ミックスブラッドオンライン

マルルン

 『始まりの森』の章

第1話 架空世界は膨大な情報で出来ている




 忌憚きたんの無い意見を聞かせてくれ、君は世界は何で出来ていると思う? こまっしゃくれた真理なんかじゃない、つまりは私がしたいのは問答だ。

 愛だとか助け合いだとか、平和なイメージを並べてくれてもいい。所詮は損得勘定で動く、無機物の個性の集合体ってひねくれた意見も大歓迎だ。

 死ぬまでの暇潰しとしてのステージってのも、私は大いに賛同出来るね。


 う~ん、問答の内容が少し漠然とし過ぎているかな……? 砕いて言うと、私の問いたいのは生きている意味とか、運命とかそんな青臭い言葉の真意なんだ。

 私に言わせて貰うと、世界は“不平等”で出来ているね。差別とか格差と言い換えても良い、人間が生活するうえで切っても切り離せないランクと言う硬くて不条理で高い壁。

 人はそれを、せっせと生産しながら生きているのさ。


 もちろん、私がそんな考えに至るのには理由があって。生きている意味だとか、この歳で厨二病の様な事を悶々もんもんと考えるに至った理由なんだけど。

 つまりは、私は存分にその“不平等”の恩恵を受けている訳なんだ。


 自慢話と取られるのもアレだけど、私は大金持ちなんだ。一代で資産を“億”の単位に押し上げた、俗にいう成功者って奴さ。

 自分は選ばれた人種なんだと、以前は誰はばかる事無く公言していたね。


 ほらね、人生は平等じゃないって思うだろう? そりゃあ当然と言われれはそれまでだけど、じゃあこの差別ってのは一体どの地点から始まったか、君は不思議じゃないかい?

 私は不思議だね、気になって仕方がない程度には。


 学生の頃、私が借りていたコーポの部屋に洋系の宗教の勧誘が来た事があって。神様はこんな平等な楽園を願っていると、一枚のイラストを見せてくれたのさ。

 私はそれに、猛烈な違和感を覚えたね。だって、草食動物と肉食動物が仲良く地べたに横たわっているんだよ? インパラは草を食べりゃいい、だがライオンは何を食べれば?

 不平等じゃないか、そこは神様が何とかしてくれるのかい?


 よく上流階級の人間は、自分達を“選ばれた人種”と呼称するけれど。一体誰に選ばれたんだろうね、平等を愛する神様じゃない事は確かだけれど。

 もし万が一神様が選んだとしたら、その意図は一体何だろう?



 話は少し変わるけど、君はゲームは好きかい? ホラ、今流行のVRMMO――つまりは、バーチャ系のオンラインゲームとか。

 私は一時ハマってね、時間を惜しまずにプレイしたものさ。


 あれだけリアルに擬似情報を体感出来ると、もはや“実在する”架空世界と呼んでも差し支えないね。第二の故郷リアル世界、見知らぬ人々の生活や交流を観察する場には持って来いだ。

 そう、私のこだわっている問題の根本は、人の創り出す精神活動の神秘性なんだ。


 それもやっぱり神様プロデュースなのかな、まぁどちらでも大した違いは無い。金持ちの戯言と思って貰っても結構、とにかく私はその場所(架空世界)なら、存分に神様の真似事が出来ると気付いてしまったんだ。

 物好きと笑ってくれて全然構わない、私にはそれをするだけの時間と資産がある。神様の真似事をして、その意図を探る――そして、この不平等はどこから来ているのか突き止める。

 そう思ったらもう止められない、大それた事だと思うかい?


 ――なに、所詮幾ら金を蓄えてたって、あの世まで持って行ける訳でも無し。







 さて、さてさて……俺の話を少ししようか。いやいや、まずはゲームの話が先かな? どういう経緯で、俺がこのゲームを始めたのかを説明する必要は、ある様な無い様な。

 ぶっちゃけて動機を述べてしまうと、恥ずかしながら全てはお金の為なんだけどね。恐らくは他のプレーヤーと同様、このゲームに懸けられた賞金が目当てと言う訳だ。

 どこぞの物好きな金持ちに感謝、そして無償で筐体を貸してくれた幼馴染にも一応。


 って言っても、大した知識も持たないでゲームを始めたのは、さすがに無謀以外の何物でも無いと思う。一緒の部屋でログインしている琴音ことねからは、少しだけレクチャーを受けたけど。

 ゲーム内で、すぐに合流出来るとの予想は大外れ。俺は今、たった一人で広大な森の中にいる。右を向いても左を向いても、視界に拡がるのはお互い一定の距離を保って伸びる木々のみ。

 いや、他の生き物の気配も漂って来てはいるかな?


