第17話

「じんさん」


廊下を歩いている時に銀鏡小綿と出会う。


「どうしたのですか?ズボンなど抑えて」


彼女はそう言って長峡仁衛のズボンに手を伸ばす。


「あ、いや、ベルト無くして……」


九重花志鶴にベルトを渡した事は伏せておく。


「そうですか、では、ベルトの代わりでもお持ちしましょうか」


そう言って銀鏡小綿と一緒に歩く長峡仁衛。

一先ず、永犬丸詩游を探すのは後にする。


「確か工具室が近くにあるので、其処でベルトの代わりでも探しましょうか」


そして廊下を歩いていく際に。

長峡仁衛は目の前に歩く女性の姿を確認した。

茶色い髪、左側の髪を三つ編みにして輪っかの様に仕立てた、紫水晶の様な綺麗な目をする女性だった。


「長峡」


目の前に立つ女性に長峡仁衛の名前を呼ばれる。

近くに居た銀鏡小綿が頭を下げて挨拶を行う。


「おはようございます。贄波さん」


「えっと……」


「贄波瑠璃。貴方、記憶喪失なんでしょ?」


と、長峡仁衛の事情を把握しているらしい。


「あ、あぁ……」


「ついでに、はい」


そう言って、贄波瑠璃は手に持つモノを長峡仁衛に渡した。

それは蛇の様に長く、革で出来たベルトだった。

それも、長峡仁衛が使用していたベルトに酷似している。


「え?え、これ……」


「ちゃんと採寸しといたから」


「どういう意味……」


「贄波さんは、じんさんの公式ストーカーです」


「公式ストーカーって何!?」


長峡仁衛は驚愕した。

こんな美人が自分のストーカーなどあり得ない。


「勘違いしないで。私はただ貴方に恩返しをしているだけだから」


「恩返しって……俺、なにをしたんだ?」


「何って……そ、そんなの言わせないでよ、変態」


変態と言われる長峡仁衛。

益々、彼女との関係性が良く分からなくなっていた。


「ほら、ベルト付けてあげるから、手を上げなさい」


「いえ、ベルトをするのは母の仕事ですので、お気持ちだけで十分です」


そう言って銀鏡小綿と贄波瑠璃がベルトを握り締める。

ぎりぎりと、二人の視線が重なって火花を散らした。


「いや、……俺がするから」


二人の手からベルトを取って、長峡仁衛は自らの腰にベルトを装着する。


(記憶喪失前の俺って一体何をしたんだ?)


そんな疑問だけが浮かんでしまう。


「折角なのでお茶でも」


「そうね……何か持ってるのかしら?」


「はい、常にお茶とお弁当は持ち歩いています」


そうして三人は何処かで弁当を食べる事にした。

体を動かして、丁度腹が空いている時間帯。

長峡仁衛は二人と共に何処か空いた教室へと向かうのだった。

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