第4話〈その後〉

長峡仁衛は疲れた表情を浮かべながら歩き出す。

「あぁ、疲れた……さっさと家に戻って眠りたい」


「そうですね、先輩、本当にお疲れ様でした……」


そう言って駒啼涙が夜臼ぴょんを引き摺っていた。

長峡仁衛は夜臼ぴょんの肩を掴んで持ち上げると、彼女を背負う。


「本当にな……さて、と。帰るか」


「ぐたー……」


夜臼ぴょんは呑気な顔をして長峡仁衛の背中に張り付いている。


「ぴょんさん、実際の所、疲れてないのでは?」


駒啼涙は長峡仁衛の背中に乗る夜臼ぴょんにそう言う。


「そんな事ないですよー……ふぅ、ぐたー……」


「放っておきましょう、先輩」


駒啼涙は長峡仁衛に夜臼ぴょんを離す様に言う。


「いいよ、別に、疲れてないし……」


そう言いながら長峡仁衛は倒れた。

夜臼ぴょんは、長峡仁衛が倒れる瞬間を見越して片手を伸ばす。

地面に顔面から落ちる寸前、夜臼ぴょんが術式で長峡仁衛を浮かせたのだ。


「無茶しないで下さい、先輩ッ」


「本当ですよー……むんっ」


夜臼ぴょんが重力を操って長峡仁衛を無理矢理歩かせる。


「貴方は先輩から離れて下さい、ぴょんさん」


「……ん。あれ?……じーえー先輩?」


夜臼ぴょんは、長峡仁衛の傍から離れて彼の体に触れる。


「……あれ、うそ……心臓、止まってる?」


表情を蒼褪めて、夜臼ぴょんはそう言う。

無理もない、虚構が現実になったとは言え、その体は何度も心臓を抜かれたのだ。

体が死を迎えてもおかしくはない。


「ッ、大変です。すぐに学園へっ!」


そう慌てだす駒啼涙。

長峡仁衛は安らかな表情をしながら学園へと向かう。



―――ふと。

長峡仁衛は暗闇の中に居た。

薄暗い暗闇は暖かい。

だが、次第にその体は下へと落ちて、暖かい暗闇は真の闇、冷たい闇へと向かい出す。


『あー……冷たいなぁ……このまま、死ぬのか、俺』


そんな事を考える長峡仁衛は、しかし何故か心は落ち着いている。


『まあ、頑張ったしなぁ……もういいか、このまま、眠っても……』


長峡仁衛は諦観していた。

このまま死んでも悔いは無い。

生まれたばかりの彼にとって、まだ大切なものも、希望と言う感情も無い。

だから、死ぬ事に頓着は無かった。

だが……何故だろうか、彼の心の内に眠る、その何かが、死を否定している。


『……いや、まだ、死ぬには、早い、か………』

『まだ、俺には、………』


死ぬ寸前。

長峡仁衛はある人物の顔を思い浮かべた。

その人間が居る限り、まだ、死ぬわけにはいかないと。そう思っている。

長峡仁衛は、もう少しだけ、生きてみたいと思った。

だから、闇へ落ちるのは、止めて、ゆっくりと、明るい空を目指していく。

そして――――。



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