第18話

紙コップに注がれる暖かめなお茶。

水筒の中身は麦茶だった。香ばしい匂いが湯気と共に香って来る。


「祝子川さんが作ってくれたおにぎりです」


紙皿におにぎりを置いて、長峡仁衛や贄波瑠璃におにぎりを差し出す。


「あぁ、あの小さい子、長年生きているだけあって料理はお手の物ね」


そう言って器用に贄波瑠璃は割り箸を動かしておにぎりを掴むと、三角おにぎりの先端を齧る。


「……あのさぁ」


長峡仁衛は料理を前にして、合掌しようとして、やはり何かが可笑しいからと二人の視線を交互に見合わせる。


「ん、どうかされましたか?じんさん」


「言いたい事があるならさっさと言いなさい」


そう言われて、ならば言わざるを得ない。

長峡仁衛は小さく溜息を吐くと同時に。


「なんか、近くね?」


そう言った。

長峡仁衛を中心に、前方には机があり、その机の上にはお弁当や水筒などが置かれている。

普通弁当を囲んで食べると言うのならば、机を挟む様に陣形を組むものだろう。

しかし偏っている。長峡仁衛、その右隣に贄波瑠璃、その左隣に銀鏡小綿。

机ではなく長峡仁衛を挟んで食べる様な陣形であった。


「?別に近くはないと思いますが?」


「当たってんだよ」


銀鏡小綿の接近具合は凄まじい。

何せ長峡仁衛の腕に銀鏡小綿の胸が押し当たる程に接近しているのだ。

腕を動かすたびに銀鏡小綿の柔らかな胸が何度も何度も感触を楽しむ様になっている。


「たかが胸くらい良いじゃない。意識し過ぎよ」


「お前は近すぎるっつーか掴んでるんだよ」


贄波瑠璃は最早、長峡仁衛の腕を掴んでいた。

恋人が甘える様に腕に腕を絡めて離さない様にしていた。

そして喋る度に贄波瑠璃が長峡仁衛の耳元で喋る為にこそばゆく感じている。


「確かに、贄波さん、少し近いと思います」


「そうね、銀鏡、貴方もかなり近いわ」


「両方近いんだよ。飯くらい普通に食べさせてくれ」


そう懇願されて仕方なく二人は長峡仁衛から少しだけ離れた。

けれど、銀鏡小綿はおにぎりの供え物である卵焼きを摘まむと、それを長峡仁衛の方に向ける。


「どうぞ、じんさん」


「いいよ、恥ずかしいから」


そう言って長峡仁衛が恥ずかしがって自分で弁当からウインナーを爪楊枝で刺して口に運ぶ。


「ッ!また、反抗期、母は悲しいです……」


これくらいでなんだ、と。長峡仁衛は思っていた。


「ねえ、長峡。その爪楊枝、少し黒ずんでない?」


と、贄波瑠璃は長峡仁衛の爪楊枝を見て言った。

長峡仁衛は自らの爪楊枝を見る。確かに、爪楊枝の腹の部分が黒くなっていた。

安物の爪楊枝だから仕方が無い事だろう。


「見てて気になるから、こっちの使って」


贄波瑠璃が渡して来る爪楊枝を持って長峡仁衛は頷く。


「あぁ……」


「ほら、爪楊枝貸して、回収するから」


そう言われて長峡仁衛は素直に爪楊枝を贄波瑠璃に渡す。

贄波瑠璃はその爪楊枝を受け取ると、ポケットからジップロックを取り出してその中に入れた。


「これで良し……」


「良しじゃない、捨ててくれよ、そんなもの」


「捨てるわよ。使い終わったら」


「何に使うんだよ」


そんな問答が行いながら、賑わいのある食事を行うのだった。

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