御子柴家惨殺事件 弐

二○○X年 四月四日 午後23時25分。


長い廊下を走っていると、八岐大蛇にやられてしまった陰陽師の無惨な死体が転がっていた。


血の生臭い匂いが充満している所為で、吐き気がする。


「お嬢。大丈夫ですか?」


シロが心配そうな顔をして見てきた。


「だ、大丈夫…。」


八岐大蛇は、本当にやばい。


これだけの人数を、数分で殺したのか。


本当に八岐大蛇は、恐ろしい大妖怪なんだ。


「はぁぁぁぁ!!!」


庭から、お婆様の声が聞こえ視線を向ける。


あたし達は急いで廊下を抜け庭に出て見ると、悲惨な光景が広がっていた。


白い石に囲まれた庭地が、血と人間の血肉で汚れてる。


横に転がっている死体の数を数えた。


1、2、3…、御子柴家の陰陽師がほぼやられている。


「これだけの陰陽師が居ても、止められなかったって事?」


あたしが唖然としていると、お父さんと目が合った。


「聖!!!」


札を持ったお父さんが、あたし達の方に向かって来る。


「良く来てくれた。状況は…、見ての通りだ。陽毬様に結界師を張り、俺達は援護をする。蓮は、聖の事を死んででも守れ。」


「御意。」


蓮がお父さんに頭を下げ、刀を構える。


今までとは違う、緊迫した空気に押し潰されそうだ。


この重圧な空気を吸うだけで、息が詰まりそう。


目の前にいる八岐大蛇を見るだけで、冷や汗が流れ落ちる。


心臓の鼓動が早まり、体から死への恐怖を感じ取り膠着して行く。


ドゴォォォーンッ!!


お婆様の周りには沢山の式神が居て、攻撃をしていた。


「急急如律令!!!」


お婆様は、札を八岐大蛇の周りに貼り光の玉を放った。


パァァァァン!!


「あははは!!!老ぼれの攻撃が、我に通用すると思ったか!!!」


そう言って、光の玉を八頭の口が開き、光の玉を飲み込んだ。


そして、大きな上げた八頭の口から紫のオーラを放った。


ピアカァアァァァア!!


あの光を浴びたら、やばい!!!


危険な攻撃だと咄嗟に判断し、お婆様の前まで急いで走った。


タタタタタタタッ!!


お婆様の前に立ち、攻撃を防ぐ為の術を掛けれるよう準備をする。


「聖!?」


あたしの姿を見たお婆様は、驚いていたが反応を見る暇はない。


「結果戦線(けっかいせんせん)!!」


ビュンッ!!!


そう言って、指で横に向かって線を空中に書いた。


ドゴーンッ!!!


バチンッ!!!


お婆様の前に黄色のオーラが壁を作り、攻撃を弾いた。


「何だ?我の攻撃を防いだのか?」



ゴゴゴゴゴゴゴッ…。


八岐大蛇が、ゆっくりと振り向いた。


鋭く冷たい瞳が、あたしの姿を真っ直ぐ捉えた。


その瞬間、蓮の背中が視界に入った。


「お嬢、下がってください。」


蓮はそう言って、あたしを後ろに下がらせた。


「小僧に用は無いぞ。」


「式神破軍。」


蓮は式神を召喚させ、白い煙が上がった。


ボンッ!!


「妾の主人に文句か?」


白い大きな狐が、八岐大蛇を威嚇する。


「小白(こはく)。行くぞ。」


蓮は刀を抜き、八岐大蛇に向かって走って行った。

 

「聖!!大西!!準備をするのじゃ!!封印をするぞ!!」


「「分かりました。」」


あたしとお父さんは、お婆様の横に並び.封印の札を

八岐大蛇の周りに配置させた。


ババババババババババッ!!!


「行くぞ!!」


お婆様の言葉に続き、素早く手を動かした。


シュシュシュシュッ!!!


蓮が八岐大蛇を引き付けている間に早く!!


蓮は小白の背中に乗り、札から炎を出し八岐大蛇の体を焼き尽くす。

 

ブォォォォォォォ!!!


真っ赤な大きな炎が、八岐大蛇を包む。


「はぁぁぁ!!」


小白の背中から飛び降り、蓮は八岐大蛇の体を斬り付けた。


ブシャ!!!


八岐大蛇の体から、紫色の血が噴き出す。


「グァァァ!!!」


タンッ!!


蓮は地面に着地し、直ぐに刀を構え斬りかかった。


誰よりも素早く動き、八岐大蛇の気を散らしている。


術の準備を完成させ、あたし達を声を出した。


「「「急急如律令!!!」」」


3人の声を合わせて、唱えた。


札から光の玉が現れ、八岐大蛇の体に浴びさせた。


シュシュシュシュッ!!!


ドゴドゴドゴーン!!!


「あはははは!面白い!!」


笑っている…?


ピチャッ。


頬に何かが、跳ねた感触がした。


「お嬢!!!離れて!!」


蓮が慌てた様子で、あたしの所に向かって来る。


振り返ると、紫色の長髪を後ろに立たせ、切れ長の赤い目に、鬼の和彫りに角が生えた男が立っていた。


鬼…?


