キヅイタ

 夜。

 俺は家に帰ると真っ先に自分の部屋へと向かった。

 カバンを机の横に置き、制服をハンガーにかけ、下に落ちていた目覚まし時計を蹴飛ばす。これは日課なので気にしないでほしい。

 足に痛みを感じうずくまる様な体勢になってしまう。

「落ち着け、考えろ」

 俺しかいない部屋で声を出して自分を落ち着かせる。

「転校してきた女の子と最悪な出会い、そして親同士が友好関係にある」

 これは翠と合田紅の関係。

「中学の頃から片想いをされている、その子は一途で優しい」

 これは翠と伊佐町の関係。

「二人は仲がいい」

 これは伊佐町と合田紅の関係。

「転校生が来たのにも関わらず、1日が早く終わる。俺の知らないところで話が進んでいる。クラスの男子の漫画みたいな気絶」

 これは今日の俺の出来事の復習。

 間違いない。

「翠は物語の主人公だ」

 これが今日の俺が出した結論。

 これが本当に物語であれば明後日の学校で明日、翠と合田が一緒にいるところを誰かに見られ噂となる。二人は毎日ケンカをするが、多分、合田が恋に落ちる。三人の三角関係、翠が誰を選ぶかってところだろうか。

「まぁ、そんなわけないか」

 そう思うことにして俺は寝ることにした。


 まぶたの裏には夢が広がっている。

 でもそれは寝ている時だけ。起きている間は過去にあったことを思い出すようにしている。

「葵に何かあったら助けてあげてね。私じゃ出来そうにないから。それが私からのお願い……だよ!」

 元気にそう言い放った彼女。

 俺は今もその言葉を律儀に守っている。

 忘れないように思い出す。「忘れて」の言葉を忘れるように、明日を待った。

 








 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る