第17話 新人冒険者、先輩からお呼ばれする。
「……と、ともかくですね」
異次元3人組による懐かし話を無理矢理頭の隅に投げ置いたカルファは、金髪のロングストレートをふわりと風に揺らしてジェラートを向く。
「バルラ帝国第八魔法大隊兵長、ジェラート・ファルルの身柄は大聖堂にて預かります。ローグさん、よろしいですか?」
「あぁ、俺は特に異論はないよ。ここまで来たんだから、どうなってるのかだけは知りたいかな」
「もちろんです。それに、バルラ帝国の手がサルディア皇国に入ろうとしているのなら、ますます存続の危機ですからね」
ジェラートに聞かれないように、カルファはローグに「それに、皇王の崩御の件もありますから」と苦い顔で耳打ちする。
現在、ローグの知る範疇でさえサルディア皇国の問題は山積みだ。
亜人族の急襲で皇国正規兵の6割の焼失に加え、皇王の死去。そしてバルラ帝国の手の者が、サルディア皇国お抱えのエルフ族を支配下に置いている上に、それを全く把握出来ていなかったという事態は、切実だ。
今までの醜悪政治の皺寄せに加えて、把握出来てすらいなかったことはカルファの背にどっと新たな重荷が追加されたようだった。
カルファは自らを鼓舞するかのように、パンと両手で頬を叩いた。
その頬は、ほんのり赤みを帯びていた。
事が終わっていたのを家の影から見守っていたエルフ族たちに、カルファは言う。
「皆さん、この度はサルディア皇国皇王代理として深くお詫び致します。と共に、翌朝には再び、私兵と共に皆さんの衣食住を今度こそ保障させてください」
深々と何度も頭を下げるカルファに、エルフ族達は奇異の目で見続けていたのだった。
○○○
「……ふんごぉぉぉ! ふんごっ……ふんごぉぉぉぉっ!!」
道中、ゴブリン達を駆逐していたゾンビとスケルトンの大軍を指揮し、地中に戻らせた後は階層階段を登るだけで、その間カルファはずっと何事か思案している様子だ。
再度気を取り直して、カルファは銀鎧の首元に記された龍の国章を見て決意を固めているようだった。
「そういえば、ローグ様。ラグルドという人間から、ローグ様に
何とか抵抗しようと、ローグの肩の上で暴れ回るジェラートだが、ローグはぴくりとも動かさない。
そんなジェラートの目を侮蔑するように見ながら、イネスは手の中に少量の魔法力を込めた。
瞬間、目をぐるぐるまわしながら、くたりと意識を飛ばしたジェラートだったが、カルファは何をしたのかすら分からず、恐怖のあまりイネスの手を二度見、三度見するしかできずにいる。
そんななかで、満を持してと言った具合でイネスが懐から羊皮紙を取り出した。
「ラグルドから……?」
「はい。読み上げますと、『カルファ・シュネーヴル様との会合が終わり次第、冒険者ギルド《アスカロン》に顔を出せ。これは、冒険者としての先輩命令だ!』とのことですね。ローグ様に命令を出している不届き者ということで処分致しましょうか?」
眉間に皺を寄せて羊皮紙を眺めるイネスに、ローグは目を輝かせながら、
「先輩冒険者からの命令……! なんって、なんって尊い言葉か……ッ!」
そう呟きながら星の輝く夜空に天を掲げた。
『主も、今日から冒険者とやらになったのだから良かったではないか。これで心置きなく「友達」とやらが作れるのではないか?』
「ぁぁ、そうだぞニーズヘッグ! 冒険者ってのは、友達100人作れて、皆と助け助けられを繰り返しながら、互いの結束と友情を深めていく素晴らしい職業なんだからな!」
「冒険者の頂点へと瞬く間に登っていくローグ様を、最も近くで見届けさせていただけること、とても光栄に思います……!」
「まぁ、そうは言ってもまだ清掃任務しかやってない駆け出しなのには変わりないけどな? もしかしたら、生意気な後輩だって締められるかもしれないし、パシリに使われるかも知れない。先輩の荷物持ちしたりするかもだけど、それこそが仲間の醍醐味! 上下関係の真髄だからな!」
「ローグさんの冒険者像に、多少の歪みが感じられますね……」
苦い顔で呟くカルファだったが、イネスから差し出された羊皮紙を受け取ったローグは、大切そうに言伝の書かれたそれを見つめて、にんまりとだらしない笑みを浮かべた。
カルファは
「分かりました。ジェラート・ファルルの身柄は大聖堂の方にて預かるので、ローグさん達は《アスカロン》に向かって下さい」
《デラウェア渓谷》の最上階層、ピカピカの1フロアを横切って地上に戻ったローグは、来たる冒険者生活に大きく胸を膨らませていた。
鼻唄交じりにギルド《アスカロン》へと帰還していくローグ。そしてその後ろで、主の喜び以上に嬉しそうにしているイネスと、ニーズヘッグ。
「カルファ様、《獅子の
「えぇ、大丈夫です」
カルファはようやく合流した皇国兵士カイムらと目を合わせた。
「それよりも、私たちもそろそろ覚悟を決めねばならない時が来たようです」
「……はぁ?」
要領を得ないカルファの言葉に、カイムは頭に疑問詞を浮かべる。
「世界七賢人として共に闘った仲間と、敵対しなければならないかもしれないということですよ」
そう夜空を見上げて呟くカルファは、少しばかり、寂しそうだった。
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