第065話 解読

「さて、どうしたものか」


 俺たちは罠の無い床に腰を下ろしてご飯を食べ終えると、ここから出る方法を考える。


「そういえば帰りたいなら罠の順番に気をつけろって書いてあったな」

「そうなの?」

「ああ」


 リンネは読めなかったから気づかなかったようだけど、確かにそう書いてあった。


 つまり罠の発動の順番が脱出のカギになるということだろう。調べてみる価値がある。それから真の道を望む者は辺りを観察しろとも書いてあったな。天井や壁、床も注視しながら進んでみよう。


「入り口の横に柱が立っていただろ?あそこにそう書いてあったんだ」

「それは関係ありそうね」

「それから真の道を望むなら辺りを良く観察しろとも書いてあった」

「それなら、いろんな場所に注意しながら罠を発動させてみるしかないわね」

「そうだな」


 リンネと方針を話し合い、今日のところはこのまま寝ることにした。幸いインフィレーネは使用可能なので、インフィレーネで障壁を展開しておく。これでモンスターがやってきても問題ない。


 ただし、今回は今まで何の問題のなかった超古代遺跡の遺物が初めて使用不可という事態になった。用心するに越したことはない。


 だから念のため、リンネと交代制で見張りをしながら休むことにした。


「結局なにもなかったわね」

「そうだな」


 インフィレーネの時計機能で約8時間ほど―お互いに4時間、睡眠をとったが、特に何も起こることなく、起床を迎えた。


「それじゃあ、昨日言っていた通り、辺りを注意深く観察しつつ、罠を一つずつ発動させてみるぞ?」

「ええ」

「にゃーん(わかったよー)」


 リンネとイナホに確認をとり、俺たちは辺りをきょろきょろと観察しながら少しずつ進み、罠がある所を見つけたら、気をつけながら発動させた。


「なるほどな」

「何か分かったの?」


 罠を発動させると、その罠自体に文字が仕込まれており、その文字は数字になっていた。今回発動させた睡眠ガスのトラップは、18という文字になっている。


「ああ、罠そのものが数字になっていて、今の罠は18だった。多分全ての罠に番号が振られていてそれを1から順番に発動させれば出られるんだろう。何種類あったかまでは記憶してないから調べないといけないが」

「そういうことね。それならさっさと調べましょうよ」

「了解」

「zzz」


 リンネと分かったことを共有し、次の作業に取りかかった。イナホは飽きてしまったのでインフィレーネで運ばれて寝ている。暢気なもんだ。


 それから俺たちは何日かかけて全ての罠を調べ上げた。その途中であたりを注意深く、インフィレーネも使って確認したが、それらしいものは何も見つからなかった。


 罠はちょうど500個あった。それはそれは調べるのは大変だった。


「疲れたわね」

「本当だな」


 俺たちは数日で疲労困憊となっている。


「とりあえず、さっさと全部発動させて帰りましょ」

「分かった」


 それから数時間かけて俺たちはすべての罠を順番に起動させた。


 気づけば俺たちはあの古代遺跡の入り口である大穴の前に立っていた。


 それにしても一体辺りを観察しろってどういうことだったんだ?


 俺は石碑に眼をやる。


 すると、右端の方に物凄く小さく何か模様のような物が書かれていた。


 近づくと、それは文字で、こう書かれている。


『無限の迷宮は欲深い者を誘い込む罠に過ぎない。その先には何もない。真の道は上にある。呪文を唱えよ』


 と。


「そこかよ!!」

「な、なによ!?」


 俺は思わず叫んでいた。リンネは突然の大声にビクッとしている。


 あの流れで周りって言ったら普通迷宮の中だと思うだろ?

 石碑の右下の端とかみるか!!


 でもそうだ、なんで気が付かなかったんだ……。


 俺たちは世界樹の中に遺跡があることを知っていた。それなのに分かりやすく口を開けているのが古代遺跡だと勘違いして罠にまんまとハマってしまったんだ。


「そういうことか……」

「どうしたの?」


 俺は考え込むようにつぶやいたのに気づいたリンネが問いかける。


「この無限の罠は迷宮自体が本当にただの罠だったんだ」

「なんですって!?」


 俺が答えると、リンネは俺に詰め寄る。


 確かにあの冒険がすべて只の徒労だと言われれば騒ぎたくもなるか。


「お、落ち着け」

「はぁ……ふぅ……それで?」


 俺がなだめると、リンネは数度深呼吸をして先を促す。


「ああ、俺たちは知っていたはずなんだ。遺跡が世界樹の中にあると」

「あ!!それってつまり?」


 そう、俺たちはインフィレーネで解析した時に、バレッタから報告を受けていた。


 リンネも今思い出した、という表情になって俺に答えを言わせる。


「本当の古代遺跡は上だ」


 俺は天井を指さした。

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