恐怖ケモケモパニック!!獣人国

第076話 とてもやさしい人達

「それではお気をつけて!!」

『お気をつけて!!』

「ああ、ありがとな」

「またね」

「にゃーん(ばいばーい)」


 森の境まで来た俺たちはエルフたちと挨拶を交わして先へと進む。森とは打って変わってサバンナのような光景が広がっている。


 何か面白い動物でもいるかもしれない。


「ちょっと歩いてみてもいいか」

「いいわよ」

「にゃにゃ(さんぽ~)」


 俺たちは少しの間歩いて散策してみることにした。


 まばらな木々と点々とした小さな茂みが目に入る。森とは違い、遮るものがほとんどなくて、かなり遠くまで見渡せた。


 遠くに野生動物なのか魔物なのか分からないが、群れがいくつか見える。


 まさにサバンナであった。


 しばらくその光景を楽しんだ俺たちは馬車に乗り込み、エルフたちに教えてもらった方角へと進んでいく。


 太陽が真上を過ぎ、昼食を食べ終えてのんびりしていた頃、数人のサバンナ第一村人?を3人発見した。


「お、あれは獣人だな」

「そうね、この辺りに住んでる人たちでしょうね」

「にゃーん(耳としっぽが生えてる。僕の仲間かなぁ)」

「そうっちゃそうかもなぁ」


 俺たちの会話にイナホが興味深げに加わる。


 そういえば、イナホはこの世界で獣人をみるのは初めてか。エルフの国では、見かけなかったというか、俺たちが城の連中とばかり付き合っていたから会わなかったというか、関わる機会がなかったな。


 ここで話しかけてみるのもいいかもしれない。


 俺は彼らに馬車を近づけていく。彼らも気づいたのか、立ち止まり、こちらを見て指をさして話を合っていた。


「こんにちは」

「こんにちは」


 俺とリンネは馬車の窓から声を掛ける。


 彼らはピンっと立った犬耳とふさふさした尻尾を生やした男たちであった。全員10代後半から20代前半程度。獣人という種族の特徴なのか、野性味あふれるイケメンたちである。


「お、おう」

「こ、こんちは」

「ホントに人が乗ってる」


 突然現れた俺たちに困惑した様子の彼ら。


「この辺に住んでるのか?できれば近い町かなんか教えてくれると助かるんだが」


 方角は聞いていたが、サバンナに決まった道があるわけではないので、彼らに聞いてみる。


「おう、俺たちは近くの街に住んでるぜ。今は狩りの依頼の帰りだ。……ジュルッ」


 そう言って背中の背嚢を示し、俺の質問に答えたのは灰色の毛並みを持つ男。どうやらリーダーらしい。


 何かよだれを垂らしているが、大丈夫だろうか。


「そうか、街への道を教えてくれるか?」

「いいぜ!!というか、連れてってやるよ!!う……いや、おっさん」

「おう、マジか。そういえば名乗ってなかったな。俺はケンゴだ。こっちはリンネ。後はペットのイナホだ」


 なんだかあっさり受けてくれたな。それに非常嬉しそうに。


「おお、別嬪じゃねぇか。俺はダロ、こいつがジロ、そいつがモロだ」

「ふふん」


 犬獣人の言葉にまんざらでもない表情になるリンネ。


「よろしくな。それでどうするか。悪いんだが、馬車には載せられなくてな……」

「ああ、構わないぜ。俺たちは足には自信があるからな」


 俺が申し訳なさそうに告げると、彼らは自分たちの足を叩いて見せた。


「そうか、ありがとう。何か礼をしなければならないな」

「気にするな。俺たちは色々飢えてるんだ。来てくれるだけで嬉しいさ」

「そうか悪いな。後で食料を提供しよう」

「ホントか。こっちこそありがとよ」


 話が終わると、俺たちは馬車を彼らのスピードに合わせて進ませ、後ろからついていく。


 獣人というだけあってエルフよりも走る速度が速い。荷物を持っているのにも関わらず、何も持っていないかのようだ。


「うーん」


 ソファーに腰を下ろしてお茶を飲んでいると、隣でリンネが腕を組んで唸っている。


「どうした?」

「え?うん。獣人って大体喧嘩売ってくるはずなんだけど、それがなかったなって」

「獣人ヤベェな」

「あいつらは強い奴が大好きだからね。力も確かめずに何かしてくれるはずないのよねぇ」

「分かった。気にしておこう」

「うん。私もそうするわ」


 リンネには獣人の行動に違和感を感じたらしい。


 あまり表裏のなさそうな連中のように見えたが、結局それは本人にしか分からない。注意しておくか。


『ようこそ、ワルシアへ!!!!』


 馬車に揺られること数時間。町に着くと、懸念を吹き飛ばすかのように俺たちは町中の獣人達に熱狂的に歓迎された。


 三人組が何を言ったのか知らないが、町長を紹介され、一番いい宿に泊ることになり、街の案内も買って出てくれた。様々な郷土料理を食べたり、獣人特有の商品などを見て回り、お土産まで貰ってしまった。


 ここまでしてもらって悪いなと思いつつ、彼らの親切についつい甘えてしまう俺達。


 彼らの親切は、俺たちが宿の部屋に帰るまで続いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る