第22話
眩い光と共に、耳を突く炸裂音。
一瞬の眩暈と共に、長峡仁衛はゆっくりと目を開くと、騒々しい声が聞こえだす。
「退院おめでとう」
一斉に、そんな声が長峡仁衛の耳に届いた。
長峡仁衛は少しだけ狼狽えた、その飾り付けは、まるで誕生パーティーを開催しているかの様に絢爛で、食堂のテーブルの上には、沢山の料理が置かれている。
「え、これ、どういう……」
近づいてきた永犬丸詩游が長峡仁衛に向けてクラッカーを鳴らす。
「退院祝い。今日しようって話だったんだよ、長峡」
そう永犬丸詩游が言って来て、長峡仁衛は自分が入院していた事を思い出す。
「え、でも、退院して時間経ってるぞ?」
「そりゃ、長峡が退院してすぐパーティーなんて出来ないだろ?あと、サプライズも込めてんの、これ」
長峡仁衛は周囲を見渡す。
永犬丸詩游以外にも、友人の水流迫洸が居て、銀鏡小綿、鬼童五十鈴、贄波瑠璃、九重花志鶴、そして知らない男が二人、食堂で料理を切り分けている。
「水流迫と贄波以外は全員幼馴染」
そう永犬丸詩游は言って、切り分けられたケーキを貰ってフォークで口に運ぶ。
「ほら仁。今日はあなたが主役よ、だから何か面白い事してちょうだいな?」
ワイングラスに炭酸水を注ぎながら、九重花志鶴は言う。
椅子に座って優雅に足を組んで、際どいスカートだから、少しでも屈めば下着が見えてしまいそうだった。
「あ、えぇと……あの、嬉しいよ、俺なんかの為に……ありがとう」
長峡仁衛は感極まりながらも、そう感謝の言葉を口にした。
幼馴染らは笑みを浮かべて、銀鏡小綿は泣きそうな長峡仁衛にハンカチで目尻を拭く。
「さあ、じんさん、今日は母が腕によりを掛けましたので、おなかいっぱい、食べてくださいね?」
「ばっちゃも頑張りましたですよっ!皆様、どうぞお食べくださいっ!」
そうして、退院パーティーが始まる。
長峡仁衛は美味しい料理に舌鼓を打ち、友達との会話を弾ませて、楽しい一日だと思った。
コップに入ったオレンジジュースを飲みながら、隣に座る永犬丸詩游に語り掛ける。
「あのさ、永犬丸」
「んー?どした、ながお」
永犬丸詩游はブドウジュースを飲みながら長峡仁衛の言葉に耳を貸す。
「今日は本当に、良い日だよ。こうして、友達に祝って貰えるなんてさ」
「そう言ってくれるんなら、ボクらもサプライズした甲斐があったよ」
嬉しそうに永犬丸詩游は長峡仁衛に語り掛ける。
オレンジジュースを一口飲んで、そういえば、と長峡仁衛は永犬丸詩游に言う。
「あのさ、俺、記憶、少しだけ思い出したよ」
「記憶?本当か?なんの記憶だ?」
永犬丸詩游は食い気味だった。
長峡仁衛はコップを握り、そのオレンジ色の表面を見ながら笑みを浮かべる。
「どれ程忘れても、その記憶はまた蘇る。多分、俺の魂に刻まれたんだ。あの風景はさ。………今、名前思い出したよ。俺の英雄」
長峡仁衛は、嬉しそうな笑みを浮かべて、永犬丸詩游に顔を向けると。
「
そう。長峡仁衛はそう恩人にして英雄の名前を口にした。
その名前が出た事で騒いでいたパーティーの会場は一瞬で静まり変える。
「……ん?どうしたんだ、みんな」
長峡仁衛はキョトンとした顔で言う。
永犬丸詩游は、バツが悪そうな顔で、長峡仁衛に言った。
「……あの、さ。長峡。ボクのパパ、知ってる?」
「……?いや」
なんでそこで、永犬丸の父親の話が出てくるのか、長峡仁衛は一瞬分からなかった。
「あのさ、長峡、ボクと、九重花のパパ、遠賀のパパ、そして贄波のパパと、此処には居ないけど、辰喰のパパ、誰が父親か、知ってるか?」
知らない、とは。長峡仁衛は言えなかった。
もしや、と長峡仁衛は、その会話の内容から察するに。
「……全員同じなんだ。パパ。そんで、そのパパの名前さ……八峡義弥、なんだよね」
「………嘘、だろ?それじゃ、つまり……」
長峡仁衛は驚きながら、永犬丸詩游の回答を待つ。
「この学校に居る殆どの生徒、血が繋がってんだよ」
長峡仁衛が憧れていた男は、とんでも無い野郎だった。
それを聞いて、長峡仁衛は脳内にあった英雄像が一瞬にして崩れ去ったのだった。
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