エンドレスワルツ

おれれお

プロローグ

 スカイハイの宮廷に呼び付けられた。フェニックス家の子どもたち。総勢十二名。

 この度、長兄であるリガロの旅立ちに伴い、他の兄弟たちは一堂に会することになった。


 「アレって本物だよな?」

 「あぁ、間違いない。真剣だ」


 大いなる父、アーカム・フェニックス。

 彼が両手の支えとして杖のように扱うのは、子どもの背丈を優に越える。正真正銘の真剣であり、その一撃は咎人の首を持って証明されていた。

 明朝みょうちょうを告げる鐘の音を合図に、アーカムはおごそかに宣告する。


 「なんじをフェニックス家、九代目当主アーカム・フェニックスの子として認め、アーカム・フェニックスが直々に命ずる。我が家の掟に従い、必ずや信念を貫けと」

 「御意ぎょい!」

 「どうか、誉れ高く死んでくれ」


 アーカムが宣告を終えると大剣は、紫色の邪気をはらんで、刻々こくこくとリガロに迫っていた。

 そしてゆっくりと確実に、リガロの胸部へ切っ先の方が突き立てられていく。


 「ッッ!」


 リガロの肉体は、完全に貫かれた。

 しかし、他の兄弟たちは決して、その様子から目を背けない。それには先ほどの『掟』と、リガロの『旅』とが関係していた。


 即ち『誉れ高く死ね』。

 フェニックス家のモットーであり、何よりも家名を大事に生きろという教え。

 たとえ死んでも名誉があれば不死鳥の如く、永遠に語り継がれると信じて疑わない。

 寧ろ、最も恐るべきことは、ただ日和見ひよりみのまま死んでいき、誰からも忘れ去られること。


 リガロは十五歳の成人を迎えたことで、フェニックス家の掟に則り、ユアメリス大陸を巡って、自らの生きた証を残さなければならない。

 これは他の兄弟も同様であり、リガロの痛ましい姿を未来の自分に重ねて、その煌びやかな瞳に焼き付けているわけである。


 「何が起きている……」 


 兄弟の一人、ランドルが疑問をていする。

 リガロの様子を凝らしてみると、実物の刃は寸前のところで留められていた。だが、今も鋭利な形状の何かに貫かれており、リガロは苦悶くもんの表情を浮かべている。


 これを機に説明すべきだと思ったのか、家臣の一人が名乗り出て、分かりやすく解説する。


 「ランドル御坊ちゃま。アレは、アーカム様のエゴでございます」

 「エゴって、あのマナを根源とする?」

 「さようでございます。この世のありとあらゆる生命に宿りし、自然エネルギーの総称であるマナを根源とすることで、己の思い描く求道ぐどうを具現化することのできる能力。それがエゴ」

 「それじゃあ、アレはーー」

 「閣下のお力でございます。あらかじめ相手に同意を得た上で、強力な制約を課すことのできる。特殊なエゴ、おそらく脱落すれば死が待っています」


 アーカムは息子たちへ、絶対的なエゴを用いることで、半ば強制的に試練を受けさせるつもりだ。

 かつて、自らもそうであったように、兄弟同士の切磋琢磨する競争を望んでいる。


 これから始まるのは、大陸全土を巻き込んで行われる。熾烈しれつな後継者争い。

 今この時をもって、それは始まった。

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