第082話 隠遁
「ハァ……ハァ……きりがないな」
今回は剣技で戦っている。
やっぱり頼り切りってのも良くないからな。
獣人達には悪いが、今回の件はちょうどいい修行になる。
「隙あり!!」
俺が一息ついたところを狙って虎耳獣人が蹴りを放つ。
「そんな蹴り喰らうか!!」
俺はひらりと躱して急所に刀を叩き込んだ。
「ぐはっ」
虎耳獣人はその場に崩れ落ちた。
辺りには無数の獣人の死体、もとい気絶した獣人達が所狭しと並んでいた。町を動けばどこからともなく、隙をついて攻撃してくる。
おじさんも歩けば獣人に当たる状態だ。
なぜか攻撃前に掛け声があるので躱すのが容易いが。
これが獣人なりの礼儀のようなものなのかもしれない。
「さて、どっちに向かうか……」
ゆっくり休むなら船に戻ってもいいんだが、それをやると後でリンネとイナホがううるさそうだからやめておこう。
食べ物の恨みは怖いからな、ガクガクブルブル。
それはさておき選択肢は、かたや明かりの多い道、かたや暗闇が広がる道。
ひとまず休憩を取りたいし、一旦人が少なそうな所に身を隠すか。
俺はインフィレーネを展開して、暗闇の中を進んだ。
道を歩いていくと、どんどん家がボロボロになり、道にはぐったりとして無気力に座り込んでいる年嵩の獣人などがぽつりぽつりと現れ始めた。
ん?こっちは所謂スラムという場所だろうか。
歩いている獣人達の人相も悪くなり、身なりも粗末な物へと変化していく。
「おい、なんでも今町に凄い美味そうなおっさんが来てるらしいぜ」
「マジかよ。まぁどうせ俺達には関係のない話さ。強い奴らが手に入れるんだろ」
「まぁな。でもちょっと面白そうだから見に行って見ねぇか」
「ああ、それは悪かねぇな。なんせここにはなんもねぇからな。娯楽としては良い見世物だろ」
獣人の男たちがそんなことを話しながら俺の横を通り過ぎていった。
スラムにもすでに情報が伝わっている。
まぁ当然か。日中には熱烈に歓迎を受けていたし、さっきまで結構な数の獣人を倒してきたからな。騒ぎが広がるのも無理はない。
『ケンゴ様、あちらに隠れた気配があります』
いつもながら唐突に現れるバレッタさん。
もう慣れっこである。
「そうか、行ってみよう」
俺はその気配の方へと近づいていく。
気配があるのは一軒、と言っていいのか分からないが、廃屋のような場所の中だ。
「そこにいるのは誰だ?」
俺はインフィレーネの隠ぺいを解いて中に入り、誰のいない場所に向かって声を掛ける。
辺りを静けさを包む。
「おい、そこに居るのは分かっているぞ」
俺は相手の居る所に向かって迷わず、進んでいく。
「くっ。お、お前は誰だ……?」
後1メートル、というところで声が聞こえる。
その声は若い女の子の声であった。
ただし何かを堪えるかのような声色だ。
ああ、俺が目の間にいるせいか……。
それにしてもそれなりに強い奴でも俺を食いたいという衝動には抗えなかったが、見えない子はそれに耐えているというのか。
「俺はケンゴ。冒険者だ」
「な、なんでこんな所にいる。ど、どうして私の居場所が分かった。い、今まで一度も見つかったことがないのに」
その声は心なしか悲し気である。
そんなに見つかったことがショックだったのか。
「いや、ちょっと追われててな。分かってるだろ?それに俺は色んな方法で探知できるからな。隠れても意味はない」
「し、知らないな。まさかそんなことが……、それなら私の隠形が見破られるのも無理はないか」
苦し気な原因の一因が俺にある事は分かっているはずだが、あくまでしらを切るようだ。
とんでもない理性だ。
俺ならすぐにでもとびかかっているだろう。
リンネにそうするみたいに。
そして俺の能力の説明で一応納得したようだ。
「そうか、まぁいい。姿を見せろ」
「……」
俺が出てくるように促すが動きがない。
「別に悪さをしようってわけじゃない。見せないと無理やり捕まえるぞ?」
「わ、分かった」
俺が凄んでみせると、相手は焦ったように返事をした。
月明かりに照らされるように俺の前に姿を現したのは黒髪黒目の女の子。しかもくのいちのような姿をしていて、頭には猫耳、尻の後ろには尻尾が覗いている。
しかし、その子の体は酷くやせ細っていた。
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