第肆幕 恋焦がれて貴方を思う

花箱 壱


御子柴聖 十七歳


雪女の攻撃を交わしているうちに違和感を感じた。


あたしに対しする攻撃が本気の力じゃない。


「あたしと美月先輩を分裂させるのが目的?」


雪女に質問した。


「そんな事じゃないわよ?こんなのただの時間稼ぎなんだし。」


「時間稼ぎ?」


「教えてあげる。本当の目的は御子柴楓を殺す事。」


「!!?」


楓を殺す?


コイツ等…、楓を殺そうとしといる?


あたしは氷の攻撃を素早く避け雪女の額に銃を突き付けた。


体の至る所が掠れたがそんなのはどうでも良い。


「殺すぞお前。楓に手を出して見ろ、消し炭にしてやるから。」


「怖い怖い、私はお前が憎い。憎くて仕方がない。」


「憎い?あたしはアンタに憎まれる覚えはない。」


「アンタは大蛇様に愛されてて狡い。」


八岐大蛇に愛されてる?


「あたしが八岐大蛇に愛されてるってどういう意味。」


銃口でグッと雪女の額を押した。


「"桜"の生まれ変わりのくせに。」


桜…?


聞き覚えがある名前…。


「桜は大蛇様の心を奪った。もう何百年も…、まるで呪いを掛けたかのように。」


ズキンッ!!


心臓が痛い!!


桜って言う名前を聞いてから心臓が焼けるように熱い。


な、何これ…。


あたしは蹲ってしまった。


「「主人!!」」


「シロ!!クロ!!」


シロがあたしの首元を引っ張り雪女から引き離した。


「主人よ。怪我を…!」


クロが心配そうにあたしの体を見た。


「擦り傷よ…。それよりも心臓が熱い…。」


「共鳴しているのよ大蛇様と。」


雪女が静かに近付いて来た。


「「ガルルルル!!」」


シロとクロが威嚇をする。


「共鳴…って月下美人の呪いと関係してるの?」


あたしがそう言うと雪女は悲しい顔をした。




野々山美月 十八歳


おかしくなった花の姿が目に焼き付けている。


「花…。」


俺が花に近付こうとすると「ガルルルルッ。」獣の

体勢で俺を近付せないようにしている。


「花…。俺はお前の事が好きだ。もう何年も前からだ。」


「…え?」


どうしてこうなってしまったんだろう。


ずっと一緒にいたし、側にいる事が当たり前だと思っていた。


花と出会ったのは俺が六歳の時だった。


この頃は修行を真面目にしていなかった。


いや、する理由を見失っていた。


いつか酒呑童子が復活した時に闘えるようにと。


もう100年近くも眠っているのに復活するのかと思っていた。


そんな時に、俺達の家の近くに引っ越して来たのが出会いだった。


「初めまして、山田花です。」


顔を真っ赤にして俺に挨拶して来た。


俺と雛とは違う世界の子だと思った。


普通の生活をして家族とも仲が良くて妖怪とも陰陽師とも関係のない世界の子だと。


「宜しく。」


花の事を受け入れられなかった。


だってそうだろ?


この時の俺は普通の生活が羨ましかったから。


雛と花はすぐに仲が良くなり、稽古の後は二人で遊んでいた。


雛を取られた気持ちになった。


遠くから二人の姿を見つめていると、花がこっちに向かって走って来た。


「美月君もこっちにおいでよ!一緒に花冠(はなかんぶり)作らない?」


そう言って白い花の花冠を見せて来た。


「やらねぇよ。近寄んな!!」


パシッ!!


花冠の持っていた手を払い除けた。


「ちょっと美月!!何してんのよ!!」


雛は花を庇う体勢で俺の前に立った。


「雛はそんなにコイツが大事かよ。」


「美月…?」


「何だよ!!雛までコイツの味方かよ。」


「美月!?」


雛の返事を聞かずに俺は走った。


何だよ雛までアイツの味方をするなんて。


アイツは雛まで奪うつもりかよ。


「待って!!美月君!!」


「!?」


追い掛けて来たのか!?


俺は不意に足を止めてしまった。


「はぁ、はぁ。良かった…追いついて…。」


汗だくになりなが笑顔を見せて来た。


「お前、何で追い掛けて来たんだよ?俺、酷い事言

ったのに。」


追い掛けて来る理由が分からない。


「私…謝りたくて。美月君の気持ちを考えないで誘ったりして。雛ちゃんの事を取ったつもりはなかったの。」


違う…、本当は謝って欲しかったんじゃない。


「俺、俺は…。お前の事が羨ましかったんだ。」


「え?」


口にした途端、目に涙が溜まった。


「普通の生活が羨ましかった。俺達は普通の…。」


「私は美月君達の力になりたいよ。」


そう言って花は俺の手を握った。


「え?」


「美月君を苦しめるモノから全てを。」


その言葉を聞いてお父さんが言っていた事を思い出した。


「いいか美月。いつか大切な人や支えたい人が出来た時に守れるように力を付けなさい。後悔しない為に。」


「お父様はいたのですか?大切な人が。」


俺が尋ねるとお父さんは悲しい顔をした。


「いたよ…、だけど守れなかった。自分に力がなかったらせいで。だから俺と同じ思いを美月や雛にさせたくない。選択肢があるのとないのとでは全然違う。強くなれ美月。」


そうだ。


お父さんは…。


その言葉をどうして忘れていたんだろう。


花の言葉で思い出すなんて…。


「花は強いな。」


「美月君…?」


「酷い事言ったりしてごめん。これからは雛の事も花の事も守れるように強くなるから。」


「わ、私も同じだよ。二人を守りたい。」


その日から俺は花の事が好きになった。


花が結界師になると言って修行を始めた。


守る為に強くなりたいと。


なのに、どうしてこんな時に花を救えないんだ。


目の前には苦しんでいる花がいる。


殺すしか花を助けられないのか?


「あるよ方法が。」


「え?」


目の前に広がった白い空間にヒラヒラと花の花弁が舞い落ちる。


そして、花弁の中から木花咲耶姫(コノハナサクヤヒメ)が現れた。

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