第115話
「グルルルルゥーーーーッ!」
セトが高く吠える。
そしてその鳴き声が響いているのは秋晴れの青い空。そして地面にはギルムの街へと続く道が見え、その周囲には森や草原といったものが広がっている。
ギルドで報酬を受け取り、そのまま子供達と戯れていたセトとともに街の外へと出て来たのだ。目的はもちろんモンスターから素材の剥ぎ取り。……そしてなによりも魔石の吸収だ。
「セト、以前に魔石を吸収した場所に向かってくれ」
機嫌良さそうに翼を羽ばたかせているセトの背で、その頭を撫でながらレイが告げる。
「グルルゥ!」
了解とばかりに短く鳴き器用に空中で方向転換をするセト。そのまま以前魔石を吸収した、林の中央がポッカリとした広場のようになっている場所へと向かうと、40分程で目的の場所が見えてくる。
「……ん? 妙に早いような気がするが」
レイ自身は時間を計っていなかった為に正確には気が付いていなかったのだが、セトは前回片道1時間程度を掛かった距離を40分程度まで縮めていたのだ。これもまた、セトがダンジョンで成長した証なのだろう。
「グルゥッ!」
そしてセトが喉の奥で小さく鳴き、翼を羽ばたかせてその場所へと着地する。
「ふぅ、ご苦労さん。相変わらずセトは速いな」
礼を言いつつ背を撫で、そのシルクの如き毛並みを数分程楽しむ。
「……さて。このままゆっくりと休憩したい所ではあるが、今日の目的はあくまでもモンスターの素材剥ぎ取り。そしてなによりも魔石の吸収だからな。数もそれなりにあるしちゃっちゃと進めるか」
呟きつつ、脳裏に今回のダンジョンで手に入れたモンスターの一覧を表示し……
「いや、数はともかく種類はそれ程多くないか」
思わず溜息を吐くのだった。
脳裏に表示されているリストで一番数が多いのは、当然の如く地下4階の森で大量に襲ってきたウォーターモンキーである。あれだけの群れで襲ってきた為に全てを回収はしなかったが、それでもその数は50を優に超えている。そしてゼパイルから引き継いだ魔獣術の知識により、セトにしろデスサイズにしろ吸収出来る魔石に関しては1種類のモンスターにつき1つのみだというのもある。つまりウォーターモンキーの魔石をセトが吸収してスキルを習得出来なかった以上は以後幾らウォーターモンキーの魔石を吸収してもスキルは習得出来ないのだ。そう言う意味ではミスティリングに詰め込まれている50以上のウォーターモンキーの死体は無意味に数だけがあることになる。
もっとも、それは魔獣術として見た場合だけであり、魔石や素材の類は普通にギルドや他の店で買い取ってくれるのだが。
そして何よりウォーターモンキーの魔石に関しては、既にセトが吸収して何もスキルを覚えられなかったと判明しているだけに、デスサイズに期待するしかないというのも微妙にテンションを下げる要因になっていた。
「まずはノーマルのリザードマンからいってみるか」
呟き、脳裏でリザードマンを選択する。すると次の瞬間にはレイとセトの前にはリザードマンの死体が姿を現す。
「討伐証明部位は尾の先端だったな」
呟きながら解体用のナイフで尾の先端を切り取ってミスティリングへと収納する。その後は鱗を剥がないようにして皮膚を剥いでいき、いつものように剥ぎ取り用の教本を見ながら売れる素材を剥ぎ取っていく。
リザードマンの場合は鱗の付いた皮膚が防具の材料として。内臓のうち数種類が錬金術やポーションといった回復薬の材料として。そして目玉が錬金術で作られるマジックアイテムの材料として売れるようになっている。その本に書かれてある通りに眼球を専用の瓶へと入れ、内臓の売れる部分を取り除き、肉はミスティリング内へと。残りの頭部と内臓に関しては深く穴を掘ってそこへ放り込む。
そして……
「セト!」
心臓から取り出した魔石をセトへと放り投げると、パクリとそれを飲み込むセト。だが、スキルを覚えた時のアナウンスが脳裏に聞こえることは無かった。
「グルゥ……」
セトも残念そうに項垂れている。本来であればそれを慰めたいレイだったのだが、何しろ今日はモンスターの数が数だ。なるべく多くのモンスターから素材を剥ぐべく新たなリザードマンとデスサイズをミスティリングから取り出す。そして同じように処理をし、心臓から魔石を取りだし……
「デスサイズなら……どうだっ!」
空中へと放り投げた魔石を素早くデスサイズで斬り裂いていく。
「……駄目か」
結局脳裏にアナウンスが流れず、溜息を吐くレイ。
その後は既に流れ作業的な状態でリザードマンの討伐証明部位、素材、魔石を剥ぎ取る。肉はミスティリングへ、使わない内臓の類は掘った穴の中へと入れていき、最初のリザードマンの解体から約1時間近くが経過してようやくリザードマンの全てを処理することが出来たのだった。
「次はリザードマン・ジェネラルか。こいつはリザードマンの上位個体だから魔石には期待出来る筈だが……ちっ、教本に載ってないな。素材はリザードマンと同じでいいのか?」
首を傾げつつ、取りあえずリザードマン同様にその鱗の付いている皮膚にナイフの刃先を入れようとする。しかし。
キンッ!
