2章 修行
第1話 新たなる日常の幕開け
「とは言ってもまずは休みなさい。その体、結構危ないでしょ?」
ファナはゼノンの体を指差す。既に包帯は赤く染まりきり、血が滴れている。
「ニム先生も心配していたわ」
「分かりました…」
ゼノンは立ち上がり、保健室へと向かう。その顔には真っ直ぐな瞳に戻っていた。
「ふふ。これはまた…、面白くなりそうね……」
ファナは風に揺られながら1人笑った。
「ゼノン=スカーレット!!!!」
「は、はい!」
「あなたねぇ!!!私、言いましたよね!!?絶対安静だと!!!動いたらダメですよと!!?」
「ぉ、おっしゃる通りです………」
保健室に戻ったゼノンはニム先生にとてつもない剣幕で説教させられていた。さっきまで土下座をしていて足が痺れているのにも関わらずまた正座である。もはや足の感覚はないに等しかった。
「はぁ…。今回は大事に至らなかったから良かったものの……あと少しで死んでいましたからね!!」
「う、うす…。誠に申し訳ございませんでした!」
ここでも土下座を発動させるゼノン。もはやスキルの領域に達していた。
「はぁ…。とりあえず包帯の取り替えです。それと、回復魔法も必要ですね。ほら!!傷もパックリ、イっちゃってるじゃないですか!!!」
「い、痛い!!痛いです!!先生!!」
「自業自得です!」
保健室に怒号と叫びが飛び交いながらもゼノンの治療は続き、ようやく一段落つくことになった。
「………あの、先生……これはなんですか?」
ゼノンは自分の足と、腕に取り付けられているある物を見ながらニム先生にしつもんする。
「あら?見て分からないんですか?」
「……いえ、分かります。だから聞いてるんですけど………」
「その通りのものです」
「先生…。どうして僕は
そう、ゼノンの両足、両手には手錠がかけられていて、その先には鎖で近くの柱と繋がれていた。そのおかげで今は全く動けない状態に陥っていた。
「あなたを自由にするとまた脱走するでしょう?」
「……いえ、もうしません……」
「その言葉を私が信用するとでも???」
ニッコリと笑いながらゼノンに迫る。その目は確実に笑っていなかった。
「……うす。すみません……」
「はあ。本当に反省してください…」
ガチャガチャとゼノンが両足両手を動かすが全く抜けない。そしてはずれない。
「…先生、これ、外れないんですけど?」
「当たり前です。それは
「………本物???」
その言葉にゼノンの抵抗が止まる。ゼノンは今までこの手錠はおもちゃ程度のものだろうと考えていた。なので抜けないことを不審に思っていたのだ。
「えぇ。軍でも使われていた本物の手錠です。罪人にもそれと同じものを使っていました」
本物の罪人は足にも錠をするのだろうか?下手をすると罪人より扱い悪くね?と思うが、決して口にはしない。
「……先生、どうして保健室の先生がそんなものを持っているのでしょうか?」
代わりに単純な疑問をしてみた。決して攻略法を探そうとしているのではない…と信じたい。
「ここにいる先生は皆、元は戦場に居たものです。なのでそういった物も簡単に手に入ります」
恐ろしい…学校マジで恐ろしい…と思ってしまった。
仮にこれが本物の手錠なら今のゼノンに抜け出す方法は皆無である。
「あなたはもう少し周りのことを気にしなさい」
「周り……?」
「えぇ。これを渡しておくわ」
そう言ってニム先生がゼノンに渡したのは1枚の手紙だった。手錠をされながらも器用に手を使いながらそれを受け取る。
「それはミオさんからの手紙よ」
「ミオからの!?」
(そういえばミオにはまだ礼も言ってなかったな…。そういえばラルクにも)
「えぇ。あなたが寝ていた時もミオさんは看病に来てくれたのよ。毎日ね…」
「そうなんですか…」
(ミオ………。悪いことしたな…。今度何かプレゼントでもした方がいいかな?)
そう思いながら少しウキウキしながらミオからの手紙を開封するゼノン。そこには……
『ゼノン=スカーレット様へ
今回の聖女様からの治療代について請求致します。額は下記に記載されておりますのでご確認をお願いします。請求先は王都の教会本部まで。
聖女様による治療費100000000ルリ』
「う、うん?1…10…100、いっ、1000万ルリ!!?」
この国ではルリというお金の単位である。各国共通の金貨や銀貨、銅貨で言うならば
銅貨1枚=100ルリ
銀貨1枚=1000ルリ
金貨1枚=10000ルリ
つまりゼノンへの請求額は金貨1000枚分である。
「えぇ。妥当な額よ。あなた、ミオさんの助けがなかったら死んでたわよ?むしろ少し少ないぐらいじゃないかしら?」
「い、いやいやこんなお金無理ですよ!!ただでさえ今の俺はホム協に入らないと行けないぐらいに生活できないのに!」
「ホム協?まぁ、どうしようもないわ。せいぜい頑張りなさい」
(ミオぉ………………)
心の中でどうしようもない叫びをあげるゼノンだった。
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