 それが敵なのか味方なのか、判然とはしないけど。ゲーム世界なので、取り敢えず戦うべき敵はいると判断して。こちらの戦闘準備は、実は全く整っていない次第である。

 チュートリアルも無いっポイね、キャラメイクの段階で少しばかり情報は貰ったけど。いわく、混雑が予想されるので『始まりの森』でソロの期間を取らされるとの事。

 それを突破出来て、初めて冒険者の集う街へと到達可能だそうな?


 まぁ、確かに混雑するとの見方は当たっているだろう。何しろゲームで勝ち残れば3億円もの賞金をゲット出来るのだ。こんな、俺みたいなプレーヤーも参加する程度には。

 世間の注目度も、そりゃあもう! ってな具合である。


 もっとも、主に経済的な理由でゲームとは無縁の生活を送っていた俺に関しては。半ば強制的に、勧められるままにゲーム世界に放り込まれた状況だったりする訳で。

 取り敢えず指針として貰ったアドバイスは、冒険者の心得的な初歩も初歩のモノばかり。つまりは敵と戦って経験値を得て、成長して強くなりなさいとか。

 クエを受けたりミッションをこなしたり、積極的にこの世界に関わりなさいとか。収集したり生産とかも出来るから、お金を稼ぐ上で上手に活用しなさいとか。

 要するに、“冒険者”を頑張りなさいって助言なのだろうけど。


 現実世界では、まず有り得ないシチュエーションではある。それがこのバーチャ系のオンラインゲームの、大いなる売りではあるらしいのは分かってるつもりだが。

 慣れない俺にとって、この自由度の高さは鬼門でしか無い様な。


 考え込んでいた俺の背後から、ガサッと草を揺らす音が聞こえて来た。敵の出現かと緊張して振り向いた視線の先に、モコッとした小柄な生き物が出現する。

 慌てて武器の弓を取り出して、俺は矢をつがえて射る構え。この弓矢は先程のキャラの作成空間で、俺が色んなカテゴリーの中から選択した武器である。

 だって遠距離武器は有利だし、サブにナイフも付いて来るって話だし。


 凄いお得ジャンと、少々舞い上がって決定したのはナイショである。ところが構えた瞬間、猛烈な違和感が我が身を襲った……うん、真っ直ぐ飛ばせる自信が全く湧かない……。

 コレって、確かスキルの補正が戦闘に付くって話じゃなかったっけ?


 散々身体に力を入れたり抜いたりして、何とか第一射を向こうの草むらまで飛ばしたけれど。ヒョロッと言う感じで、放たれた矢は力無く的外れの場所へ。

 それを敵対行動と捉えたウサギ型のモンスター、無傷のままでこちらに向かって来なすった。もちろん次の矢を構える暇も無し、記念すべき最初の戦闘はこうして幕を開けた。

 仕方なく俺は、何の飾りも無いナイフを抜いて構える事に。


 結果だけ言えば、ナイフでも何とか兎モンスターを倒す事には成功したっぽい。アレコレしている内に、こっちのHPも4割くらい減ったけどね……?

 こんな危ない橋を何度も渡っていては、初日にして早々とリタイヤしてしまうのは目に見えている。今回の賞金獲得イベントの制限として、『一度死んだら終わり』って項目があるらしいのだ。

 正確には、同一IDでのこの限定サーバへの侵入不可規制らしいんだけど。


 つまりは、平常運転している通常サーバのゲームエリアにログインするのは、何の問題も無い訳である。他にも1日のログインは1時間限定とか、規制は色々とあるらしいけど。

 恥ずかしながら、全部は覚えていない次第である。何しろこっちの世界のルールを覚えるだけで、割と精一杯だったりしたので。こんな調子で、果たして冒険者をやって行けるのか……。

 そもそもゲームって、楽しむためにプレイするものじゃないの?