さすがリザードマン・ジェネラルと言うべきなのだろう。その鱗はナイフの刃先を通さずに、逆に欠けさせたのだった。
「幾ら安物のナイフだとは言っても、さすがにこれは予想外だったな」
溜息を吐きつつ、腰に付けている鞘からミスリルナイフを取り出して魔力を流す。レイの魔力を流されたミスリルナイフの刀身は殆ど何の抵抗もないままにその体内へと差し込まれ、いとも容易くリザードマン・ジェネラルの鱗付きの皮膚を剥ぎ取っていく。
その後はリザードマンの時と同様に尻尾の先端部分を切り取り、眼球を保存してから内臓を取り出す。心臓から取り出した魔石はリザードマンの上位種らしく多少ではあるが他の物よりも大きかった。
「で、問題はこの魔石をデスサイズとセトのどっちに使うかだが……どうする?」
「グルルゥ」
レイの問いに小さく首を振るセト。自分よりもレイが使うデスサイズに使って欲しいとその円らな瞳で訴えるその姿に、レイは思わず笑みを浮かべてセトの頭をコリコリと掻いてやる。
「悪いな、じゃあセトの気持ちに甘えさせて貰うよ」
「グルゥッ!」
レイの言葉に高く鳴くセト。その声を聞きながらリザードマン・ジェネラルの魔石を空へと放り投げる。
「はぁっ!」
デスサイズで2つに分断し、煙のように消え失せ……
【デスサイズは『飛斬 Lv.2』のスキルを習得した】
脳裏へとスキル習得のアナウンスが鳴り響くのだった。
「飛斬のLv.2か。確かにジェネラル、つまりは将軍なんだからおかしくはないが……ちょっと予想とは違ったな。リザードマンというくらいだし、てっきり水関係のスキルを覚えるものだと思ってたんだけどな」
呟きつつも、デスサイズを構えて周囲を覆っている木々目掛けてデスサイズを振るう。
「飛斬!」
その声と共に一閃されたデスサイズ。そこから飛ばされた斬撃はLv.1の時と同じく1つ。ただし違うのは、その威力だった。
何しろLv.1では木の幹へと大きく深い傷を付ける一撃だったというのに、今放たれた斬撃は木の幹そのものを切断してしまったのだから。
「なるほど。確かに威力は上がってるらしいな。けど……」
「グルゥ?」
どうしたの? と首を傾げているセトの頭を撫でながら内心で考える。
(確かに威力は強い。だが、逆に考えれば威力が強すぎるという恐れもある。手加減をしたい時に威力の弱い飛斬を使いたい時は……いや、今はまず魔石と素材の剥ぎ取りだな。威力に関しては後で修行するなりなんなりして調整出来るようにするしかない。これも要修行、か)
「いや、何でも無い。取りあえずリザードマン・ジェネラルの魔石でスキルを覚えることが出来たのは運が良かったな。さて、次はっと」
呟き、ミスティリングから次のモンスターを取り出す。
次に姿を現したのは巨大な蜘蛛だ。リザードマン・ジェネラルと共に襲撃してきたモンスターなのだが、レイの炎の魔法により身体の半分と共に魔石も焦げて既に消滅している。
「……惜しいな。蜘蛛だからセトに使わせれば糸系のスキルを入手出来たと思うんだが」
溜息を吐きつつも、教本に従って素材を剥ぎ取っていくレイ。とは言っても、半分以上が焦げている状態なので取れる素材は殆どない。
「まずは足の先にある爪。糸を吐き出す器官は……駄目か。同様に牙の部分も駄目だな。内臓の類に関しては全滅か。まぁ、爪が取れただけでも運が良かったと思うべきだろうな」
「グルルゥ」
溜息を吐くレイに、セトが慰めるように頭を擦りつけてくる。
「ああ、問題無い。この大蜘蛛から魔石や大量の素材が取れるとは思ってなかったからな。数本の爪程度でも取れてラッキーだったという所だな。……で、セト。お前この蜘蛛を食う気があるか?」
「グルゥ?」
「あー、俺か? 俺はさすがに蜘蛛はちょっとな。これがせめてオークとかのモンスターなら人型であってもそれ程抵抗感がないんだが」
「グルゥ!」
食べる! と言うように高く鳴くセト。
「……いやまぁ、食べるならそれはそれでいいけど。確か料理漫画か何かのサバイバル編のようなのではチョコの味がするとか何とかあった気がするし……」
