自殺ほう助株式会社

独白世人

自殺ほう助株式会社

 これから自殺しようとしている俺に、1件の長いメールが届いた。


■■■

はじめまして。

石仲りらりと申します。


信じられないかもしれませんが、このメールは孝典さんの住む時代の200年後の世界から送信しています。タイムマシンはまだ出来ていませんが、こうやってメールを送ることぐらいなら時空をこえて出来るようになりました。


こちらの時代は少子高齢化が深刻な問題となっています。孝典さんの時代から問題視されていたことかもしれませんが、間違いなくその予想をこえた状況になっていると思います。年金問題やそれに伴う税金問題、介護に携わる人の不足問題など、数えあげればきりがありません。医療技術の進歩は喜ばしいことですが、長寿が当たり前となった世の中で、高齢化社会は人類の抱える問題の中でダントツの1位となっています。

働き盛りの世代が親の介護をしなければいけない状況がそこら中で溢れていて、その事が経済に与える影響も大きくなっています。100歳を超えても生きようとする老人を白い目で見る若者も増えました。

信じられないかもしれませんが、介護が必要となった高齢者が自殺を選択することが美徳とされる時代が訪れているのです。


そんな中、自殺をほう助することが合法化されました。高齢者が自らの意思で人生を終える手助けをする事で高齢化社会を抑制しようと政府はしているのです。これによって何とか世の中の均衡は保たれようとしています。

この法案を成立させるために政治家として先頭に立ったのが私の父になります。その功績が認められたこともあって先日、父は総理大臣になりました。そして、父と私は孝典さんの子孫になります。


昨年、私は自殺をほう助する会社を立ち上げました。私の会社では自殺を考えているお年寄りに寄り添い、自殺のお手伝いと死後の後片付けをしています。多方面から『今、もっとも必要な仕事』と評価されています。まだ東京と大阪にしかありませんが、今後は全国展開していこうと考えています。


今回、連絡をしたのは他でもありません。孝典さんに自殺を思いとどまって欲しいのです。

孝典さんが死んでしまうことで歴史が大きく変わってしまいます。

ちなみにこのメールによって自殺を思いとどまった孝典さんは、35歳の時に会社を立ち上げて巨万の富を得ます。そこから石仲家の繁栄は始まるのです。


人生という道は努力次第で必ず拓けます。

どうかよろしくお願いします。


■■■


 メールを読み終えた。

「誰がこんないたずらメールを送ってきたんだ。ふざけやがって」

 そうつぶやいた。

 いい事より圧倒的に悪い事の方が多い人生だった。この不遇の人生を変えるだけの力が俺には無い。そんな俺が会社なんか立ち上げられるはずがないと思った。


 俺は用意してあった毒薬を飲んで死んだ。


 その瞬間、200年後の世界で石仲りらりは消えた。そして、介護が必要な高齢者がいたるところでよみがえった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

自殺ほう助株式会社 独白世人 @dokuhaku_sejin

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