小道NOワンダーランド

知らない小道を歩くことができない

ぽっかりと開いた深淵は

一度入ったら戻れないような

違う世界に導かれてしまうような

ひどい不安と有り余る好奇心

せめぎ合う中で恐ろしさが勝った


小道は深緑色の木々の屋根で

葉と葉の間から漏れる太陽が

ただ一つの街灯だった

剪定されていな小道に

親子が消えていく


この小道を通り過ぎて

毎日を送っていると

路地に入っていく人を幾人いくたりも見る

誰もが当たり前な顔と

無表情な顔と

買い物袋が重いのか溜息をつく人

親子や老人、自転車と諸々

意外にも小道は人気スポットだった


入ってみようと思ったのは

酷く疲れた日のことだった

このまま違う世界に行けないかと

思ったから小道に入って

進む、進む、太陽から隠れた小道は

とても涼しくて

とても葉と水の臭いが立ちこめていた

舗装されたアスファルトが足を叩く


すると開けた場所に出た

左手は幼稚園、右手は公園

前には家々、空があり

まだ道は続いていた

立ち止まったのは十字路

ここは一本道ではなかったのか


知らない場所だが

一気に現実へと戻された

やはり、どこへも行けないのか

でも、右側から子どもの声がする

左側からも声がする

道には等間隔でベンチがあって

それに座って電話をしている人が

ただ座って休憩している人が

肩を落としながら一服している人が

いた


ここは間違いなく異世界だ

知らないもの、こんな場所

感動も落胆もポイポイと捨てて

踵を返す

途端、

その小道は深緑色の木々に覆われ

屋根のようになっていた

葉と葉の間から光りが零れ落ち

天然の街灯になっていた


ぽっかりとした深淵が目の前にある

ああ、私はこの小道を歩いてきた

一度入ったら戻れないような

違う世界に導かれてしまうような

ひどい不安と有り余る好奇心

せめぎ合う中で帰ろうと思う


もうここは不思議な小道ではなく

どこにでもあるような

ただの小道だった

そして、ちょっとだけ安心して

ちょっとだけ、また明日があるんだなあ

と、足を踏み出し

家路についた訳だ

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