彼女の彼女による彼女のための小説

lunaneko

第1話 ちょっと、皆さん、聞いてもらっても?

 僕は困っていた!


 いや、悩んでいる?


 現実からあまりにかけ離れた現象に、対処できずに当惑している。


 あっ、済みません。どうしたものかと考えていて、自己紹介がまだでした。

 僕の名前は、桜 吹雪と申します。

 そうです。「桜吹雪」です。

 姓が桜なもので、やんちゃな父が洒落で吹雪と命名してしまったそうな……。

 また、吹雪といえばなんか強そうなイメージありますよね?でも全くそんなことなくて、ただ細長いだけなんです。


 それから、働きながら趣味で小説かいてます。二十五歳の独身で両親と同居しております。

 

 それでですねぇ、今しがたご紹介いたしました中に趣味の小説というのがあるのですが、悩みの種はコイツなんです。家族間の問題と思われた方もおられそうですが、違うんです。趣味の小説の方なんです。大事なことなので……


 僕は、「ユキカキ」というペンネームで、恋愛経験などほとんどないくせに、ラブコメを書いています。何作か書いていて投稿したり、書き溜めただけで投稿せずの作品があったり、いろいろなんですが。


 それで問題は、数日前から投稿しはじめた作品でのことなんです……



 作品タイトルは『花より団子よりありよりの梨』で、主人公は十七歳の女子高生。名前は藤堂 梨々香、富裕層の子息子女ばかりが通う私立学園『英明学園』在学。腰まで届く長い黒髪で、クール系の容姿だが誰にも優しく接しやすく、男女を問わず学園中の人気の的。もちろん男子からの告白も毎日のようにある、所謂『才色兼備系チートヒロイン』を搭載したわけです。


 そして、投稿開始から三日目、つまり三話目あたりから変化が生じました。


 作中抜粋!

 今日も梨々香は全ての休み時間を学友達に囲まれていた。他愛もない話題でも口元に手を添え、慎ましく微笑みあっていた。

 すると、梨々香の教室へ来客が。廊下側にいた女子生徒になにやら話しかけると、その女子生徒が梨々香のもとへやってきた。

「梨々香さん、生徒会長の一条様がお話があるそうですよ。廊下でお待ちになっておりすとの事です」

 彼女はそう告げると、かるく会釈し自分の席へと戻っていった。


 梨々香を取り囲んでいた友人達がにわかにざわつき、「またいらしたわね」だの「羨ましいですわ」などと口々に羨望の眼差しをむけてくるのだった。


 それもそのはず、梨々香に面会にきた『一条 冬馬』は、容姿もさることながら文武両道、人望も厚く学園中の女子の人気を集める一人なのだ。

 梨々香は学友の輪をはなれ、廊下へと静かに歩いていく。一条の前までくると会釈し言葉をかわしはじめた。


「やあ藤堂君、ご学友との談笑中に呼びたててしまって済まないね」


「ごきげんよう、一条様。こちらこそわざわざご足労願いまして。先日のお話しの返答ですね?」


 先日の話しとはつまり、一条から梨々香は交際の申し入れを受けていたのだ。他の男子生徒からも同様の申し入れは多数あったが、梨々香はその全てを断ってきたのだ。

 断る理由はこれといって無かったが、受け入れる理由も無い。故にそのような心情で交際しても益も無く、時間の浪費とすら梨々香は考えていた。


 しかし、一条はこれで何度目かの申し入れで梨々香も思うところが無いわけでもない。だから今回の申し入れは、受け入れようと決めていた。

 そして、梨々香はゆっくりといちど深呼吸をしてから、


「一条様……わたくしとおつきあい願えま……す……で#%$&#$%# ちょーーーっと待ったらんかーーーい!!!」


 えっ?えっ?


「なに勝手にこんなナヨナヨ男とくっつけようとしとんじゃボケ~ ア~ン!」      


抜粋終了



 そうなんです!

 

 セリフの途中から、勝手に!


 勝手に話しだしたんです!



 

 



 



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