雨の色
執筆日:2018/04/09
お題:『黒』『黄色』『雨』
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「雨が、黒い」
彼女はそう言って、空を見上げる。
「じっとりしていて、すごく苦い」
彼女は、まるでその雨を口にしたかのように、顔をしかめる。
「重たくて、冷たい」
……そろそろ耐えられない。
「あのさあ、またその話なの?」
僕が半ば苛立って言う。
「その話以外なら何の話?」
「でも!雨は黒くないよ。どう見たって普通の雨だよ!」
僕がそういうと、彼女はキョトンとして言った。
「普通の雨ってなに?」
その答えに、思わず溜息をつく。
「毎回違う色の雨なの。普通なんてないんだからね」
彼女はそう言って笑う。
僕はやれやれと頭を抱える。
目の前で降っている雨は、間違いなくただの普通の雨なのだ。
「——君と一緒にいる時」
「えっ?」
彼女は突然話し始める。
「いつも雨は黒い」
彼女は僕をまっすぐに見つめてくる。
「雨は黒くて、肌に当たると氷のように冷たく、重い。試しに舐めるととてつもなく苦くて、じっとりとした感覚がいつまでも残る」
彼女は空を仰ぎ見て、目を閉じる。
「そんな雨」
試しに手を伸ばしてみても、ただの雨だ。黒くないし、冷たいけど氷のようとまではいかない。重くもない。舐めても苦くない。じっとりもしない。
「……一人きりの時は?」
気になって、聞いてみた。
「うーん、その時によって違うけど、今日は黄色い雨だった」
「黄色?」
「うん。肌に当たると少しだけちりっとして、少し熱いの。舐めてみるとレモンの味がするよ。あとね、舐めた後は少しだけスーッとするの」
彼女の笑顔につられて、僕も笑った。
いつの間にか、笑っていた。
「雨が、茶色くなった」
彼女はそう言って、手を差し出す。じっと見つめて、ぺろりと舐める。
「肌に当たると少し冷たくて、でも同時に温もりも伝わってくる。舐めるとコーヒーみたいな味。さっきみたいに、じっとりはしないよ」
彼女は再び笑う。
「この雨、初めて見る雨だよ」
彼女の見る「雨」は、もしかしたら……。
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