 そうだな、もっと気楽に前向きに考えて行こうか。熱心にゲームに誘ってくれた琴音には悪いが、敵に倒されて権利を失ってしまったなら、その時はその時だ。

 そうならない様に努力はするが、初心者なのだから至らないのは仕方がないと言うか。それよりこの貴重な疑似空間での経験を、もっと満喫して行こうじゃないか!

 なにしろこのゲーム筐体の売りは、『4倍速』の疑似空間体験らしいのだから。


 簡単に言うと、脳がそう錯覚してしまうって話らしい。ほら、夢とかも人が目覚める一瞬の時間に見るらしいじゃない。このゲームも同じく、時間を引き延ばしてしまえるらしい。

 この物凄い技術、今の所はこのゲーム筐体の独占仕様となっている。将来的には学校の授業や、その他の分野に導入されるんじゃないかと期待はされているみたいだけど。

 人体に対する負荷とか、実はまだ全く検証されていないんだってさ。


 そこら辺の危険性はまぁ、グレーと判断されての発売に至ったらしいけど。携帯電話が普及し始めてた頃も、電磁波が脳に与える影響云々との心配は常にあった訳で。

 世間全般は、この最新技術を諸手を上げて受け入れている感じである。その分、筐体はエラク高いらしいんだけど。それを予備を含めて2個も揃えている琴音は、何気に凄いな。

 本人的には、秘かに俺と一緒にゲームをしたがっていたって話だ。


 その望みの半分は叶った訳だけど、せっかくのパートナーが初日敗退しそうってどうなんだ? ここはもう少し力を入れて、こちらの世界に適応せねばなるまい。

 まずは減ったHPを回復……うん、ポーションを使うまでも無い。普通に座って休んでいれば、少しずつ回復して行くっぽい。いや、実はポーション持ってないんだけどね。

 武器を取り出したら、鞄の中は綺麗に空っぽと言う……。


 いやいや訂正、さっき倒した兎のドロップが入っていた模様。兎の肉と兎の毛皮が1個ずつ、ドロップは良さ気で助かるけど。ってか運営さん、ビギナーに回復薬くらい持たせてよ!

 何気に殺意が高い限定サーバ、この先がちょっと心配ではある。


 やっぱりこの『始まりの森』、普通に考えて初心者の振るい落としエリアなのだろう。不条理な罠や絶対にソロじゃ倒せない敵が出て来るとは思わないが、架空世界の常識を知らないせいで倒されるパターンは大いにアリそう。

 改めて自分のステータスを確認するけど、管理すべきポイントバーが4本もある。HPとMPは分かり易い、体力と魔力は休憩したお陰で満タンである。

 もっとも俺のキャラは、今の所1つも魔法を覚えていないけど。


 それからSPはスキルポイントの略らしく、これはいわゆる必殺技を使う時に必要なポイントらしい。戦闘行為をこなす事で微増して行くが、休憩を取ると減っちゃうみたいだ。

 必殺技はどの武器にも用意されていて、その武器のスキルを伸ばして行く事で自然に覚える事が出来るそうな。俺の現在のスキルPは、弓矢と短剣に1ずつ……スキル所持数はゼロ。

 確かポイントが4の倍数で、ランダムにスキルは所有出来るって話だったような?


 魔法も同じ感じで、スキル4Pを覚えたい属性に振り込めば、やっぱりランダムに覚えていけるそうだ。その肝心のポイントだけど、レベルアップ毎に2Pは貰えるらしい。

 つまりこの窮地を脱するには、レベル3まで上げてしまえば良いのだ。


 それとも他に、使えそうな得物を探すべき? 弓矢と短剣で戦闘の度に死にかけるより、その方が余程建設的な気が。ただしこんな森の中、当然の如く武器など売っていない。

 ……まぁ、買おうにもお金は1Gも無いけどな。ここら辺は潔いと言うか、サバイバル感は溢れ返らんばかりである。そう、生き残るためにはまずは知恵を絞らねば。

 サバイバルの原点だ、手元にあるモノと知恵で窮地を切り抜けて行く的な。


 そうそう、言い忘れていたけどポイントバーの最後の1本はスタミナである。最近のバーチャゲームは全般的にゲーム内でも“食事”が可能だと琴音は言っていたけど。

 このゲームもご多分に漏れず可能みたいで、しかも積極的に食事をとらないとスタミナが減って行ってしまうらしい。そうなるとHPやMPにまでダメージが来てしまう仕様なのだとか。

 面倒だけど、冒険者もやはり身体が資本だって解釈で合ってる?


