第9話 道案内 (かつての投稿時テーマ 四国)

 ゆらゆらと道路が揺らめいて見えるほどに暑い真夏の昼下がりです。

 私は、日傘をさしながら、道後の湯を目指して歩いていました。

 大通りから、いつもは通らない路地へと入った時、私は背中に冷や水を掛けられたような思いになり、立ち止まってしまいました。

 「ああ、まただ」と、私は嘆きたくなりました。

 民家の軒下に、淡い光に包まれた女の子に似た「何か」が佇んでいたのです。

 私は人並みの霊力を持ち合わせています。ですから、見なくても良いものは見ないで済ませられる程度には守られていて、霊力の弱い方のように無暗に幽霊を見るようなことはありません。

 ですから、目の前にいらっしゃるのが幽霊ではない「別格の方」であるとはわかります。

 人は、この方々を「神様」とお呼びのようです。

 私は、時折、そのような方と邂逅してしまうのです。ですが、私の神格も、霊力と同様に人並みのものしかありません。ただ、持っている「波長」が、「神様」の一部の方々とシンクロしやすいようなのです。

 ですから、一部の「神様」からお呼び出しを頂いては、「仕事」をさせられるのです。

 私は「仕事」を仰せつかるのが、大嫌いなのです。神格が人並みしかない私にとって、「仕事」は大変に辛い行為なのです。

 出来ることならば逃げ出したい。いつも、そう願っているのですが……。

 女の子に似た「何か」が、私の方へ向って、にっこりと微笑んだのです。

 その笑みは、極上のもので、私の心を蕩けさせてしまうのです。いつもそうです。

 この微笑みを見てしまうと、何事も断れなくなってしまうのです。

 女の子に似た「何か」が、私に手を差し出してきます。

「我を案内しておくれ」

 私は、差し出された手を取りながら尋ねます。

「どちらまでですか」

「道後の湯までで良い」

 私は、なぜ急に温泉に浸かりたくなったかの訳を知りました。

 手をつないで、私たちは歩きます。

「何故に、道後へ向かわれるのですか」

 道行きに尋ねてみます。

「家へ帰るのじゃ」

「御殿が道後にあるのですね」

「家は豊後にある。昨日、不覚にも飛ばされてきてしまったのだ」

 そう言えば、昨日は台風が瀬戸内海を足早に東進して行きました。

 女の子に似た「何か」は、それと共にいらしたのでしょう。

 道後温泉にいらっしゃっている観光客にでも付いていかれるのでしょうか。

「道後の湯と別府の湯はつながっておるのだ。昔、大国の奴が少彦の為に湯を引いたのでな、それがまだ残っておる」

 私の思いを読むように女の子に似た「何か」は説明をしてくれました。何だか、気さくな、優しい方のようです。

 私は少し安堵し、楽しくなりました。今日の「仕事」は楽そうです。「仕事」で負った疲れも温泉に入れば治ることでしょう。

 私たちは手をつないで歩いていきます。

 そうこうするうちに、道後温泉が見えてきました。

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