第11話 黎明
眠気と共にくだらない妄想をかっ飛ばすために車をだす。
深い闇に不貞腐れて、今日に昨日と共に置き去りにされるのは嫌だった。
けれど、アクセルを踏む足は中々力が入らない。
君を喪ってしまうのはいやだった。
明日を生きる君と共に居たいから。
だからこそ、両目から溢れるものなんてありやしない。
車を運転する時に、視界を遮るものなんてあるはずも無い。
あったのなら危ないよと君がとめているはずだから。
あるのは、ライトだけだ。
君の体は、まだ昨日に置き去りだ。
今日、そして明日に向かう僕の車に乗せてやしない。
けれども前向きな君は、明日からも誰かの口から紡がれると、そう信じて。
思い出と、最後の言葉は胸にあるから。
去年に飾った思い出には、グラス片手に黎明を疾走する僕たちがいて。
車の窓の外にはキラキラと思い出が光って。
「眩しくて、走れやしない」
全く君は僕に運転させてくれやしない。
君はいっつも窓の外を気にかけて。
あれすごいね、なんて車を止めるように言う。
僕はそんな君にドギマギして。
君は街中でも、いっつもマイペースに立ち止まってばっかで。
先を急ぐ僕がせっかちみたいじゃないか。
車がパンクした訳じゃない。
世界が変わったわけじゃない。
取り残されたわけじゃない。
けれど、君に止まれと言われた気がして。
クーラーボックスに冷やしてあった炭酸水とグラスをふたつ取り出して、簡易なレジャーテーブルの上に載せる。
プシュって気の抜ける音がする。
最後の夏を飽和させるためにグラスに炭酸水を注いで、溢れ出る液体を気にせずに注ぎ続けた。
次第に白み出した世界の眩しさを言い訳にして、視界は滲む。
炭酸水を一気に飲み干した。
涙目になったのはきっとそのせいだ。
ホントは、酒に溺れたかった。
元々下戸だねって君に笑われるくらいに酒には弱い。
でも、介抱してくれる君の腕が心地よくて、隙を見ては悪酔いしてた。
そんなこと言ったら君は、怒っただろうか。
でも、今酒を飲む訳には行かない。
車に乗れなかったら、君が隣にいない僕は、きっと。
きっと。きっと。きっと。きっと。
君の傍に行ってしまうから。
どうにか、昨日から逃げて、今日を超えて、明日の君を追いかけなきゃ。
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