強さを売る男

バケツ

強さを売る男

 俺は強さを売って生きている

 強さ、と一言で言っても色々あり、例えば他人に腕力で勝てる強さ、知識の強さ、運の強さや緊張しない強さなど様々だ

 そんな色々な強さを売っている俺は客から強さを1つ貰っている

ツヨシさんですか?」

 スマホを見ながら突然高校生くらいの男が話しかけてくる

 本名を客に教える勇気のない俺は客にツヨシと名乗っている

「強ですが、何でしょう?」

 男は、本当にすぐ死んじゃいそうな見た目してるんすね、とボソッとつぶやき

「俺に一つ強さを売ってください」

 と言った

 どうやら客のようだ

「分かりました。とりあえず近くの公園に行きましょう」

「Fwitterで見たのだとすぐに貰えるって聞いたんすけど、すぐには貰えないんすか?」

「そうですね。一度座って話を聞かないといけないので」

 嘘をつく勇気がない俺は正直だ

「分かりました。近所の公園なら放浪してる強さんより俺のほうが詳しいと思うんで。付いてきてください」

 客はすぐに歩き出した

 夕日が公園に哀愁を漂わせ、寂しさをごまかすかのようにブランコがキィキィと音を立てる

 何年も使われていないような座ると凹凸が少し痛いほどにボロボロのベンチに座り

「では、どんな強さがほしいのか、事の経緯から教えて下さい」

 そう言うと客はすぐに語りだした

「俺、所属がサッカー部なんすけど、俺んとこ毎回決勝戦に出るくらいの強豪校で。俺、スポーツ推薦で入ったんすけど周りがみんな強くて……明日スタメン選抜の為の試合があるんすよ。それで選抜に勝てる強さが欲しくて……」

「選抜に勝てる強さ。そういった強さは今持ち合わせてないです。他の強さにしましょう」

 俺は詳しく話を聞く事で俺にとって一番良い形でその事に対応できる強さを探し出していく

「じゃあ……選抜のやり方について話しますね。選抜には何個か項目があってその中で一番苦手なのがシュートで、本番だといつも緊張してシュートが思った通りに蹴られないんすよ。だから思った通りにシュートが飛ぶ強さが欲しくて」

 日は落ち暗くなり始めほんのりと公園の電球が点灯する

「緊張しない強さなら売れます」

 客は飛びつくようにそれください!と叫んだ。それを聞いて俺はカラフルで様々な形、マークのついた薬が入った瓶から薬を1錠選び取り出す

「では、これを飲んでください」

 住宅街の中を走る車のヘッドライトが時々客と俺を照らす。俺がペットボトルの水を差し出すと客はすぐに手に取り飲み込んだ。ボロボロになり焼け焦げたような白衣を着て薬を差し出す俺は客からしたら死神や悪魔といったように見えるのだろうか

「勇気ありますね。怖くないんですか?」

「選抜に勝てるんだったら何でもしますよ」

 客は少し笑いながら言う

「では代金いただきますね」

 嬉しい様子の客に俺は告げる

「今回いただくのはあなたの学力と何かです」

 嬉しそうにしていた客の顔が少し強張る

「元々馬鹿なんで学力の方は良いんすけど何かってなんすか」

「これは私が始めてきた客全員から貰っているモノなので入会料金とかそんなもんだと思ってください」

 怒る人が多いから毎回この説明をするときは冷や汗をかく

 客はこの説明に渋々と言った感じで分かりました、と承諾した

「ではいただきますね」

 俺はそう言うと客の手のひらに先程渡したような錠剤の入った瓶と水の入ったペットボトルを乗せ、目を閉じ念じる

 辺りは暗くなりスマートフォンの照らす光だけが客と俺の姿をはっきりとさせる。ブランコのキィキィと揺れる音が不気味に聞こえる

 しばらくすると無色透明だった水の色が変化し薄っすらとピンク色になる。そして瓶の中の薬の一つが色や形、マークなどが変化する。それを見ておぉ、と客が少し驚いた様子を見せたところで瓶とペットボトルを回収した

「それでは、ありがとうございました。またのご来店、お待ちしております」

 喜び舞い上がった様子でFwitterをした客を見送ると俺は早速ペットボトルの水を飲み干した

 入会料金について詳しく聞いてこなかったが、もしも詳しく聞かれていたら俺は正直に言っただろう

 生きる強さだ、と

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強さを売る男 バケツ @ein_eimer

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