第4話 町のすみっこ(ニ)
すべて、さる高貴なお屋敷からのいただきもので、先ほどそのお屋敷からこのねぐらまで、転ばぬように運んでまいりました。ここにいる誰の口にも入ったことがないような大ご馳走。
誰かのお腹がぐう、と鳴りまして、あはは、と明るい笑い声が次々と。
「さあ、手を洗ったかい? お祈りは?」
こんな地べたを這いまわる稼業で、いかつい大女の姐さんですが、見かけによらず信心深いのでそのあたり、みな言いつけを守ります。
ところがお祈りの間、メアリはそっと薄目を開いて、マーガレットを見ておりました。
信心深いマーガレットのお祈りの形は堂に入っていて、その姿が死に別れの母さんに似ていることに気づいて以来、ときどきこうして見るのが好きだったのです(しかしもちろん黙っております。なぜなら大事なお祈りの最中に薄目なんぞ開けていたのが知られたら、大変ですから)。
「じゃあ、お上がり」
一番の年上、エリーを頭に、トム、オリバー、メアリ、そしてジャック、と、総勢五人の子供たちです。
とり分けた肉もパンも、みんな、よくがっつきますこと。
「それにしても、いつものことながら金持ちの考えることは、わかりゃしねえなあ、姐さん」
古着屋に押しつけられた破れ手巾を胸ポケットから見せている茶色の巻き毛、トムが言いました。
「あんな汚れた人形と、蓋もあかない空瓶ひとつに、このご馳走だ。
それに金だって。一体、あれが、なんだというんですかね」
「そりゃあ、お前、例の連中と同じことさ」
眉ひとつ動かさず、マーガレットは含めるように申すのです。
「インドの壷やら、中国の人形、日本の茶碗、そういうものに凝る連中が、世間にゃいくらでもいるだろうよ?」
「そうだなあ」
「それには、きれいなものもあるさ。
だけど、そんなものに目の色を変えちゃあ、かつぎ屋、山師、そんな奴らの思う壺、お前さん方のほうが、よく知っているじゃないか」
子供たちは、あはは、と、笑います。
「Ⅾ伯爵様のことかい、姐さん」
「はは、親切な方なんだけどなあ」
ご当人のいらっしゃらない場所ではみな、大胆な批評をするものです。
「ほんとうに、物好きなことでいらっしゃるなあ」
なにを隠しましょう、この今晩のごちそうは、みなD伯爵からのもの。
かのお方は好事家で知られ、そのお屋敷には世界中から取り寄せためずらしい宝物で埋められた部屋をいくつもお持ちだと名の高いことであらせられるのでした。
「まったくだよ。まったく物好きだ」
こんなくず拾いの子供たちにまで声をかけて、珍しいものを持ち込むように網を張っておられるとは!
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