騙し愛
日朝 柳
騙し愛
春の夜風が吹く夜の道。
いつものように僕は自分の生まれ育った町を散歩する。
大きくもなく小さくもないこの町は、昼はたまに車が通って、夜は静かだ。
そんな静かなこの土地を僕はとても好んでいた。
城跡にある小さな公園。街灯が一つだけ付いて砂場を照らしている。
ベンチに腰掛けて音楽を流した。夜の星空は都会で見るよりも多く、そして輝いて見える。
「何してるの」
声が掛かって振り向くと、幼なじみの深雪がいた。クラスではムードメーカーの彼女は僕とは正反対だけど、こうして夜には同じ空で過ごす仲だ。
「いや、今日は寒いなと思っただけだよ」
彼女は気温にしては薄い服装で来たようで、時折肌を擦って温めているのが目に付いた。
僕は来ていた上着を彼女に着せる。
「ありがとう」
「いいよ、僕は厚着をして来たから」
しばらくの沈黙。距離はさっきよりも近づいていた。白い息を深く吐いて彼女は手を擦る。
その仕草が余計に僕の意識をくすぐった。
「あのっ」
「そういえばさ!」
僕の話を遮るように口を開く彼女、頬は少しだけ赤く染まってる。
「今日は三月三十一日だよね」
「うん、そうだけど」
僕の方を向いて真剣な眼差しになる深雪。その距離は徐々に近づいていく。
時計の針の音が、チクタクと響く。それよりも僕の心音は遥かに早く鼓動している。
「あのさ!」
今日僕が彼女を呼んだのはちゃんと理由がある。この気持ちを伝えたい。
「何?」
ドクッドクッドクッドクッ
心臓の音が手を当てなくてもさらに早くなっていくのが理解できた。
「だから、その........」
「うん」
「僕と、」
彼女は僕の言葉を待ってくれている。ちゃんとしろ、僕!
深く深呼吸をして落ち着かせる。心を整えて彼女を見た。
「付き合ってください!」
カチッカチッカチッカチッ
時計の針が鳴り響く。答えを待つまでの時間がとても長く感じる。
そして彼女は悲しそうな顔をして俯くと、再び顔を上げて今にも泣きそうな顔で
「ごめんなさい」
そう告げた。
答えを聞いて僕は悲しさと同時に吹っ切れた気持ちになった。幼なじみだからだと夢を見ていたのかもしれない。
そして傷ついたこの心をみせまいとその場を離れようとした時、後ろから僕に抱きついてきて彼女は耳元で甘く蕩ける声で囁く。
「うそ」
言われて振り向くと、携帯を持った彼女が悪魔的な笑みでそこに立っていた。
携帯を指し示す時刻は00:00。深雪は僕に飛びついてくる。
最高のエイプリルフールだった。
騙し愛 日朝 柳 @5234
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