第8話 ゼノンの学院での1日

入学式が終わり、学園に入学してから半月がたった。


ゼノンの学園での日々は酷いものだった。


この学園では一人一つのロッカーが与えられているのだが、ゼノンのロッカーはこの学園生のゴミ箱扱いとなっていて、学園の生ゴミなどが集められる。


机もゼノンはいないものとして物置になるか、大量の落書き、昨日に関しては壊されていた。


先生も何も仲裁するどころか生徒たちにこのような行為をするように促してきている。


それでもこれはまだ序の口に過ぎなかった。なぜならゼノン自身に実害と言われるものはなかったからだ。


「このッ!!無加護が!!」

「グハッ!」

「てめぇみたいなのがここに来るんじゃねぇよ!!」

「グッ!」


ゼノンはここに来てから毎日のように暴行にあっていた。それはクラスメイトから、同級生、先輩までと留まることを知らない。魔法を使ってゼノンを攻撃してくることも少なくなかった。


「汚ぇ血を俺に飛ばしてんじゃねぇ!!!」


ゼノンの血が相手に飛んだことでまたゼノンは蹴飛ばされる。


「行くぞ!!」


気が済んだのか周囲にいた味方を引連れてどこかへ行ってしまう。


「ゲホッ!あぁ、情けねぇ……。ってめんどくさいなぁ。でもこれが強くなるためには絶対に必要だしな…」


ゼノンもゆっくりと立ち上がり、傷だらけの体を動かす。


結果として学園側が考えていた通りにことは進んでいた。ゼノンにこの学園のストレスをぶつけるという作戦は驚くほど順調で、この学園生の成績も上がり、出席率も増加していた。


「敵を破壊する獰猛なる炎よ。その姿を変え、破滅へと導く灼熱の球となりて我の敵を燃やし尽くせ!"炎火球"!」


「ウォッ!熱ッ!」


ゼノンは後ろから炎に襲われその身と傷を焼かれる。


「さすがユリアム様です」

「ふん!当然だ!」


「お前は…」


ゼノンの後ろにいたのは編入試験でゼノンが倒した貴族のユリアムだった。


「まさか無加護が本当に受かっているとはな…!」


ユリアムは歯をギリッ!と音を立てながらゼノンを憎らしげに見つめる。


「てめぇのせいで俺の人生はめちゃくちゃだ!!!たまたまお前が運良く運良く俺に勝ったせいで俺の評判が落ちた!!俺の計画もボロボロにしてくれやがって…!!俺は勇者のパーティー気に選ばれるような存在だと言うのに…!!」


言いがかりもいいところだな…。とゼノンは思ったが、何も答えることはせず、ゆっくりと立ち上がった。


しかし…


「オラァ!やれぇ!!」


「我が敵を狙い、打ち払いし、大いなる風よ、我が魔力を糧にその姿を表し、敵を薙ぎ払え!」

「大地をも凍てつかせる大いなる氷よ…。我が魔力を糧に望む形姿を変え、敵を打ち砕け!」


ゼノンが立ち上がった瞬間にユリアムの周りにいた2人の手下?が魔法の詠唱を始め、ゼノンに狙いを定める。ゼノンはおぼつかない足でフラフラとしながらだが、立っているだけだった。


「ウインドカッター!!!」「アイスショット!!!」


「グッ!」


ゼノンは向かってきた魔法に対して手でガードするだけであった。


「……我の敵を燃やし尽くせ!"炎火球"!」


その間に詠唱を進めていたユリアムがゼノンに向かって先程より一回り大きい炎をゼノンに向かって撃つ。


「グァァ!」


ゼノンは炎に焼かれ、苦しみ、地面にころげ回った。


「ざまぁみろ!!これに懲りたら二度と俺の邪魔をするんじゃねぇぞ!!行くぞ!!お前たち!」


「「はい!」」


ゼノンは地面に伏し空の方を眺めていた。


「ひひっ。いいもん見させてもらったぜ〜。ゼノン!!…そうだ…いいこと思いついた。ゼノンを勇者パーティーに入れてやるか…。そうなりゃアイツが弱いってわかってミオも俺の凄さに気づくだろ」


「……ふむ。わざとか?それとも本当にただの失敗作なのか…。まぁ、どちらでも良いか。さっさと回収しなくてはな」


2人は建物の影から、そして空にも届きそうなレイシェレム学院の建物の上から観察していた。それぞれの顔に笑みを浮かべながら──。



ゼノンは学校を終えると、学院を出て王都の外れの方に移動する。ゼノンは学院内ではそれはもう言い表せないほど残酷な仕打ちを受けているが、学院を出ればそんなことは無い。


(俺が加護を隠しているから…あとは人の目を気にしているのかもな。全く陰湿ったりありゃしない)


