39話・キランの再婚相手

 それからしばらくしてゲルト国から知らせが入ってきた。キランが新たな妃を迎えることになったらしい。オウロ宮殿に招かれて皇帝やその公妾のフォドラと昼餐を取っている時に教えられた。


「陛下。そのお相手の御方は?」

「ペーラ・トリッヒ嬢だ。ゲルト国の将軍の娘だそうだな?」


 それを聞いて私はこの間見かけた金髪の女性を思い浮かべた。彼女はオリティエの父親であるビーサス伯爵とは遠縁だと言ってのけた。

 あの時、先を急ぐようなことを言って彼女はビーサス伯爵と早々に立ち去って行ったが私の中で不信感が拭えなかった。彼女がいたのはオウロ宮殿内。

 ビーサス伯爵に用があって来たのかと思ったのだけど、わざわざゲルト国からやって来るなんて何か事情がありそうな気がしたのだ。


 その彼女の娘がキランの再婚相手。彼女とキランの接点は考えられないから政治的意味合いで結ばれたのだと思う。宰相と将軍はゲルト国では対抗勢力で王城内では二大派閥に別れていた。

 それらをまとめようとして反対勢力と手を結ぶために繋がったのだとすれば内紛を避ける為のキランの賢明な策とも思える。でも何かが引っかかる。

 キランは私と婚約が結ばれてから命を狙われ始めた。狙うとしたら反対勢力でしかないと私や父王は思っていた。将軍はその筆頭。宰相の息子が将来私と婚姻し、ゲルト国の王になることを快く思ってなかった──。


「どうした? 皇妃?」


 アダルハートとは臣下の前ではお互いの愛称を呼び合って親しくしてみせるけど、彼の最愛であるフォドラの前ではそれぞれ「陛下」「皇妃」と呼び合っていた。


「あ。いえ……」

「意外か?」

「まあ、そんなところです。でもなるべくしてそうなったのでしょうから」


 確か前世ではキランは私を帝国の皇帝に売った後、オリティエを側妃にし、将軍の娘を正妃に迎えていた。前世では将軍とキランは密かに手を結んでいたようだった。

この世ではあの二人に繋がりは感じられなかったけれど、もしかしたら密かに結んでいたりするのだろうか?

 そう考えると将軍がキランの肩を持つような発言をしていたことに説明がつく。前世ではキランに裏切られたことでショックを受け、彼がどうしてそんな行動を取ったのか考える余裕もなかった。

でももしかしたら──と、考えることはある。彼は6歳でシュガラフ帝国に送られた。彼の父である宰相は妻を亡くし、妻の忘れ形見である愛息子の命を守りたい一心で帝国に送り出した。でもそれって彼としてはどう思っていたのかと。


 6歳の彼は聞き分けが良すぎた。本当は他国になど行きたくなかったはずだ。彼は父親を尊敬していた。その父親と引き離されたように感じられ辛く寂しかったに違いない。

そして私達一家を恨めしく思ったかも知れない。両親が揃いゲルト国でぬくぬくと育ってきた許婚の私を恨む気持ちを持ち続けたとしてもおかしくはない。


 自分達父子は私達親子の為に犠牲を強いられていると不満を持ったかも知れない。その婚約相手である私を良く思わず、父親や両陛下を殺してその王座についた彼の胸の内はどうだったのだろう?

もしも彼にとってそれらが復讐を果たす為がゆえの行動だったとしたら、国を追い出され老齢の皇帝に売られた自分だけが不幸だとはとても思えなかった。彼にそういう行動を取らせてしまったのは私や、両親、宰相にも責任がある。


 だから前世の記憶を取り戻した私にノギオンが「これからどうしますか?」と、聞いてきた時に「何もしないわ」と、答えていた。


「彼にとって心が安まる相手であって欲しいと思います」

「あなたはキランを恨まないのか?」


 アダルハートは私の言葉に意外そうに見つめてきた。

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