最後の竜使い

おしゃもじ

第1話 竜の子供

 世界は災厄にみまわれていた。

 人類と魔物との戦いは永きに及ぶ。


 特に竜。人を捕食し、魔法まで使うその攻撃は凄まじいもので、人々は常にその脅威に脅かされていた。


 それでも人類が絶滅しなかったのは、竜を討伐する人々がいたからだ。


 勇敢な者は数多くいるが、中でも竜討伐御三家と呼ばれる一族が名を馳せていた。


 一つは青の家、もう一つは黄の家、そしてもっとも最強と言われる赤の家。


 彼らは強力な魔法を使い、竜を駆逐してきた。


 今世界は、巨大竜の目覚めにさらされている。封印がとける時期なのだ。


 巨大竜の封印に必要なものがある。


 剣を抜きし勇者を探しだすこと。


 世界の一大事のため、国は勇者を見つけ出した者に莫大な賞金を与えることを決定した。



 討伐一家に、特に最強と呼ばれる赤の家に注目が集まる。


 そんな赤の家に生を受けたトーリ。薄い桃色の髪に、緑の瞳。あまりみないこの組み合わせは、赤の家の強力な魔力を受け継いだ証拠。


 しかし! この男、無類の竜好きだった! 


 そして既に竜討伐御三家がいるにも関わらず、勇者を探す意味を知るものは少ない。


ーーー


 僕の名前は「ソイ」13歳。世界は巨体竜の目覚めだとかなんとかで、大騒ぎだ。


 でもそんなことは、僕にはあまり関係がないような気がしてしまう。


 人食い竜も、捕食対象である人が多く住む王都なんかの街によく出て、僕が住むこんな小さな村ではあまり出ないなからだ。


 駐在している討伐隊がササッと倒せる程度の小さな人食い竜が現れるくらい。

 あと、同じく小さな魔物がチラチラ畑を荒らすくらい。そんな程度だったら、僕も踏んづけて、倒しちゃう。


 そんなわけで、平和すぎる、ていうか、退屈な日々を過ごしている。


 学校が終わってから、ツナギを着て畑にでる。まあ僕の服装っていえば、だいたいコレ。後、背中には一応、剣を背負う。


 勇者の剣。


 でも、どうにも安っぽいし、バッタもんっぽい。


 なんで僕が、こんなもん持ってるかって?


 村の祭りの前に勇者の剣が祀ってある祠の掃除を頼まれて、ていうかジャンケンで負けて、掃除してたら抜けた。


 抜けたというか、土台の経年劣化? 村長に事情を話したら「じゃあ、一応持っててもらっていい?」という、ふわっとした感じで言われて、僕が今持っている。


 二束三文だろうし、要らないんだけど、羨ましがる友達もいて、そうすると悪い気もしなくなってきて、こうして持っている。


 畑に出ようと思ったところ、肥料がないことに気付く。余ってる家から分けてもらおうと思って村の広場を歩いていると、何かが突然、僕にぶつかってくる。


 僕は倒れてしまう。


 何か緑色の人の頭くらいのサイズの生き物が、僕の顔を舐め回す。


 僕は慌てて、その緑の生き物を自分から、引き剥がす。


 そして両手に持ってマジマジと見る。


 爬虫類のような肌に、背中には小さな翼が生えている。つぶらな瞳で僕を見つめてくる。


「何この生き物ッ!!! スゲェ、カワイイ!!!」


 謎の生き物に頬ずりしていると、誰かが僕を見下ろしてくる。


 黒のスーツに蝶ネクタイ、帽子からはみ出した髪はピンク色だ。


 そのお兄さんが、緑色の瞳で僕をじっとり見る。


うちの子に何か?」


 あれ? 怒ってる???

 とりあえず、この生き物はお兄さんのみたいだから、お兄さんに差し出す。


「あ、すみませんッ!!! とっても可愛いですね」

「竜の子供をカワイイだなんて、君は変わってるね。普通、みんな嫌がるのに……」

「竜の子供!? へー。竜も子供はこんなに可愛んですね。よくなついてるし。とても、人懐っこいんですね!」


 差し出した竜の子供をお兄さんが受け取ろうとすると、お兄さんの手を竜の子供が、カブリと、齧りつく。


 結構、激しく齧られているのに、お兄さんは、「あたたたッ」と、冷静だ。


 多分、いつものことなんだろう。な、なついてないな。

 やはり、子供といえど、人食い竜! でも僕には、とにかく可愛くみてしまう。


「コラッ! かじっちゃダメ!」


 僕がそういうと、竜の子はお兄さんの手を齧るのをやめる。……おろ?


 お兄さんが、僕を凄い睨みつけてくる。ううッ……怖い。

 オマケにまた竜の子供が僕の方によって来て、また頬ずりする。お兄さんが、睨み付けるというか「ガンつける」といった方がいい感じになってくる。


 彼女のお父さんに遭遇したような感じ? お父さんの前で、彼女が甘えてきちゃう感じ? 彼女とかいたことないけども! 


 お兄さんが、その場でバタリと倒れる。


 エエッ!!!


 慌ててお兄さんに僕は声をかける。竜の子供は、昔からの定位置のように僕の肩に乗る。


「大丈夫ですかッ!?」

「お腹が空いて……。何か……食べさせて……」


 何!? この厚かましい人!!!

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