 そんな事を思いながら、休憩ついでに周囲を窺っていた俺である。油断して敵に急襲されたら堪らないとの行為だったのだが、この森の植生に気付けたのは幸運だったかも。

 何と言うか、その辺はやけにリアルで色んな植物で溢れている。探せば木の実やキノコ類も採れるかも知れない、ついでに木の枝で棍棒か木槍が作れるかも?

 幸い手元にナイフもあるし、まずは戦闘より探索を先にしてみようか。


 いきなりの方針の転換で、冒険者と言うより遭難者みたいな境遇だと思わなくもないけれど。このままゲームを進めるよりは、恐らくは良策で建設的だと考えた次第だ。

 取り敢えずは探索だ、不慣れな戦闘行為よりは興が乗るのも確か。


 それはある意味当たりの選択だった、何しろ意外と簡単に食用可能な果実と木の蔦が採集出来たのだ。それから試しに手頃なサイズの木の枝をへし折って、ナイフで加工してみる。

 そんな無理矢理な収集作業でも、システムはちゃんとアイテムを得たと認識してくれたようだ。粗削りながらも、何とか15分後には槍っぽいフォルムの棒が完成。

 アイテム名は“粗末な手製の木槍”で、攻撃力はたったの3である。


 ――粗末な手製の木槍 耐久3、攻+3


 それでも攻撃力はナイフと大して違わないし、こちらの方がリーチ的に有利な筈である。試しに振り回してみても、何の違和感も感じない程度にはしっくりきている。

 逆にナイフで切り掛かる方が、俺からすれば不慣れな動作だったり。そんな感じでメイン武器を交換、試しにと側にいたウサギ型モンスターに突き掛かってみる。

 ウン、最初の戦闘よりは簡単に倒せたような?


 多少は慣れもあるんだろうけど、リーチ差は大きいと思う。それより手作りだけあって、耐久値が低いのがネックかな? これが減ってゼロになると、武器も防具も壊れてしまう筈。

 その位はゲーム経験が無くても分かる、後で予備を作っておこうかな。時間は掛かってしまうが、致し方が無い。それとも修理の手段が、この森のどこかに存在するとか?

 そう言えば、森の探索が一向に進んでいないなぁ。


 何にしろ時間はたっぷりある、家事や勉強に追われる日々の俺にとって贅沢な程に。意識をステータス画面へと向けると、自分のステータスに加えて残り時間が表示されていた。

 うん、こちらの時間でまだ3時間以上も滞在出来るってさ。


 偉大なるは倍速の世界、ゲームのみに使うには勿体無さ過ぎる機能だと思う。その内に色々な分野へと、この架空世界は発展を遂げて行くのだろうけれど。

 今はとにかく、収集したアイテムの分析の方が先。兎の肉は、当然の如く煮るなり焼くなりしないと食べられない様子。さっき採集した木の実は、どうやら生でもオッケーみたい。

 その代わり、スタミナは申し訳程度しか回復しなかったけど。


 兎の毛皮や木の蔦は、今の所使い道がハッキリしていない。何かに加工出来そうな予感はあるんだけど、何かしらの加工スキルがゲーム的に必要な気もする。

 まぁ、後で琴音にでも聞いてみようか。今は手に入れた新しい武器を手に、もっと探索しておきたい。いや、同じ手順でこんどは棍棒とかも作っておきたいかも?

 予備の武器はあった方が良い、自作武器の耐久値の低さを考えれば尚の事。


 ところが実際は、そう都合よくこちらの思惑通りには進まなかった。武器素材の手頃の大きさの木の枝が、何と“採集制限”に引っ掛かって入手出来なかったのだ。

 この“採集制限”は、プレーヤーが好き勝手にフィールドに点在する採集ポイントから素材や果物を採り過ぎないようにとの規制らしい。確かにそうだ、無制限は色々と不味いだろうし。

 ゲーム世界なのだ、上限はあって当然なのは理解出来る。


 その制限が無いと、換金可能な素材を取り放題で、あっという間にインフレが巻き起こっちゃうだろうし。それでもさっきのポイントは、一応記録しておきたいかも?

