第01話〈洗濯物〉
銀鏡小綿。
聞くに、長峡仁衛とは幼馴染。
そして、自分の事を長峡仁衛の母だと言っている。
血液関係はなく、戸籍関係上の繋がりも無い赤の他人。
記憶を失う前の長峡仁衛は、銀鏡小綿の事を煙たく感じていたらしい。
(何処にいるかな)
休日。
長峡仁衛は銀鏡小綿と過ごそうと思っていた。
単純な話、彼女は長峡仁衛の傍に居て長いらしい。
だから、長峡仁衛と言う存在を良く知っているのは銀鏡小綿ではないのだろうか。
そう考えた為に、長峡仁衛は銀鏡小綿の元へと訪れる。
少しでも過去の自分を知る為に。
「あ、居た」
銀鏡小綿は裏庭に居た。寮母の手伝いをしていたらしい。
籠から洗濯済みの衣類を持ち上げて、竿やハンガーに引っかけて乾かしている。
「小綿」
長峡仁衛は彼女の名前を呼んだ。
その声に反応して、なんだろうと顔を声のする方に顔を向ける銀鏡小綿。
少し寒いのか、カーディガンを着込む彼女は、オレンジ色のエプロンを付けている。
素の彼女は無表情であるらしい。一瞬長峡仁衛に見せた無表情は、認識すると同時に仄かに笑みを浮かべた。
「じんさんですか、どうかしましたか?」
洗濯物のタオルを前腕に掛ける銀鏡小綿。
「ん、いや……休日だからさ、何処か行かないか、って」
長峡仁衛の言葉に銀鏡小綿は頷く。洗濯物を干しながら答える。
「良いですね、今日は良い天気ですから、遠出でもして、じんさんの新しい服でも買いましょうか……どちらにせよ、この洗濯物は片づけなければなりませんから、少しだけお待ちください」
そう言って洗濯物を干していく銀鏡小綿に、長峡仁衛は近づいて洗濯物を掴んだ。
「手伝うよ、二人でやれば、早く終わるだろ?」
と、長峡仁衛は言うと、銀鏡小綿は嬉しそうに目を細めた。
「ありがとうございます、では、私は大きめな洗濯物を干していきますので、じんさんは其処の籠に入っている小物を洗濯ばさみで挟んで下さい」
分かった、と長峡仁衛は、裏庭から洗濯部屋に続くガラス扉前に置かれた籠を掴んで持っていくと、適当な洗濯物を掴もうとして硬直した。
「な、あ、ぁ、おい、あの、小綿ッ」
「はい、どうされました?じんさん」
銀鏡小綿は長峡仁衛に顔を向けることなく、背中を向けながら答える。
長峡仁衛は籠から離れて、洗濯物に指を指す。
「お、女モノ、これ、女性の下着じゃないかッ」
そう長峡仁衛は叫んだ。銀鏡小綿はシャツをハンガーに掛けると、くるりと振り向いて、籠の中を見る。そして、その中から適当な薄緑色の下着を選んで手に取った。
「安心して下さい、これらの下着は母のモノですので」
「安心出来るかッ!お前、それ、お前のだろっ」
「?だから、そう言ってますよ。おかしな事を言うのですね、じんさんは」
クスリと笑みを浮かべる銀鏡小綿。
銀鏡小綿は別段、長峡仁衛に下着を見られたり、触られたりしても、気にしない様子だった。
これでは、下着に過敏に反応する長峡仁衛の方がおかしい様に見えた。
「俺がおかしいのか……?」
長峡仁衛は訝し気に思うのだった。
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