第6話 神話コレクター (かつての投稿時テーマ「九州・沖縄」)

 九州には多くの神話が眠っている。正確には、埋葬されているというべきであろうか。同様に埋葬された神話が多い土地に出雲があるが、あそこはまだ幸せだ。何故ならば、埋葬された後に、別の話へと改変されたという事実が社会的に広く認知されているのだから。

 対して、九州の場合はそうではない。古来よりの神々の物語は、徹底的に壊滅させられ、埋葬され、そして別の話が捏造されている。

 私は、神話コレクターと呼ばれている。

 様々な土地を歩き、山に分け入って、埋葬された古い神話の屍を発掘しては、復元を試みる。管轄は九州なので、多忙を極めている。

 復元には、土地住みの古老の協力が必要になる。だが、彼らは猜疑心が強く、口が重く、そして頑固だ。おいそれとは、他所者の私に協力してはくれない。

 最初の訪問で、身分と目的を述べると、古老たちはますます頑なになり、私に対して一層に余所余所しくなる。当然、私の仕事はより困難になる。

 だからと言って、それを隠して接触を続ける訳にはいかない。

 私の仕事には、何よりもまずは真摯さが優先されるのだ。そうでないと、掘り起こし、復元した神話に対して、正面から向き合う資格を失ってしまうからだ。

 古老の元へ、何年もかけて幾度も通い続け、心のこもった手間暇のかかった土産を持参し、相手の出したもてなしをすべて受け取る。

 時と共に、私の心身は、その土地に馴染んでいく。その土地由来の風俗、様式を自然に振る舞う事が出来るようになる。

 風貌も、その土地に見合ったものに変わり行く。

 その土地の水を含み、その土地の風に身を晒し、その土地の土と同化していく。

 そこまで来ると、私と古老たちとの息遣いは、阿吽のものとなる。

 私の真意は、言わずとも、古老たちに通じる。

 そこまでに辿りつけば、事の九割は終わる。

 私は、古老たちに、膝を折り、屍の場所を教えてもらう。頭を下げ、屍がまだ生きていた頃の逸話を訊ねる。

 その後、私は、風のない新月の未明に、唯一人、屍を掘り起こし、むしゃり、むしゃりと食らい尽くす。

 食らい尽くした後、私は「無」となり、二年と三カ月あまりを過ごす。

 この期間が私の受胎の期間となる。

 埋まれた物は、産まれたモノを経て、生まれた者となる。

 あらゆる土地には、その土地にあった神が必要で、その神の語る言葉が必要だ。誤って伝えられている言葉は、正しく改められなければならない。それが摂理だ。

 だから、私は、延々と神の再生を続けて歩く。それが、私の、産土の仕事なのだから。

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