第2話 師弟
ゼノンがファナに土下座をして弟子入りしてから3日が経った。
ようやくニム先生からの監禁を解かれて自由の身になったのだ。結局トイレの時以外は手錠をといてくれることは無かった。トイレの時もといてくれるのは手の手錠のみ。足はずっとつけっぱなしだった。
そして今日からレイシェレム学院は少しの間休暇となる。単純に休業日なのだ。
というわけでゼノンは言われるがままに現在ファナの後ろを歩いていた。
ちなみにだが、この3日の間にミオとラルクが訪ねてきた。
「ありがとな、ラルク」
「おー!もちろんだぜ!」
ということでラルクには簡単に許して貰えたが、ミオの場合は……
「ゼノン!」
「ありがとな、ミオ。」
「心配かけすぎよ!ファナ先生に挑むなんて死ににいくようなものよ!!」
ミオは勢いのままにゼノンの懐に飛び込む。しかしゼノンは手錠がかかったままなので抵抗も何もできない。
「あぁ、ごめんな。次は気をつけるよ。ところでなんだが、コレ……何とかなりませんでしょうか」
そうしてゼノンがミオに見せたのは1枚の手紙という名の請求書だった。
「無理よ。だってそれ、教会からだもん」
「そういや、なんでこんなものが送られたんだ?」
「私は今、教会に引き取られてるんだけどね。治療ってタダじゃないの。それはゼノンも知ってるでしょ?」
「あぁ」
「それで、聖女が市民を治療するってなると結構お金がかかるらしのよ」
「ふーん。でも、今回は緊急事態だったし、何より俺たちは学生で友達だろ?何もそこまでお金取らなくてもいいと思うんだけど……」
「そういう訳にもいかないのよ」
「まじかよ…。でも1000万リルなんて無理だろ……」
「?1000万リル?ゼノン…それ数え間違えてるわよ」
「え?あ、もしかして100万ルリだったか?桁が多すぎて分からないな」
「………いえ、違うわ……」
「ってことは10万リルか!それなら何とかなるかも……」
ミオは悲愴な顔をしながら指を1本立ててゼノンに告げた。
「1……ルリよ……」
「え?なんて?」
「……い、1億……ルリ…なの……」
「…………億……?」
その衝撃の言葉に頭がフリーズしてしまう。
「え、ええ…。今回は特に怪我も酷かったし………その…仕方ない……といわれれば仕方ない……のよ」
「億……奥………億万長者……?ソツイモ……はぅ」
「ゼノン…!?ゼノーン!!」
そして現在に至る。未だにゼノンの手には1億ルリの請求書がある。何度もそう何度も数え直した請求書が。現実を直視しているゼノンの顔は絶望1色である。
「どうしたの?もしかして私の家に行くのが不満かしら?」
「……いえ……何も……」
「そういえば、あなたは平民なのでしょう?寮にも入れて貰えずに毎日どこで過ごしたの?」
「あぁ、それは野宿です」
「野宿!?」
「え?あ、はい」
「……はぁ。まさかそこまでとはね。いいわ。これからは私の家に住みなさい。幸い部屋なら無限のように空いてるから」
「……先生……無限ってなんですか……。1億ですら無限ではないんですよ………。はは。1億でも無限じゃないんだよ……」
ゼノンはホム協を脱退した(ホム協は去るもの追わずのスタイルで、家を持ったものから自然と脱退することができる)したというのに…その未来は真っ暗のままであった。
ゼノンは3日間考えた。考えに考え抜いた。
果たしてこのお金、俺が払わないと行けないのか?と。
よく考えてみれば今回怪我をしたのはゼノンでその治療をしてくれたのはミオ。ならばゼノンが払うのは当然と言える。しかし…しかしだ。元を辿ればゼノンが怪我をした理由はファナとの決闘にある。ここで決闘の始まりを振り返ってみるが、ゼノンから仕掛けたわけでもなく、ゼノンの合意があった訳でもなく、突然ファナがゼノンを襲ったことで始まったのだ。
ここで重要なのはゼノンは戦う気が無かったということになる。いわばあの戦闘は不可抗力であり、一種の殺人未遂だ。
(じゃあ、この金…、師匠のせいじゃん。しかも師匠英雄って呼ばれてるんだし、金ぐらいあるだろ)
「……師匠、ひとつご相談があるんですが……?」
「何かしら?」
「とりあえずこちらをご覧になってください」
そう言ってゼノンは1枚の紙切れをあの時と同じように渡す。
「ふむ。なるほど……。可哀想に……。こんな大金を背負わされてしまうなんて……。村に置いた親も泣いているでしょうね………。何をやらかしたのかしら……」
「師匠!?何他人事みたいなこと言ってるんですか!?」
泣き真似をするファナに思わずツッコミを入れるゼノン。
「事実他人事じゃないかしら?」
「師匠よく思い出してください!あの戦いは師匠から始めたましたよね!?」
「えぇ。そうね。それが何か?」
「それが何か!!?」
あまりにも自分勝手な的な発言に思わず驚いてしまう。精神力の高いゼノンが驚きのあまり大声を出すなんて王都に入って初めてだった。
「まぁ、気にする必要は無いわ」
「ど、どうしてですか??」
ファナの発言に少しの希望を持つ。もしかすると…、
(師匠が払ってくれるのかも!!)
「だってあなた、魔王になるのでしょう?なら、人間の国で起こったことなんて気にする必要ないでしょ?」
「師匠ーーー!!!」
くるりと振り返り、ファナは微笑みながら告げた。その笑顔はとても美しく、小悪魔のようで周りのものは皆魅了されていた。対してその発言にゼノンの淡い希望が打ち砕かれてしまう。
「あら?違ったかしら?」
「当たり前でしょう!?俺は
「あら、もう魔王になることまで考えてるの?私にも勝てないくせに傲慢ね」
「今は勝てなくてもいずれ超えますよ。必ず」
ファナの挑発に対して真剣な言葉で向き合う。それだけは譲れないのだ。
「……そう。それは楽しみね……。さ、行きましょうか…」
「師匠?まだお話は終わっていません」
コツコツと進み始めたファナの足が再び止まる。
「しつこいわね。そもそもあなたと私は敵同士なのよ?なのにどうして私があなたの借金を変わらなきゃならないの?」
「それは重々承知しております。しかし、今は師匠と弟子という関係では?それにやはりどう考えてもあの戦いでの怪我は師匠のせいです。納得できません」
「…はぁ。馬鹿ね。よく考えてご覧なさい。どこの世界で魔族との戦いで人間が消費した金を魔族が払うっていうのよ」
「それは……そうですが…」
ファナのその言葉に上手く言いくるめられてしまう。
「なら、これでこの話はおしまいよ」
ふふ、と悪魔のように笑いながらゼノンに告げて再び歩みを進める。ゼノンはただ黙ってその後をつけた。言いくるめられた感が強いが従うしか無かった。
「ここが私の屋敷よ。歓迎するわ」
「でっけ………」
ゼノンの目の前にはとてつもなく大きな屋敷が広がっていた。さすがに学院ほど広くはないもののほかの貴族の家と比べても決して見劣りすることは無かった。
ゆっくり、慎重に歩を進め、その屋敷へと足を踏み入れる。
そしてファナによるゼノンの修行の日々が幕を開ける。
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