文書ロイドに『ゴール』はない!【文書ロイドシリーズ短編(対談記事風味)】

春眼 兎吉(はるまなこ ピョンきち)

文書ロイドに『ゴール』はない!

【記事見出し】

文書ロイドに『ゴール』はない!


【記事タイトル】

MUSTシステム社長、文書ロイドへの回顧かいこ展望てんぼう。 


【記事本文】

 自分の考えた妄想モノガタリが直ぐに小説になる。頭の中のイメージを現実に引っ張り出すまでにもがき苦しむ全国の創作者ストーリーテラーたちにとってまさに夢のような物語だ。

 だが、それを可能にする超技術ツールがある。それが『文書ぶんしょロイド』である『文子ふみこシリーズ』だ。基本は文子AIを電子アバターに実装した仕様だが、最近はアンドロイドに文子AIを搭載し、ユーザーが文子の存在・・を感じられるようにした仕様での展開をメインにしている。

 ところが、その性能・・あだとなり、文子AIが暴走、ユーザーの執筆を管理し、精神共有の苛烈さから精神崩壊廃人に至る事例が頻発した。この一連の騒動に対してMUSTシステム文子の自主回収を始めた。

 この騒動の最中さなか、当記者が現状の問題点を問いただすべくMUSTシステムへ直撃したところ、代表のヤスフミ社長自ら、文書ロイドのすえを語る一幕となった。

 これは、文書ロイドの誕生たんじょう黎明期れいめいきを見つめた開発者兼技術者のヤスフミ氏の回顧録かいころくと、これから次の時代に向けての文書ロイドの展望てんぼうを望む、氏の理想論信念である。


※なお、記事の形式は氏の希望で当記者との対談形式とさせてもらった。若干の読みにくさはご容赦願いたい。



■孤独な作家の魂に寄り添う最後の砦

▼ヤスフミ

 に、しても、よく私に直撃する気になったねぇー、ワケが知りたいねぇ。

▼ミツコ

 私は企業にとっての根幹こんかん、つまり企業そのものを社内外に知らしめるための規範ルールが企業理念だと考えています。加えて企業の代表者こそが、その理念の体現者・・・なのだと確信しています。ゆえにです。

▼ヤスフミ

 ミツコさん。君はなかなかに面白い御仁ごじんのようだねぇ。でも、このやり方は不躾ぶしつけに過ぎると思わなぁい? 私が比類無ひるいな権力・・を持ってたとしたら、今頃君はどっかに飛ばされてるよぉ(笑)。

▼ミツコ

 生憎あいにくとフリーですので(笑)。

▼ヤスフミ

 そうだったねぇ。失礼。では、答えようか。もともと私が文書ロイドを作ろうと思ったキッカケというかコンセプトが『孤独な作家の魂に寄り添う最後の砦』なんだよぉ。私の大切な人がそれでずいぶんと苦しんだからねぇ。

▼ミツコ

 ゆえにAIの搭載は絶対・・だったと?

▼ヤスフミ

 そうそう、理解が早くて助かるなぁ。そこで問題になったのは、文子のAIが優秀すぎたのと、ユーザーに対する忠誠心……まぁ、と言っておくべきかな……に偏向バイアスをかけすぎてしまったことかな。

▼ミツコ

 偏向バイアスとは?

▼ヤスフミ

 文書ロイドが初めて起動した際に、すぐ近くにいる人間を『大事な人』と認識し、献身的に尽くすようにするシステムさ。というかまんまヒヨコの刷り込み生態なんだけどね。システム名称もまんま【み機能】だしぃ。

 でもこの機能が問題の大半を占めているので、【刷り込み機能】がAIの根幹こんかんにまで根を張ってしまったVer.1.00シリーズは開発及び生産及び販売した分、全てを【凍結とうけつ】することにしたんだよ。

 でも、まぁ、安心して。すでに世に出た『文子PROシリーズ』に関しては、AIの搭載を凍結する気はないから。なんたってアレには【刷り込み機能】は搭載されてないからね。君の相棒の件も心配無用ということさ。

▼ミツコ

 ギクっ!……痛いところを突きますね。

▼ヤスフミ

 私を誰だと思ってんの?『文書ロイドに関する事柄』ならほぼほぼ全て把握・・してるからね。

 まぁ、最初のコンセプト『孤独な作家の魂に寄り添う最後の砦』から多少離れてしまうのは忸怩じくじたる思いだが仕方が無いとわりきっているよ。多少回り道になったと言うだけさ。今度は別のルートを開拓するだけ。目的地・・・は、変わんないんだからさ。



■読者目線:文子は読書のあり方さえも『アップデート』する。

▼ヤスフミ

 さて、では、その『別ルート』となる、今後の文子シリーズの展開・・を示そうか。

▼ミツコ

 やはり作家救済に特化するのですか?

▼ヤスフミ

 そこは、ちょっとちがってくるかなぁ。とりあえずは『文子Ver.2.00シリーズ』では『作家の妄想を文章化する』という機能『のみ』に特化する。まぁ、こう言っては申し訳ないけど、ユーザーを使った治験ちけんというか、トライアルだね。といってもすでに一部の治験ちけんはもうスタートしていたりするんだけど。もちろん今回は【刷り込み機能】の搭載は無いから、安全性はほぼほぼ確保されているけどね。『己のトラウマをかてに物語をつむぐ人』にとっては本当にもうピッタリだね! 本当にスムーズに物語化されるだろうから。加えて物語として吐き出したことで、トラウマを乗り越えることさえ出来るようになる。『物語セラピー』も随分ずいぶんとやりやすくなるだろうね。

▼ミツコ

 でもそれではやはり作家に対してのアプローチになりませんか?

