43話・お里帰りです
つい、ルーグへの恨み節が漏れたら皇帝が庇うように言う。ノギオンは苦笑し、フォドラは呆れたように言った。
「アダルさまも意地が悪い。皇妃さまを一緒に里帰りさせても良かったのでは?」
「なるほど。そう言う手もあったか?」
「ノギオンさまなら何とか出来るのでは?」
フォドラが私の心情を慮ったように言う。
「大丈夫ですよ。フォドラさま、心配には及びません」
ノギオンはけろりとして言う。私達には銀の輪があるから会おうと思えば相手を呼び出せばいい。それを知らないフォドラはあなた様も意地悪な御方ねと言っていた。
「まあまあ、フォドラ。会えない時間が愛を育てると言う言葉もあるぐらいだ。それが二人にとって良い関係でもあるのだろう」
「アダルさまったら何を言われるの? 酷いお人ね。ルーグやアリーダさまはあなたのせいで……」
皇帝がルーグを私に相談なしにゲルト国へ一方的に送ったことが、フォドラさまには想い合っている二人を引き離すように思われて許せないらしい。
でも彼女の発言で私はハッとした。
「あの、フォドラさま。私なら大丈夫です。後を追い掛けますから」
「ルーグの後を追われるのね? アリーダさま?」
「「──!」」
私の発言にフォドラさまは微笑んだ。きっと彼女は助け船を出してくれたのだ。皇帝とノギオンは呆気にとられていた。
「良いですよね? 陛下。お里帰りですわ」
「認めよう」
「ありがとうございます。陛下」
ダメ押ししてみたらアダルハートは仕方なさそうな顔をして認めてくれた。
「皇妃さま? どうしてこちらに?」
「どうしてって里帰りよ」
私がビーサス伯爵と共に先に出立したルーグ達の後を追って、追いついたのはもうじき彼らが王城に着くと言うところだった。
突然現れた私達にルーグは驚いていた。事情を知るビーサス伯爵は背後で笑っている。私は同行を申し出たビーサス伯爵と数名の護衛を連れ騎馬で夜通しかけてきたのだ。ルーグが驚くのも無理は無い。
「このことに陛下は?」
「勿論、お許しは頂いてきたわ」
仏頂面をするルーグが可愛らしい。私達には魔法の銀のブレスレットがあると言っても、もっぱら呼び出すのは私の方だったし、彼は移動中と言うこともあり私を呼び出せる状況になかった。
だから追い掛けて来るなんて思ってもいなかったみたいだ。
「このお転婆め。今晩は説教だからな」
「はあい」
顔を寄せてきたと思ったら耳元で囁かれた。私は数日ぶりに会う彼に浮かれていた。
「しかし驚きました。単騎で追いつくとは。さすがはシュガラフ帝国が誇る皇妃殿下」
「これでも必死に駆けて来たの。おかげでお尻が痛いわ」
「そうですね。あなたさまはコックリコックリ船を漕ぎながらも馬の手綱だけは離されなかった。感心致しましたよ」
ルーグの部下の補佐官アーサーが感心したように言うとビーサスが同行中、ヒヤヒヤしたと言いながら私にとって赤面ものの話を持ち出した。それがその場にいた者達の笑いを誘った。私にとっては恥ずかしすぎて明かして欲しくなかった出来事なのだけど。
「では皇妃殿下。そのお里帰りに我らもお連れ下さい」
「突然、合流して驚いたでしょうがあなた方は職務を全うして下さい」
でもビーサス伯爵のぶちまけた話によって皆に好意的に受け取ってもらえたらしい。羞恥を覚えた甲斐があったものだ。この後、王城へ皆と一緒に向かうことになった。一応、皆の仕事を邪魔する気はないのでそれを告げると、ルーグが大人しくしていろよとでも言いたそうに見てきた。もしかしたら私が後を追ってきたのはオリティエの死の真相に興味を持ったと思われた?
──違うから! 私はただ、あなたに会いたくてあなたの後を追ってきたの。
ルーグに目線で訴えるが、向こうは胡散臭そうにしている。後で説明が必要ねと思いつつ、馬首を王城へと向けた。
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