そしてそこを出た先には……


「おぉーゼノン。今日も来たか…」


「あぁ。俺もの一員だからな」


そこにはダンボールを組みたててまるで家のようにしてそこに住んでいるように見える者たちが20人近く居た。


ここにいるものは訳あって家を追い出されてしまったものや、家をなくしたものなどが多くいる。ゼノンも先日、とうとうホム協に入る覚悟を決めた。ここは食事も高いため、ホームレスになり、ホム協に加盟する以外に生きる手段はなかった。


「よぅし…。みんな…生きておるか?」


「会長!?」「会長!」


しばらくすると奥から白髪頭に何度も縫い合わせたようなあとのあるニットと服を着て腰あたりに「りんご」と書かれたダンボールを装着している。


ちなみにだがゼノンにも自分の用のダンボールがあり「ぶどう」と大きく書かれている。


「あれが…伝説の…。ホム協創設者にして会長の──」


ゼノンは彼に今日初めて会ったが、彼の噂は常々聞いていた。


曰く「伝説のクズ男」

曰く「昔は冒険書であったが女に見境がなかった」

曰く「賭けで何千万ルリも盗られそれに呆れた家族が、に見捨てられた」


などなど様々なクズ男の企業をなしとげている。ここではクズなほど王になれるので彼の実力は圧倒的故に誰も彼に勝てなかった。


もはや彼に名前はなく、誰も彼の名前を知らないので「会長」と呼ぶ以外方法がなかった。名前すらも売った男としてまたも偉業を成し遂げた。


「…あぁ……」「会長こそな……」


餓死した者がいないか生存確認をした後、会長から今日の食料を得るための手段が伝えられる。


「1班と2班は王都の人からおこぼれを集めなさい。3班、4班そして6班は王都中のゴミ箱を漁って食べれそうなものを集めよ」


会長の指示により、ホームレスがそれぞれの班にわかれる。


ちなみにだがホームレス協会には5班は存在しない。単純にご飯と掛けていてご飯様に失礼だ!ということと、ご飯と聞くだけでお腹が空いてくると言う理由からである。


「他に誰か連絡はないか?」


「会長!どうやら最近猫が活発に活動しているようでして…ゴミをあさる猫の数が急増しています!」


「何!?…とうとう奴らまで出てきおったか…。3班!4班!六班のみんなは猫共に負けんように頑張ってくれ!誰が路地裏の主なのか見せつけるのじゃ!!」


「「「おぉー!!」」」


会長の声に合わせて路地裏から歓声が沸き上がる。


「あ、そういえばバードンさんがどうやら別れた奥さんと偶然遭遇した結果、もう一度ご結婚されるようで…、ホム協を抜けました」


「「「何ぃ!?!!?」」」


ホム協の全員が驚いて先程より大きな声を出すことで近くにいたカラスが鳴きながら空へと旅立ってしまう。


「い、いいや落ち着こう…。ここは来る者拒まず、去るもの追わず…だ」


そう言う会長の顔は苦痛と怒りに満ちていて今にも血涙が出そうである。


「それじゃあ、今日も生きるために頑張るぞい」


「「「Yes,会長」」」


そうしてそれぞれが自分の家とも言えるダンボールを持って路地裏から出ていく。


「おぉ!新入り!」「はい、なんでしょうか?会長!」


ゼノンも自分の班とともにゴミ漁りに参戦しに行こうというところで会長に呼び止められた。


会長に呼び止められるなんてことはホム協では非常に珍しい行動なので若干ゼノンも緊張してしまう。


伝説のクズ男に呼び止められるなんて余程不名誉なことに違いないとゼノンは腹を括る。


「お前さんはワシと一緒に仮に出るぞー」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


現在ホム協には3つの収入源がある。1つ目はゴミ漁り。2つ目は恵み物。そして3つ目が狩りである。狩りに関しては会長のみが行っている。


会長が伝説のクズ男なのは違いないが、その実力は本物だとホム協でももっぱら話題である。実は元S級冒険者だったのではないかという噂もあるほどだ。


ゼノンは杖をつきながら歩く会長の後を追う。


今ゼノンと会長は王都の外れにある森の中へと来ていた。ここは動物、魔物が豊富で冒険者が来ることも少なくない。


「どうして俺を誘ったんです?」


ゼノンはどうしても会長の行動の糸を見つけ出すことが出来ず、とうとう直接問いただした。


「フォッフォッフォッ!何、老人の気まぐれじゃよ」


会長は笑いながらゼノンに答えるが、ゼノンの顔は未だ訝しんだまま。その事に気づいたのか会長は頭を掻きながら答える。


「お前さん、レイシェレム学院の生徒なんじゃろ?ここにおるということは貴族でもない上に上等な加護では無いと見た」


ピタリと言い当てられたことに若干であるがゼノンは動揺する。


(何故この間で知ってる…?まさか俺が無加護ということも既にバレたんじゃ…)


