第12話12.ななしの皇女と名のあるモフモフ 2
アレはリュウホと暮らすようになって、深く眠れるようになった。
温かいモフモフに包まれていると幸せな気分になってよく眠れるのだ。
リュウホの傷はあっという間に良くなってしまった。
アレはいつでも家に帰れるようにと、土蔵の穴の場所を教えた。
「ここ自由に出て行って良いんだよ」
(あたりまえだ、俺はいつだって自由だ)
アレがいえば、リュウホはそう言ってアレの背中を尻尾でポンと叩いた。
アレとリュウホは同じテーブルで、まるで人と同じように食事を取る。リュウホがそう望んだからだ。
放置されている土蔵ではマナーにうるさくない。
メイドたちはひとりぼっちのアレの友として、大切に扱った。
堂々として美しく、人の言葉がわかるような振る舞いにただの野良猫とは思えなかったのだ。
「成猫だとおもっていたのに違ったのかしら?」
マルファが首をかしげる。リュウホはギクリとしたように動きを止めた。
リュウホはよく食べ、よく眠り、ここに居着いてからもムクムクと大きくなっているのだ。
「まさか虎? だったらこのままというわけには……」
恐ろしげな視線を向けるマルファから、アレはリュウホを庇った。
「大丈夫よ! かまれたことなんてないもん! おおきくてもいいこだもん!!」
「でも、これ以上大きくなるなら食べ物が足りなくなります。良い子だから飢えさせるのも可哀想で……」
マルファは困ったようにアレにいった。
アレの予算は少ない。
「今はなんとかなっていますが、早めに元の飼い主に戻してあげた方がいいかもしれませんね」
アレはしょんぼりとした。
「たしかに可哀想ね。ここいたら幸せになれないもの」
いつ殺されるかわからないアレの元にいることが幸せとは思えない。でも、北斗苑からでられないアレには飼い主の探しようがない。
「マルファ、元の飼い主探してみてくれる?」
リュウホはアレを見てナァとなき、嫌々をするように額をアレに押しつけた。
マルファはそれを見て、切なく思う。マルファも猫は好きなのだ。幼い子どもと、賢い猫の取り合わせは、好ましくふたりをできれば引き離したくなかった。
それでも飼いきれなくなるのは火を見るより明らかで、無責任に飼い続けることはお互いにとって良くないのだ。
「そうですね。この猫(こ)はよいこですもの。きっと飼い主の方が待っています」
マルファはそう慰めるしかなかった。
その日の夜、リュウホは土蔵を抜け出し外へ出て行った。
アレは気がついたが声をかけなかった。人の言葉がわかる賢い猫である。きっと昼間の話を聞いていて、察したのだろう。帰ってしまう日が来たのだと寂しく思ったが仕方がない。
パパやママが待っているかも。大切にしてくれる人のところにもどるべきなのよ。
アレはそう思い、唇を噛む。アレには帰りを待つ父も母も、抱きしてめくれる腕もないからだ。
リュウホのいなくなったベッドはスカスカとして冷たかった。
しばらくして、もぞもぞと布団がめくられる気がして目が覚めた。暗闇の中で赤い目がキラリと光っている。本来ならおびえるところだろうが、アレはホッとした。リュウホが帰ってきたのだ。
「リュウホ……っ! もう帰ってこないと思った」
思わずリュウホの首にすがりついた。ほろりと流れ落ちた涙を猫がザリとなめる。
(バカなやつ。約束しただろ?)
そうしてから、前足で小さな巾着と手紙をアレに押しつけた。立派な封印のしてある手紙だ。
―― リュウホを助けてくれた方へ
この子はナンラン国のとてもおおきくなる特別な猫です。人の言葉がわかり危なくはありません。リュウホはあなたが好きなようです。できたら人と同じように可愛がってください。食事代を預けます。リュウホと一緒に美味しいものを食べてください
リュウホの友人より ――
手紙にはそう書いてある。
アレはリュウホをギュウッと抱きしめた。
「離れなくてもいいの?」
(そうだ。 お前は俺のナデナデ係だからな)
「嬉しい! リュウホ、私もリュウホ大好きよ!」
(俺もだ)
リュウホは感極まった様子で、アレを押し倒す。二人はベッドの中で、くるくるとじゃれ合った。
朝になり、アレはリュウホの持ってきた手紙と巾着をマルファに見せた。
マルファはそれを見て驚いた。透かしの入った凝った紙が使われ、筆跡も見事だった。名前は名乗られていないが、高貴なものからの手紙だと思ったのだ。巾着を開けてみれば、金貨がぎっしり詰まっていた。
マルファはあっと驚いた。金貨をこれほど猫に持たせるのだ。とても裕福な家の猫だとわかった。
「確かにナンラン国には炎虎と呼ばれる聖獣がいるそうです。赤い瞳に虎のような姿をしているのだとか。その聖獣になつかれたものは幸せになるそうです。この子は炎虎なのかもしれませんね」
マルファの声を聞いてメイドがパァァと笑顔になる。
「姫様、良かったですね! きっと良いことが起こります!」
「リュウホがここにいてくれるだけで、わたしはとってもしあわせ!」
アレはそう言ってリュウホをギュッと抱きしめた。リュウホもそれに答えるように額をアレに押しつけた。
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