オレは勇者だから

椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞

オレがいなくちゃ、あの世界はダメになるんだ。

「帰るんだね」


 


 コユリは、勇者テオと握手を交わす。



「ああ。オレは勇者だからな」



 聖剣を担いで、勇者テオは空を見上げた。


 テオはいわゆる「オレ女」だ。



 地球に召還された彼女を最初に見つけたのが、コユリである。


 戦いしか知らないテオに、コユリはラムネの味を教え、課金ゲーのワナを伝授し、夕焼けのまぶしさを共有した。



 しかし、その日も終わらせなくてはならない。



 テオが決めたことだった。



「オレがいないと、あの世界はダメになるんだ。行かなきゃ」



 彼女が見上げる先には、異界へ通じる穴が。


 向こうの世界なんて何も分からないコユリでさえ、あの先が危険な場所だとわかった。



「でも、あんた追放されたんでしょ?」



「うん。『危険だから』って」



 女神は勇者を、この地球へ「追放」したのである。


 彼の身を案じてのことだった。



「『あとは自分たちに任せて、他の世界で楽しく暮らせ』だとよ。あのクソアマ。そんな見え見えの嘘で、オレがだませるかっての」



 クソアマとか悪態をついているけれど、心底心配しているのは伝わってくる。



「じゃあ、早く行かなくちゃだね」




「行かないで」なんて言えない。言ってはいけなかった。


 決意を鈍らせれば、あの先にいる人々が大勢死ぬから。


 


 でも、テオは死んでいいの?


 


 たしかに、あの世界を救えるのはテオだ。


 コユリは、テオを信じている。


 けれど、もうこれで終わりなのか?



……そんなわけないじゃん!



「コユリ、さよならは言わないぞ」



 必ず帰ってくると信じて、送り出すんだ。



 だからコユリは、こう締めくくった。



「うん。またね!」 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

オレは勇者だから 椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞 @meshitero2

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