基本ゼノンは自分の個人情報がバレたとしても気にする事はないが、誰にも知られたくないことはあるものである。


ゼノンには2つ知られたくないことがある。


1つ目は無加護であるということ。これがバレてしまうと、この世界のほとんどを敵に回すことになり、王都ならすぐに身柄を捕まえられてしまい、奴隷行きになるだろう。


(奴隷になるのはごめんだ。それじゃあ、なんのために王都に来たのかわからねぇ)


そして2つ目は魔法。特に血液魔法である。血液魔法は初代魔王が所持していたと思われるものだ。そんなものをゼノンが持っていると知られたら……


(奴隷どころか罪人…いや、罪人という言葉すら生温いか…。)


人間族はすぐにゼノンを攻撃の的として死すら生温い地獄に陥れるだろう。下手をすると魔族をも刺激してしまうかも知れない。それほどまでに両属の因縁は深いのだ。


(負ける気は無いとはいえ、世界を敵に回すのはしんどいな)


故にゼノンはこの2つだけはバレる訳にはいかなかった。逆に言えばそれ以外のことはバレたとしても全く支障はない。


「どうじゃ?当たっておるか?」


「えぇ。正解です」


ドヤ顔で迫る会長に「ヤバい人だな…」と密かにゼノンは思った。


「誰にも聞かれたくないことはある。お主の事情は聞かん。それがホム協でのルールじゃ。ただ、少し手伝ってやろうと思ってな」


「手伝う?」


「あぁ、お主の学院生活をな」


「??」


ゼノンには会長の言っていることがよく分からずら首を傾げるが会長は何も答えてはくれなかった。


「む!?」


「会長、どうし……!?」


会長がすぐに足を止めて目を細める。そしてその異変はすぐにゼノンにも伝わる。


「魔物…ですか…?」


「そうじゃなぁ。かなり大きいのぉ。A級程度か?」


ズゥゥーンと森が揺れる音がする。


この世界では魔物の強さのクラスを分類している。下からE級、D級、C級、B級、A級、S級、SS級となっている。同じようにE級を討伐できる冒険者をE級冒険者と言う。


「あれは…」「サイクロプスじゃな」


慎重に進みながら姿を現したのは1つ目の怪物、サイクロプスであった。会長の言っていた通り、サイクロプスはA級である。


「……会長、下がってください。俺がやります」


ゼノンは腰に提げたナイフを抜いて会長の前に出て構える。


(会長がいる手前、血液魔法は使えない。厳しい戦いになるかもな)


「ん?さっき言ったじゃろ?手伝ってやると。まぁ、見ておけ」


「会長!?何を…!?」


ゼノンの前に出ようとした会長を止める手が止まる。会長の構えは一部の隙もなくら威圧を感じる。そして溢れ出した殺気にサイクロプスが気づく。


「ウォォ!!」


サイクロプスは会長の方へと走ってくる!


「会長!?危な…!」


会長の構えに驚いていたゼノンはサイクロプスの接近に気づき、会長に呼びかけるが……


雷鳴流かんなりりゅう抜刀術…閃光せんこう


その瞬間にゼノンの視界から会長が消える。否、サイクロプスに向かって一直線に進み、柄から剣を抜く!そして一閃!


キンッ!!


そしてサイクロプスの目と首から大量の血が溢れ出す。ゼノンにはわずかだが、会長がサイクロプスを斬った姿が見えていた。


(速すぎる!!一瞬会長がサイクロプスに向かうところは見えたが、太刀筋も予備動作さえ見えなかった!!マジで何もんだ会長!?)


「うぅむ……。これならみんなで食えるかの?どうじゃ?凄かったじゃろ?」


いつかホム協で話していた噂が頭をよぎる。かつて伝説のクズ男はS級冒険者だった…と。


「は、はい…」


「昔はもっと凄かったんじゃぞ!この力を見せては女を釣って下の剣もブイブイ言わせては泣かしたものじゃ!」


どうでもいい情報に思わずゼノンは苦笑いをうかべる。


(やっぱただのクズだな……)


「さてさっきも言ったがお主の学院生活を手伝っちゃる」


「はぁ……」


やはりいまいち意味がわからずに首をかしげる。


「つまりこのワシがお主に剣を教えてやろう」


「本当ですか!?」


「あぁ。ワシの"雷鳴流かんなりりゅう抜刀術"を教えてやろうお主かワシがホム協を抜けるまでの間だけじゃがな」


「よろしくお願いします!」


「うむ。これさえ出来ればお主もモテモテじゃ!サイッコーの学院生活を送れるじゃろう!ワシの果たせなかった夢……1日連続10人の夢をお主が果たしてくれ!」


(やっぱドクズだな……さすが会長だ)


そう思うゼノンであった。


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