ハーレムルート〈九重花志鶴・銀鏡小綿・駒啼涙〉編

第1話〈夢〉

まどろみの中で、長峡仁衛は夢を見た。

それはピンク色の背景の最中、自らの体は浮遊していて、気が付くと、彼の周りには三人の美女がはだかで彼を抱き締めていた。


彼女たちの体は、夢の中であると言うのに、柔らかな感触が肌から感じ取れて、長峡仁衛は思わず生唾を飲み込んだ。鼻孔の奥からは、今まで嗅いだことも無い絢爛に咲く花の様な匂いが擽ってくる。


『先輩』


頬を赤く染めて、日の当たらぬ様に育てられた華奢な体が長峡仁衛を抱き締める、駒啼涙。

彼女の体は、この中では一番若く、その分成長しきってない蕾の様なものだが、その抱擁は暖かく、長峡仁衛を優しく包み込んでくれている。



『じんさん』


白く輝く、朝日に輝く雪の銀景色を連想させる白銀の髪を靡かせる。

銀鏡小綿が髪を解いた姿を見るのは、多分、記憶喪失では初めてだった。

女性らしい豊満な胸が長峡仁衛の腹部に密着した。彼女の碧色の瞳が長峡仁衛を見つめていて、彼の視界は、彼女の虜となっている。


『任……間違ったわ、仁……』


耳元で囁かれる、彼の名前。最初間違えたのはわざとでは無く素だろう。

後ろから彼の首に手を回して、暖かな吐息を耳の裏側をなぞらせる。

九重花志鶴は果実の様に潤いのある唇で、彼の耳たぶを優しく食む。


完全な酒池肉林状態だった。

男ならば誰もが夢を見て、そして、男としてこれ程の幸福は無いだろう。

心臓が高鳴る。彼の体は内側から燃え出して、外側も、彼女たちの熱で溶けていく。


これが夢である事は百も承知。しかしそれでも、長峡仁衛はこの夢に酔い痴れていたいと思っていた。

けれど、残念ながら、彼の願いは叶う事は無い。

何故ならば、これは夢であり、夢とは、何れ覚めるべき泡沫であるからだ。


そこに例外は無い。どれ程、夢に居たいと思っても、その願いが叶うのは、人が人としての意志を捨てた時だろう。


長峡仁衛は、まだ意志を抱いている。ならば、夢から覚めるのは道理だった―――。


そして長峡仁衛は目を覚ました。

脳裏に過る夢の残滓。夢魔に化かされた様に性的興奮を覚えつつも、知り合いに欲情してしまった事による情けなさと羞恥心が混ざり合って、深い溜息が零れだす。


「はぁぁぁぁ………」


長峡仁衛は手で顔に触れる。少し脂っぽいのは、汗を掻いていたからだろう。


「最低だな、俺は……」


知り合いに興奮するなどあり得ない。

彼女たちは、長峡仁衛の大切な仲間だ。

それを、卑猥な目で見る事は恥であると、長峡仁衛は自分を叱る。


「……取り合えず、シャワーでも浴びるか」


長峡仁衛は立ち上がる。

シャワーを浴びる為に服を脱ごうとして。

そこで、無造作に扉が開かれた。


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