 時間の経過と共に、その後も採集にお邪魔するかも知れない。


 マップの開き方を試行錯誤していたら、色々と一度も開いていなかった簡易ウィンドウがあるのを発見してしまった。自分のステータスとか、目視可能な情報は結構あるみたい。

 それはまぁ、今はいいやと華麗にスルーして。だって『初心者Lv1』の弱っちい数字の羅列なんて、見ていて感心出来るモノなどでは決してない。

 それよりマップは……ああ、ちゃんと見付ける事が出来ました。


 何か結構歩き回っていた模様、このゲームはオートマッピング仕様みたいで、俺が歩き回った場所はくっきりと雲が晴れた様に表示されているんだけど。

 良く見ると、スタート地点の側に鈍く光る光点が1つ。どうやら最初に訪れるべきチェックポイント、見事に無視して徘徊していたようですなぁ。

 ちょっとだけ反省、いやでも俺初心者だし?


 何と言っても、まだこちらでは1時間も経っていない訳だから。そんな遠回りしたとも思わない……とか考えつつ、元来た道を戻ってみたり。

 そう言えば琴音から、敵が入って来れない安全地帯があるって聞いたような。そこ以外でログアウトするのは、正直危ないよと釘を差されていた記憶がある。

 ふむふむ、それならスタート地点の近くにあるのは納得出来る。


 それをまるっと無視したのはご愛嬌、ってか本当にNPCの1人にも出会っていない現状を鑑みるに。ちょっと不安なのは仕方がない、アドバイス無しに突き進んで痛い目を見たくないのは誰だって同じである。

 このゲームのNPCの人工知能、物凄く秀逸なんだとの噂もあるし。


「おっと、この辺りがスタート地点になるのかな……?」


 10分足らずで戻って来れたその場所だけど、確かに何となく見覚えがある。その間に3匹ずつ兎と芋虫型のモンスターを狩って、見事初レベルアップを果たす事に成功して。

 良く分からないが、ステータスなどの数値が微増してくれたらしい。HPやMP、それからスタミナなどもレベルアップに伴って上昇してくれた模様。

 てんで初心者には変わりないが、まぁ生存率も微増したかな?


 そんな事を考えつつ、ようやくそのエリアに到着したのはスタートから約1時間ちょっと後の事。ちなみに貰えたスキルPは、今回はまるっと保留しておいた。

 武器スキルに注ぎ込むのも考えたけど、やっぱり魔法も使ってみたい。せっかくの手持ちのMPが勿体無いってのもあるし、ファンタジーを満喫したいって思いもある。

 割とミーハーで節約根性の漂う理由だけど、それが自分と言う人間な訳で。




 中立エリアは、温かで静謐な空気が漂った一種独特な空間だった。何と言うか、冬の温室に入った時の様な空気の違いは、肌にヒシヒシと感じるのだけれど。

 敵に襲われない場所ってのは、まぁ正直有り難いモノではある。その代わりと言うか、ここに居座っていても経験値は入って来ないし、勿論のこと物語は全く進展しない。

 いや違った、広場の中央に目を引く大樹が1本。


 ――恐らく、ここから物語が始まるのだろう。この『始まりの森』を突破する為の、数多のキャラクターたちが織り成す振るい落としのバトルロイヤル。

 もちろん、この俺もその中の一人だ。そして簡単にドロップアウトしてやるつもりはない。難易度は未だに判然としないが、簡単過ぎる事は絶対にないだろう。

 俺は中央の大樹を仰ぎ見ながら、そんな事を思っていた。





 ――そうそう忘れていた、このゲームのタイトルだが『ミックスブラッドオンライン』と言うらしい。琴音曰く、この手のVRMMOの中では断トツの出来と売上との事。

 ついでに言っておこうか、俺の名前は八崎恭輔はざききょうすけ――どこにでもいる、普通の高校生だ。






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