59話・処罰


「伝説はまやかしでしかないとあなたは言い張っていたわね? どんなに頑張ってもあなたには触れることの出来ない魔槍。それが私には扱えた」


 その意味がお分かり? と、槍を再び手にして元トリッヒ将軍をねめつければ彼は何も言えなくなった。この魔槍グングニルは誰にでも扱えるものではなくて、グングニルが持ち手を選ぶと言われている。

 魔槍と言うだけあってこれはいつも私の側に気がつけば姿を現す。以前、キランと婚約解消となってウジウジしていた私にノギオンが手渡してきた槍であり、物言わぬ存在でありながら私の側にあり続ける。


「傭兵王の血筋に男も女もない。随分と私のことを見くびってくれたものね」


 彼の喉元にグングニルを突きつけてやれば自信家のトリッヒは顔色を失った。


「お許し下さい、皇妃さま。私が間違っておりました」

「今までのことも含め、あなたには処刑を命じたくて仕方ないけど判断はこの国の王である父上にお任せするわ。それまで大人しく牢で待つことね」


 彼の謝罪は遅すぎた。それに言葉だけの謝罪ならいらない。今までの彼の傲慢な態度や女性蔑視が酷すぎて詫びられても心に響かなかった。

 何かの間違いではないかと一瞬耳を疑ったくらいだ。それでもこの国の元王女として彼の処罰は父王に託すことにし、私は彼を牢屋へと連れて行かせた。



 その後、キランは王太子の座を剥奪されて辺境の城に一生幽閉されることが決まった。以前、オリティエが送られようとしていた場所だ。宰相は息子が罪を犯したことで公爵の位を返上し、宰相職から退こうとしたが父王に引き止められた。減俸と伯爵へとの降格に留め宰相職の続行が決まったらしい。

 将軍は複数の余罪があったことと、私の皇妃殺害未遂も含め減俸や降格では済まされないところまで来ていた。彼には過去の罪もあった。のらりくらりと交わしてきたことで父王や宰相らが追及できなかった問題。それはキランの殺害の企て。彼が私の許婚となった時から宰相に敵対心を抱いてきていた将軍は、それを面白くなく思っていた。


 そこでキラン殺害を企み、何度か彼の命を狙って事故に見せかけて殺そうとしたり、自分の手の者を使用人として紛れ込ませキランの食事に毒を盛っていたらしい。 

 それを怪しんだ宰相によりキランはシュガラフ帝国に送られた事で彼は手が出せなくなった。

その後は大人しくしていたので過去のことは罪に問われないだろうと楽観視していたらしい。頭の中がお粗末な人だ。


 いくら父王が過激な処罰を好まない御方でも、次期国王の者の命を狙っておきながら無罪放免はない。その上、愚かにもキランがシュガラフ帝国では禁色とされるエンペラーグリーンを利用して、オリティエの殺害を企んでいると知り、その事を口外せず協力する代わりに彼の再婚相手に実娘を選ぶように脅迫したようだ。

 その事はキランの告白で分かった。

 エンペラーグリーンには毒性が含まれている。その事をなぜ帝国出身のオリティエが知らなかったのか疑問だったが生前の彼女は、エンペラーグリーンという言葉は知っていても実際にどのような色かは知らなかったようだ。だから部屋の壁紙を真緑に塗られて「キランの趣味が悪い」と女官らに零していてもまさかその色が禁色とは知らずにいたらしい。

 エンペラーグリーンのことを将軍は帝国から迎えた妻経由で知っていたようである。将軍への刑罰は鞭で100叩きのうえ、荒野に追放されることになった。トリッヒ家は当然のことだがお取り潰しとなった。


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