会話を続け、そしてまた敵を無力化しに駆け出す。
周りはいつしか明るくなってきて、日が昇りつつあった。
そういえば、いつ頃正気に戻るのかは試していなかったな。
今のところまだ正気に戻ってはいなさそうだ。
「うーむ。日中は正気に戻るはずなんだが、まだ戻らない、な!!」
「彼らがこうな風になるのは夜だけなのか。なんとも不思議だ、な!!」
「おそらく俺の持ってるスキルのせいなんだわ。巻き込む形になってすまなかった、な!!」
「なんと!?そうだったのか……。いや、主君が謝ることなどないだろう。むしろ感謝している。そのスキルがあったこそ私は主君と出会えたの、だ!!」
俺がこうなっている原因を告げると、一瞬目を見開いて驚いた後、慈愛に満ちた微笑みを浮かべながら後ろに迫った獣人に裏拳を打ち込んだ。
「そうか。そう思ってくれるなら俺も救われる、よ!!」
でも大分攻勢が衰えてきたが気がする。
微妙に正気に戻りかけているのかもしれない。
ただ眠いとか、疲れているとか、そういった可能性もあるが……。
「双方、争いをやめよ!!」
ちょうど太陽が水平線から頭を出した頃、辺り一面に響き渡るような大きな声が耳をうった。
声の方をみると、鍛え抜かれた肉体と、それに見合う覇気をもった白、いや銀色の長い髪の犬耳の男が近づいてくる。
辺りを見回すと、正気を失っていた者たちも攻撃を止め、大人しくしていた。
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