42話・ノギオンがいてくれて良かった


「わたくしが育て上げた侍従や女官は柔には出来ておりませんから」


 その言葉に統率が取れていた彼らを思い出す。軍隊並みに揃った動き。一糸乱れぬ動きに凄さも感じていた。


「あれは凄いよな。影の者をあのように使用人として育て上げてしまうのだから」

「え?」


 皇帝の言葉に唖然としてしまう。


「皇妃は気づいていなかったのか? 皆、隙のない動きをしていただろうが」

「統制の取れた動きをしているとは思っていましたが、まさか皆が間諜だったとは知りませんでした。もしかしてマナも?」

「はい。彼女は天才です。ゆくゆくは彼らの頂点に立つでしょう。それを見越してあなた様付きの女官に致しましたから」


 思いがけない秘密を知ってしまった。でも、それは心強くもある。


「じゃあ、お父さま達は無事なのね?」

「はい」

「安心した」


 両親とはキランとの婚約破棄により距離をとって暮らしていた。別に両親の事が嫌いになった訳じゃない。両親の期待に応える事が出来なかったのは非常に残念でならないし、会わせる顔が無いと思っていたからだ。

 次期国王となる為の教育を受けてきたキランを放り出すよりは、後を継がせてこのゲルト王家の血筋を繋げていった方が良いと父王に進言したけど、個人的にはキランに裏切られて失望を感じた部分が大きかった。

 そのキランと義姉弟として普通に接することは出来なさそうな気がして王城を出たのだ。それによって色々な弊害が起きそうなことは予想していたのに。


 キランとは一緒にいたくない! と、いう頑なな思いを優先した。どうしても彼の為にと費やしてきた10年が無駄になって許せない思いでいたから。

 そのせいで両親達を危険に追いやっていることに気がつき親のことよりも自分の思いを優先したことに罪悪感を覚えた。


──ノギオンがいてくれて良かった。


 心の底からそう思った。ノギオンがいなければ生き直す機会も与えられずに終わっていた。人生に絶望したままあの世に向かっていた。

 それがこうして生きている。人生を生き直している奇跡に感謝したい。


「ありがとう。ノギオン」

「でも不測の事態があっては大変なので皇帝に力をお借りしました」

「一中隊をルーグと共に行かせた。妻の両親の警護に派遣するという名目で」


 ノギオンにお礼を言うと、くすぐったさそうな顔をして彼は言った。つまりはゲルト国側の裏で画策している連中に、国王夫妻に手を出したなら容赦しないぞという睨みを効かせたと言うことか。

 そして先ほど皇帝の言ったオリティエの死に不審な点。それを調べる名目でルーグ達は送られたということだからそのことで両親達の身の危険は回避したように思えて安堵した。でもそれならそれで一言言ってくれても良いと思うのに。ルーグったら水くさい。昨晩だって共寝したのに。何も言ってくれなかった。


「一言、言ってくれても良かったのに……」

「余が命じたのはあれが出仕してすぐだったからな。あなたに言う暇が無かった」


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