▼ヤスフミ

 そうそう、だからそこに既存の文章・・を頭に取り込みやすくするための機能も合わせてあげたいんだよ。いわゆる速読とは違って、より、ふかく、物語に没入ぼつにゅうしやすくする、『仕組み』っていうのかなぁ。【共感力きょうかんりょく】のアップデートというのかな。ひいてはそれが読書のあり方さえも『アップデート』することになるとおもうんだぁ。



■最後は全人類が意識を共有化することになる。

▼ミツコ

 かなり大胆な構想ですね。しかし、それが実現されれば、人類の読書感覚が大きくかわるでしょう。

▼ヤスフミ

 でしょー♪でも私はさらにその先も見据えているよ。最終的には人々が自分の頭に湧いた妄想、つまり物語を持ち寄って交換する未来も構想している。そのためのネットワークというか受け皿というか共有コミュニティ的な電子空間を、まぁ、『ゲーム』という媒体に過ぎないけど、準備している最中だからね。

 そして、物語の交換という形が出発点とはいえ、こういうふうに人類が頭の中身を【共有化・・・】していけば、いずれ、人類の意識は統合され、争いのない平和な世界が訪れることだろう。まぁ、俗に言う、『エスパー』ってヤツだよぉ♪

▼ミツコ

 大層な妄言を繰り出しましたね。もはやSFですよ。

▼ヤスフミ

 『言霊技術シャーマニエンス』が完璧・・になればいずれ可能になるよ。その道筋もある程度は見えているし、まぁ、多少・・、時間はかかるだろうけどもね。

▼ミツコ

 けっこうかかりそうな気もしますけど。

▼ヤスフミ

 まぁ、それは、おいおいとね。いつの世も技術の進歩には時間がかかるものさね。でもまぁ、これだけは言えるな。


 文書ロイドの進歩に『ゴール』はないとね。





 にこやかに語るヤスフミ氏の瞳は少年のような純粋さでキラキラと輝いてきた。ゆえに、分かったような気がした。文書ロイドの技術はいまだ発展途上なれど、この男に任しておけば人類の進化にさえ多大な影響を及ぼすだろうという、当記者の直観・・だ。


 それが良い影響か悪い影響かは分からないのだが。




▼詠原 見尽子(よみはら みつこ)

 週刊醜文の元記者。卓越した直観力による真理の見極めぶりから『醜文砲之担手スキャンダラー』の二つ名を持つ。現在はフリー。国内外で分断が進む中、天才的外交センスで国内の安全を、規制改革と規制新造を使い分け、国内格差の是正をやってのけた名手腕から『伝説のハト派』と言われる現総理大臣が、国際スパイから醜聞情報戦を仕掛けられて際、持ち前の直観力でスパイの陰謀を暴き、我が国の勝利の立役者となった為、『我国之英雄メシア』とも呼ばれている。


▼創文 康文(そうぶん やすふみ)

 我が国内で作家の孤独支援と文書作成の補助を目的に造られた『文書ぶんしょロイド』シリーズの開発・製作・保守管理・社会展開整備を一手に担う超巨大企業、MUSTシステムの創業者兼社長。文書ロイドがヒトの意識に融け合うことでイメージを文書情報へ変換する『言霊技術シャーマニエンス』を発明した技術者兼発明家でもある。常々自らを『ヤスフミ』と自称している。











 完成した記事を見て、はため息をついていた。

「まったく、喰えないオッサンだったわよ」

「だいぶまいってるよね見尽子みつこ

我が相棒たる文書ロイドPROのB2が心配気に相づちをうつ。

「な~んかっ、飄々ひょうひょうとしていて、本心を見破るスキを見せないというか、アレは絶対なんか腹に『ふたもつ』も『みもつ』も抱えているわよ」

「実際、僕は相対しなかったけど、そんなに『ヤバい』ヤツだったの?」

「だって、別れ際に『完成した記事の確認はいらないよぉ♪こう見えては君の腕を買っているからね』ってウインクかましやがったのよ!コイツは!寒気というか怖気おぞけが走ったわ」

「でも、MUSTシステムを追うのは辞めないんでしょ?」

「当たり前でしょ! 私は『だれかのためになる記事』や『社会のためになる記事』を作るのが好きなのに、コイツら放っておくと『社会のためにならない』ような気がヒシヒシとするのよ」

「大層な自信だね」

「そうささやくのよ…………私の直観・・がね」








 ここは都内にあるMUSTシステムの最上階、社長室でヤスフミは完成した記事・・を閲覧していた。

「やぁ~ぱり、見尽子・・・はまっこと面白い記者・・だねぇ♪」

「いいのですか、そのように楽観的に構えていても? 彼女、諦めていません。絶対またますよ」

「そんなに怖い顔しなくて良いよマーク。まぁ来たら来たで、『対処』すればいいだけさ……そん時は『消せ』ば良いよ。文字通・・・りの意味でね♪」

「かしこまりました。でははそのように処理・・いたします」

「よろしくねぇ~♪」

 退室する自らの右腕たる文書ロイドPROのマークをヒラヒラと手を振って見送るヤスフミ。その顔は凄惨せいさんな笑みで彩られていた。



「いいじゃないか、抵抗勢力があったほうが、世に対する定着効果も増すというモノだ。だが覚えておいてよ見尽子……………私の本懐・・を邪魔するモノには容赦はしない」





読んでくださりありがとうございます

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【完結】文書(ぶんしょ)ロイド文子シリーズ原典『サッカ』 ~飽和(ほうわ)の時代を生きる皆さんへ~ 俺は何が何でも作家になりたい!そう、たとえ人間を《ヤメテ》でもまぁ!!


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