レイ本人としては掘った穴にリザードマンの内臓と共に捨てたかったというのが本音だったが、セトが食べるというのならそれを聞かない訳には行かずにミスティリングへと収納するのだった。
「さて、気を取り直して次だな。……ウォーターモンキーか。まぁ、これは数が数だけに取りあえず1匹だけだな」
既にセトはダンジョンでウォーターモンキーの魔石を吸収している為、デスサイズ用に1匹だけミスティリングからウォーターモンキーの死体を取り出す。さすがにアイテムボックスの一種でもあるミスティリングと言うべきか、現れたウォーターモンキーの死体はまだその毛皮に水を纏っているままだった。
ウォーターモンキーに関してはダンジョンの中でも捌いていたので、特に躊躇もせずに通常のナイフで討伐証明部位の右耳を切り取ってから毛皮を剥いでいく。その後は頭部を切り取り、内臓と共に穴の中へと捨てていく。そして心臓から取り出した魔石を手の上で弄ぶ。
「さて、ウォーターモンキーという名前なんだからもしスキルを入手出来るのなら水系統の物なんだろうが……」
ひょいっと空中へと放り投げ、デスサイズで一閃。リザードマン・ジェネラルの魔石のように真っ二つになって消え失せる。
「……駄目か。これは俺が炎の魔法を得意としているからとか、そういう理由で相性が悪かったりするからなのか? いや、セトもダンジョンで魔石を吸収してもスキルを習得出来なかったからそういう理由じゃないと思うが……と言うか、そもそもセトは水球のスキルを持ってるしな」
溜息を吐きつつ、すぐにセトが食べられるように肉の状態になったウォーターモンキーをミスティリングへと収納する。
「次はウォーターモンキーの希少種だな。希少種だけにスキルを習得出来る可能性も高いだろう」
呟き、ミスティリングから希少種の死体を取り出す。
その大きさは1m前後のウォーターモンキーと比べるとかなり大きく、それ故に希少種と呼ばれる程の能力を得たのだろうと理解出来た。
ただし希少種とは言っても基本的にはウォーターモンキーと同じであり、その解体手順もさして変わらない。討伐証明部位の右耳を切り落としてからナイフで皮を剥ぎ……とウォーターモンキーと全く同じ手順で解体をしていく。そして心臓から魔石を取りだし……
「セトッ!」
ウォーターモンキーよりも一回り程大きい魔石をセトへ向かって放り投げる。
「グルゥッ!」
その魔石をクチバシでパクリと咥えて飲み込むセト。そして……
【セトは『水球 Lv.2』のスキルを習得した】
馴染みになったアナウンスが脳裏へと響くのだった。
「ふぅ、さすが希少種と言うべきか。やっぱりスキルの習得は希少種の方が確実性が高いんだろうな。……セト、早速水球を使ってみてくれ」
「グルルルゥッ!」
レイの言葉に頷き、水球を発動させるセト。その雄叫びと共に直径30cm程の水球が2つ、セトの前に作りあげられる。
「Lv.1の時は20cm程度だったから1回り程大きくなっているな。そして数も2つに増えてる。……セト、向こうの木を目掛けて放ってくれ」
「グルゥッ!」
レイの指示にセトが鳴き、2つの水球が離れた場所に生えている木の幹目掛けて飛んで行き……
パァンッ!
という軽い音を立てながら木の幹にぶつかって弾ける水球。威力自体は木の幹の表面を多少破壊した程度でありLv.1の時と比べて少し上がった程度だったのだが、水球自体が2つになったということもあり、より広範囲に及んでいたのだった。
「威力はともかく、範囲は上がった訳か。よし、良くやってくれたなセト」
「グルルゥ」
褒めながらセトの頭を撫でるレイ。セトも気持ちよさそうに喉の奥で鳴くのだった。
【セト】
『水球 Lv.2』new『ファイアブレス Lv.2』『ウィンドアロー Lv.1』『王の威圧 Lv.1』『毒の爪 Lv.1』
【デスサイズ】
『腐食 Lv.1』『飛斬 Lv.2』new『マジックシールド Lv.1』
飛斬Lv.2:Lv.1の時に比べて威力が上昇。
水球Lv.2:Lv.1の時に比べて威力が微上昇。操れる水球の数が2つになった。
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