「……それは家族としてですか？」

「もしかして気付いていたのか？」

「いいえ。今気がつきました。彼女は父親とされるビーサス伯爵に全然似ていませんでしたし、どちらかと言えば皇帝に似ているような……いえ、カルロスさまに似ているような気がしたので」

「間抜けな話だがこれは皇家の恥部となる。あれらはお互いが親子と知らずに関係を結び子まで成してしまった」

「それを陛下は知っていらしたのですか？」

「真相を知ったのはオリティエが産んだ子がカルロスの子と分かり、それをビーサスに話した時だ。その時にビーサスからあれの本当の父親がカルロスと打ち明けられて驚いた。ビーサスは亡き夫人が不貞を働いていたが見て見ぬ振りをしていたと言った。そして生まれた子に愛情を持てずに距離を置いていた自分の罪だと」

「まさかあの子が実の父親の子を宿していたとは知りませんでした。職を辞して責任を取ろうと思い立ちました」

「辞めるのはいつでも出来る。でもこのままにはしておけぬ。そこで余が命じた」

　皇帝とビーサス伯爵の言葉を聞いてフォドラは愕然としていたが、マレーネ夫人は平然とした態度で聞いていた。フォドラは何も知らされてなかったようだ。

　事情を知っていたのは、この場では皇帝とビーサス伯爵、マレーネ夫人と言うこと？

「──オリティエさまの殺害をですか？」

「ああ、だがその前にあれは周囲の怒りを買い嫌われていたからな。キラン殿を思い詰めさせてあのような結果になった」

「カルロスさまは、オリティエさまが自分の娘だと言うことには気がついていたのですか？」

「カルロスは関係を結んだ後で自分の娘と悟ったようだ。妊娠に浮かれて結婚を求めてきたオリティエに、子供を堕すように勧めていたようだ。そのことに納得のいかなかった彼女は丁度、自分に言い寄って来ていた隣国の次期王太子に目を付け、罪の子を王位につけるべくキラン殿と関係を結んで彼の子と偽った」

「随分とゲルト国は軽く見られたものですね。でもこの場にマレーネ夫人が来ていると言うことは、将軍とも何かしらの取引があったのですか？」

　私は真相を知って苛立ちを覚えた。この人は何もかも知っていたのだ。最悪な状態となる未来を避ける事も出来た。それなのにしなかった。

「あなたの怒りは分かる。今はただ、済まないとしか言えない」

「謝られても私の気は済みません。もともと将軍がキランの命を狙おうとしなければ……、キランはシュガラフ帝国に行くこともなかった。彼がオリティエを連れて帰国する事もなかった。私は王城から出ることもなかった。女だてらにと陰口を叩かれても、キランの為にと費やした１０年を無駄にすることもなかった。あなた方はどこまで私を愚弄すれば気が済むのですか？」

　皇帝の謝罪なんかいらなかった。このシュガラフ帝国に振り回された私達はなんとちっぽけな王家なのだろう。「ご存じだったのですか？」と、マレーネ夫人はその場に崩れ落ち床の上で謝罪した。

「お許し下さい。皇妃さま。元夫に変わって謝罪致します。あの人は先代皇帝に脅されていたのです。でも皇帝が変わって、キランさまの命を狙わなくて済むと知ってどんなに気が楽になったことか。その事であなたさまを蔑ろにする事になるとは思いもしませんでした。本当です。信じて下さい。あなたさまが首を刎ねよと申されるのならば、わたくしの首を差し上げます」

「あなたの言葉のどこを信じろと？　マレーネ夫人」

　私の怒りの前に、マレーネ夫人は苦痛な表情を浮かべた。シュガラフ前皇帝と繋がっていた夫人のどこを信じろと言うのか。