第34話 彼女 (かつての投稿時テーマ 学校)

 あたしが入学した学校で、去年、自殺した子がいたらしい。

 その子のせいで、あたしはクラスで独りぼっちになってしまった。

 その子と、あたしは、同姓同名だったらしい。

 先生たちは何となく腫れ物に触るような感じで接してくるし、上級生達からは声を掛けてもらえないし、その影響でクラスメートたちからも遠ざけられてしまっている。

 だからと言って、完全に無視されているわけでもなく、必要最低限の「ホウ・レン・ソウ」はされているみたい。

 何でも、自殺した子は、みんなから虐めを受けて、それがエスカレートしていって、最後は学校中から無視されて、邪険にされてという顛末を辿ったみたいだ。

 そんなだから、みんな、あたしのこと、本当は無い事にしたいんだけれど、そこまでする勇気は無くて、結局は「敬して遠ざける」みたいな格好で落ち着いたみたい。

 まぁ、あたしとしては、結果オーライで居心地が良くなったというのが本音。

 元来が、無口で、性根が生意気で、独歩の性格……人と折り合いを付けて過ごすのが苦手だったから。

 ここぞとばかりに、教室の片隅や、屋上で時間をつぶして、本を読んで、スマホで音楽聴いたりしている。

 屋上……いい所だよ。授業さぼって、寝転がっていても、誰も探しに来ないから。

 去年までは、開放していたらしいけれど。

 ほら、去年の自殺ね、ここから飛び降りたらしいの。

 それ以来、屋上へ出る扉は施錠てことになっているけれどね。

 でもさぁ、その鍵がちゃっちくてね、ヘアピンひとつで開けられる程度のもの。だから、あたしは、何の苦も無く屋上へ出て行ける。

 今日だってそう。

 土曜日の昼過ぎだから、時間はたっぷりある。

 天気だっていい。気温も程良いし、風だって凪だ。

 あたしは屋上から、更にペントハウスの上へとよじ登る。

 腰を下ろすと胡坐をかく。制服のスカートが色気無くめくれ上がるが気にしない。他に人は誰もいないのだから。

 下界を見下ろすと、愚民どもがうじゃうじゃと蠢いている。部活で走り回っている奴。ふざけながら帰路についている奴。誰も、上から見下ろされているなんて気付きもしない。

 毎度のことながら、随分と気持ちの良い光景だ。

 あたしは、ポケットからスマホと、読みかけの文庫本を取り出す。

 イヤーフォーンを肩に掛けると、再生のスイッチをタップする。流れるのは先日ダウンロードした流行の曲。程良い音量で耳に届く。BGMにはちょうど良い。

 つづいて文庫本を開く。これも、先月に発売されたばかりの新刊。ゆっくりとページをめくっていく。

 曲も、小説も、あたしの趣味からしたら、少しばかり甘ったる過ぎるのだが、彼女のお好みなのだ。

 彼女は、あたしの肩越しに、小説の文字を追い掛けて、大好きなアーティストの歌声に聞きほれる。

 彼女は、この場所の先客。……このペントハウスの上、たった一つの残された安息の地、ここで微笑んでいるのを嫌な奴に見つかって、追い詰められて、足滑らせて転落して、結果、自殺にしたてあげられてしまった、彼女。

 彼女は、今、あたしという友達ができて、とても幸せそうだ。

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