鬼の右手には、お父さんの頭を持っていた。


パタンッ!!


頭の無いお父さんの体が、地面に倒れ千切れた所から血が流れ落ちる。


「お、お父さん…、う、嘘…。」


「大西!?お、お前は…まさか!?」


あたしはお父さんから目が離せなかった。


ど、どう言う事?


どうやって、この人はここに現れたの!?


全く、妖気を感じなかった。


結界の中をすり抜けて来た…?


いや、もはや結界は破壊されてるだろう。


お婆様は、鬼の姿を見て驚愕していた。


「酒呑童子(しゅてんどうじ)!?」


酒呑童子は、大妖怪と呼ばれている妖怪で、八岐大蛇の仲間でもある。


「お前は、大阪に封じられて居ただろう!?どうやって、此処に来たんだ!?」


お婆様が酒呑童子に尋ねた。


「あ?何だ、この婆さん。おい!大蛇、殺しても良いよなぁ?」


左手に持っていた徳利の酒を飲みながら、八岐大蛇に尋ねていた。


「構わん。」


そう言うと、酒呑童子が不敵な笑みを浮かべた。


「婆さん。俺とやろうぜ?」


ゴキッ!!


酒呑童子は右手を鳴らした。


「全ての妖怪は、滅するべし!!」


ボンッ、ボンッ!!!


酒呑童子の周りに、金棒を持った小さな鬼が四体現れ、お婆様の元に向かって行った。


「式神破軍。」


ボンッ、ボンッ、ボンッ!!

 

巨大な象と朱雀が現れ、四体の鬼に向かって行った。


お婆様は刀を構えて、酒呑童子に斬りかかった。


「お嬢!!怪我は…?」


蓮があたしの体を優しく触る。


「へ、平気だけど…。お、お父さんが…。」


乱暴に投げ捨てられたお父さんの頭を見つめた。

 

声を上げる暇すら無くて、一瞬の出来事だった。


頭がグルグルと回る。


正常な判断が出来ない。


どうやって、八岐大蛇達を止めれば良いの?

 

ポンッ。


蓮の優しい手が、あたしの頭の上に降りた。


「お嬢。僕が付いています。」


「蓮…。」


「カハッ!!」


お婆様の苦痛の声を聞いて、我に帰った。


ボタボタボタ…。


「「!?」」


あたしと蓮は、その光景を疑った。


酒呑童子の右腕が、お婆様の体を突き抜けていた。


「お婆様!!?」


「な…、んだ…、と…っ。」


「御子柴家も大した事ねぇじゃん?ん?そのガキ…、もしかして?」


酒呑童子が、あたしを見つめた。


「「ガルルルルルルッ!!!!」」


シロとクロが威嚇をする。


スッ!!


キィィィン!


蓮が酒呑童子に斬りかかった。


「お嬢に近寄るな、妖怪。」


「お前…、案外やるんじゃねぇの?」


蓮は札を酒呑童子の周りにばら撒き、素早く手を動かした。

 

シュシュシュシュッ!!!


「音爆螺旋(おんばくらせん)。」


札から光の鎖が現れ酒呑童子を拘束した。


キィィィン!!!


「ッ!?耳が痛てぇ…。」


音波先螺旋とは、妖怪の動きを拘束し、妖怪の聴覚を刺激する技。


その音は、妖怪にしか効かないし聞こえない。


「お前を封じ込める。」


蓮が素早く封印の札を出そうとした。


すると、酒呑童子の後ろから八岐大蛇が、蓮に向かって攻撃をしてきた。


「蓮!!」


ドンッ!!!


あたしは蓮を突き飛ばした。


「っ!?お嬢!!?」


ブジャァァァァ!!!


あたしの視界がグラッと揺れた。


な、何が起きたの…。


意識が朦朧とする。


「お嬢!!!ってめぇ!」


「よっと。」


バキバキバキッ。


酒呑童子が鎖を引きちぎり、蓮を殴り飛ばした。


その衝撃に、近くにあった大きな岩に、蓮が背中を

強く強打した。


バキッ!!


「ガハッ!!」


骨の折れる音と、蓮が口から血を吐いていた。


体が熱くて、ドクドクと脈を打つ。


酒呑童子が、蓮に近寄ろうとしていた。


嫌だ、嫌だ。

 

やめて、やめて、やめて、やめて。


「蓮を、蓮を殺さないで!!!」


あたしは力を絞って、声を上げた。


「目的は済んだ。」


八岐大蛇の声が、耳に響いた。


誰かが、あたしの前に膝を付いた。


だ、誰…?


「ようやく、見つけた。」


血に染まった手で、あたしの頬に触れる。


ネチャッとした感触が、気持ち悪くて仕方がない。


誰…?


「100越しの月下美人の器を。」


真っ赤に染まった満月が、ボヤけた視線に焼き付く。


男があたしの口の中に、丸い物を入れた。


ゴクンッ。


抵抗しようにも、体に力が入らなかった。


何か…、飲まされた…?


「行くぞ、酒呑童子。」


「はいよー。」


空から飛乗物(とびのりもの)が現れた。


八岐大蛇達は飛乗物に乗り空に消えて行った。

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